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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(32)―子供へのモラハラはどの程度考慮されるのか?

2022.10.24更新

弁護士秦

こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
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1.そもそも「監護者」って何だ?


 

(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

2.子供へのモラハラって?


 モラハラについては 「言葉、態度、文書などによって継続的に相手の人格や尊厳を傷つける精神的な虐待行為」などと定義されたりしますが、これだけではピンと来ない方が多いと思います。具体的にお子様との関係での夫の発言や行動で「モラハラ」と評価し得るものとしては以下のようなものがあります(これが「モラハラ」の全て、というわけではなく、あくまで代表例とお考え下さい)。
なお、夫がお子様に直接手をあげるケースは、もはやDVに該当しますので、一旦モラハラとは分けて考えます(以下では、このようなDVにまでは達していないケースを想定して解説いたします)

(1)お子様に対して暴言を吐く
 お子様へのモラハラの典型例のようなケースですが、より詳しく見ますと以下のようなものがあります。なお、暴言やあなたやお子様ご本人に向けられるケースだけでなく、パパ友やママ友、お子様の友人等が集まる場所等で発言されると、より一層お子様は傷つくことになると思います。
①お子様を侮辱するような発言をする(「バカ」「アホ」だとかの単純なものから、お子様の容姿を侮辱するもの、お子様の学習能力や知識不足等を侮辱するものなどがあります)
②お子様に危害を加えるような発言をする(「一度殴られないと直らないのか?」、「むしゃくしゃしてお前を殺してしまいそうだ」等々)
③叱責する際などに敢えてお子様が傷つくようなことを言う(例えば「テストの点が悪かったから、おまえのこのゲームは捨てるからな」、「朝の勉強をさぼっていたから、週末はお出かけ禁止な」とか「遊びに行ってる暇があったら、ドリルを1ページでも進めとけよ」等)

 

(2)執拗な責め立て等
 これもお子様へのモラハラとしてはよく見られるケースですが、より詳しく見ますと以下のようなものがあります。
①些細な問題を執拗に責め立てる(「この前のテストで90点だった理由をしっかりと説明しろ」「昨日音楽の笛を学校へ持って行き忘れたことの反省文を書け」「この前の誕生日会で俺に恥をかかせたことについて、参加者に謝ってこい」等々)
②責め立てが何時間も延々と続く
③責め立てが夜中や早朝など時間を問わず長々と続く
④責め立ての際、正座や土下座を強要する

 

(3)物への八つ当たり等
 例えば、機嫌が悪いと物に当たり散らす。大きな物音を立てる(席を立つ際に椅子を乱暴にテーブルにぶつける、大きな音を立ててドアを閉める等)といったものです。
 特にお子様が大事にしているものとか、お子様のデスクや衣装ケースなどを傷つける行動は、お子様にもショックが大きいと思います。

 

(4)行動監視や強要
 例えば、以下のようなものがあります。
①お子様のスマートフォンにGPSアプリを入れて頻繁に位置情報を確認してくる
②門限その他家庭内のルールを作って、お子様に強要する(勉強の時間は何時からとか、入浴の時間は何時からなどと細かく決めた上で、1分でも過ぎると執拗に責め立ててくるとか)
③お子様が口にするお菓子等について夫の気分次第で種類や値段を制限してくる

 

3.お子様へのモラハラは、どこまで考慮されるか


 上記のようなモラハラは、頻繁であったり、執拗であったりすると、お子様はもちろん、あなた自身も非常に窮屈で、普段の生活において常に緊張を強いられるような大きな心理的負担を生じるケースも多いと思います。
 ただ、これらのモラハラがストレートに監護者指定に大きな影響を与えるのかと言いますと、残念ながら、影響は「大きくない」という印象です。
 裁判官や裁判所調査官は、第1次的には暴力行為があったかなかったか、そのことでお子様自身が怪我をしたことがあったかなかったかという点を気にかけ、これらがなかったということになると、虐待事案としては、大きな虐待はなかったと捉えがちなのです。

 

4.お子様への意思確認で生きてくる


 上記のようにご説明しますと、「それなら子供へのモラハラを主張しても意味ないんですね」とか「子どもへのモラハラの証拠は不要ですね」とおっしゃる方もいますが、そうではありません。
 モラハラそのものは、直接監護者指定に大きな影響はないとは言っても、全く無関係ではないからです。
 また、特に、お子様が夫側を嫌がっているとか、接点を持ちたくないと発言しているような場合には、その根拠として意味を持ってきます。
 要するに、監護者指定事件では、様々な要素が考慮されるのですが、お子様が一定の年齢に達している場合、「お子様の意思」も重要な判断要素の一つになります。
 お子様が夫側を嫌がっているとか、接点を持ちたくないと発言しているような場合、家庭裁判所調査官は、必ず理由を尋ねますので、その際に、モラハラ行為の存在が生きてくるのです。

 

 

5.モラハラ行為をこちらに有利に活かすには


 前述の通り、お子様の意思確認の段階で、モラハラ行為の存在はそれなりに意味を持ってくることになります。
 ただ、こちらが夫のお子様に対するモラハラ行為を主張しても、夫側が全否定してくるケースも往々にしてあります。
 そのため