夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(35)―お子さんの年齢に応じた手続きの特徴
2022.11.28更新
こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
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1.そもそも「監護者」って何だ?
(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。
(2)親権の意味のおさらい
そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)
(3)要するに監護権って?
上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。
(4)監護者指定審判とは?
離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。
2.お子様の年齢に応じた手続きの特徴
一口に監護者指定事件と言いましても、お子様の年齢に応じて、手続きには一定の特徴があります。
監護者指定事件では、様々な要素を総合考慮して、あなたと夫どちらが監護者にふさわしいかが決まるのですが、その中でも、以下の6個の要素は特に重要だと思います。
お子様の年齢が特に重要な意味を持つのは、下記の「4)過去の児童虐待の有無・程度」、「5)子供の意思」になります。
1)監護実績
2)連れ去りの違法性
3)現在の監護状況
4)過去の児童虐待の有無・程度
5)子供の意思
6)面会交流の姿勢
以下詳しく解説していきます。
3.お子様の年齢区分
当職が監護者指定事件を取り扱っておりますと、裁判所は、大まかに以下の年齢区分に応じて、対応の仕方を変えているように感じますので、以下の区分に応じて解説していきます。
(1) お子様が0歳から4歳ころ(以下では便宜的に「乳幼児時代」と言います)
(2) お子様が5,6歳から小学校低学年(9歳くらいまで)頃(以下では便宜的に「小学校低学年頃時代」と言います)
(3) お子様が小学校高学年(10歳ころ)以上(以下では便宜的に「小学校高学年以上時代」と言います)
4.「過去の児童虐待の有無程度」について
(1)「乳幼児時代」の場合
「乳幼児時代」のお子様は、実際に虐待と思われる行為を受けたとしても、その意味等を理解しきれず、また、そのことをしっかりと説明する言語能力も備わっていませんので、家庭裁判所調査官が直接お子様から事情を確認することは基本的にありません。
そのため、虐待の証明のためには、あなた自身がお持ちの証拠が相対的に重要になってきます。
(2)「小学校低学年頃時代」の場合
お子様の年齢が5歳以上になってきますと、ある程度の会話は可能になっていることが多いので、裁判所調査官は、直接お子様と会話をすることが多いです(但し、5歳や6歳ですと、まだお子様の言語能力の発達には個人差がありますので、十分な会話が難しいと感じた場合には、家庭裁判所調査官も詳しい会話はしないことも多いです)。
しかし、お子様の年齢に鑑みますと、事細かく過去の事実を説明することは難しい年齢ですので、調査官が虐待の有無等について事細かく確認するのかというと、そのようなことはなく、「お父さんってどんなお父さんかな?」とか「お父さんとの思い出の中で楽しかった思い出って何かな?」といった質問をして、お子様の反応に応じて虐待のこと等についても尋ねるといったケースが多いように感じます。
もちろん、虐待の有無が非常に重要な争点になっているケースやお子様が9歳で十分な会話能力があるという場合などでは、ストレートにお子様に直接、虐待の有無や内容について確認するケースもあります。
(3)「小学校高学年頃時代」の場合
お子様が小学校高学年以上の場合、ある程度の難しい会話も可能になっていることが多いので、家庭裁判所調査官は直接虐待の有無や具体的詳細を尋ねることが多いです。
なお、このぐらいの年齢になると、お子様自身があなたに対して「調査官からどのようなことを聞かれるのか?」とか「どのようなことを聞かれるのか分かっているなら、事前に準備しておきたい」といったことを言ってくることもあります。
ただ、調査官調査は面接試験ではありませんし、面接試験対策のようにして準備をすると逆効果になるケースが多いので、あまり特別な準備はしない方が良いことが多いと思います(もちろん、どのようなことを聞かれそうなのかについて概要は説明しておいて良いと思いますが「○月〇日どこどこでこれこれのことがあったから、そのことはすごく記憶によく残っていると伝えなさい」といったような面接試験対策のようなことはしない方が良いという意味です)。
5.「お子様の意思」について
(1)「乳幼児時代」の場合
「乳幼児時代」のお子様は、現在自分が置かれている状況を正確に理解したり、自分の意思をしっかりと説明する言語能力も備わっていませんので、家庭裁判所調査官が直接お子様の意思を確認することは基本的にありません。
但し、お子様と夫とを面会交流させてきた場合には、交流時の反応や、交流後のお子様の様子等は、参考情報として考慮されることがあります。
(2)「小学校低学年頃時代」の場合
お子様の年齢が5歳以上になってきますと、ある程度の会話は可能になっていることが多いので、裁判所調査官は、直接お子様と会話をすることが多いです(但し、5歳や6歳ですと、まだお子様の言語能力の発達には個人差がありますので、十分な会話が難しいと感じた場合には、家庭裁判所調査官も詳しい会話はしないことも多いです)。
ただ、お子様に対して「お父さんのところとお母さんのところどっちと一緒に住みたい?」といった質問をすることはなく、通常は「今の生活はどうか?」とか「引越前の生活はどうだったか?」といった尋ね方をするケースが多いと思います。
また、お子様の理解力に応じて、簡単な心理テスト等を行い、内心を確認することもあります。
(3)「小学校高学年以上時代」の場合
「小学校高学年以上時代」の場合も「小学校低学年頃時代」の場合と大きな差はなく、調査官がお子様に直接意思確認をすることが多いです。但し、この年齢になると心理テストを実施することは少ないと思います。
6.調査官調査の特徴
お子さんの年齢に応じて、家庭裁判所調査官による調査にも差が生じますので、以下概要をご説明します。
(1)「乳幼児時代」の場合
乳幼児の場合には、まだお子さんは十分に発言できない年齢ですので、家庭裁判所調査官は、お子さんの発言ではなく、保護者であるあなたの気配りや対応という部分に重きを置いて調査が実施されることが多いです(但し、もうお子さんが4歳に達していて、かなりコミュニケーションをとれる状況になっている場合には、調査官がお子さんと直接会話するケースの方が多いです(これは、お子さんの成長の具合によります))。
具体的には、まず、家庭訪問の際には、お子さんが誤飲・転倒等をしないような配慮がなされているか(要するに、引出し等にチャイルドロックがかかっているのかとか、小物がお子さんの手の届かないようなところに置いてあるのかといった点)、お子さんの反応に応じてどのようにあなたが対応するのかといった点を中心に確認が行われます。
また、お子さんが十分に言葉を発することができない年齢ですので、あなたとお子さんが遊んでいる様子などから、あなたとお子さんとの関係性等を見極めようとすることが多いです。
(2)「小学校低学年時代」の場合
お子さんが小学校低学年時代の場合、小学校教育が開始して(または、小学校入学に向けた準備が開始して)いますので、お子さんの学習環境がどのように整えられているのかという点が相対的に重要になってきます(但し、お子さんが小学校入学前であると、ある程度の教育面の確認はしますが、どちらかというと、「乳幼児時代」の際同様、あなたの気配り等の方を重視して調査するケースも多いです)。
そのため、家庭訪問の際にも、どの程度学習環境が整っているか、学校から出された宿題や課題への取り組み方等を確認することに重きが置かれていきます。合わせて、もうお子さん自身が自発的に挨拶や自宅内の案内等を出来る年齢ですので、その様子等を調査官は見極めようとしてくることが多いです。
また、お子さん自身が平易な会話は可能なので、調査官はお子さんと1対1で話をすることが多いです。
(3)「小学校高学年以上時代」の場合
お子さん自身が難しい言葉もある程度理解するようになっており、合わせて、家庭環境やそのような環境の中で自分が置かれた立場等についても大なり小なり理解していることが多いため、お子さん自身の発言や意思が、より重要性を増してくることになります。
このようにお子さんが「小学校高学年以上時代」の場合でも、家庭訪問は行い、その際に、監護環境の確認は行われますが、それ以上に、調査官とお子さんとの1対1での会話の内容がより重要性を増していくことになります。また、そのような会話の際には、お子さん自身が過去の経緯等についても十分自分の経験や意思を言葉にすることができる年齢ですので、より突っ込んだ確認が行われることも多いです。
7.その他
その他にも、「乳幼児時代」の場合、監護実績の証明にあたっては、保育園の連絡帳の持つ意味合いが非常に重要になるとか、面会交流にあたっても、お子様だけを預けることが難しいので、交流方法についても慎重な検討を要するなど、お子様の年齢に応じて、証拠集め等の準備や手続きへの取り組み方が異なってくるのですが、詳しくは弁護士にご相談ください。
8. まとめ
・お子様の年齢区分としては、以下の3区分で特徴が変わってくる。
① お子様が0歳から4歳ころ(以下では便宜的に「乳幼児時代」と言います)
② お子様が5,6歳から小学校低学年(9歳くらいまで)頃(以下では便宜的に「小学校低学年頃時代」と言います)
③ お子様が小学校高学年(10歳ころ)以上(以下では便宜的に「小学校高学年以上時代」と言います)
・監護者指定の重要要素の中でも「過去の児童虐待の有無・程度」「お子様の意思」の項目で対応が異なってくることが多い。
・家庭裁判所調査官による調査の際にも、お子さんの年齢に応じた特徴がある。
・その他にもお子様の年齢に応じて対応が異なってくる箇所やケースがあるので、詳しくは弁護士に相談してみるとよい。
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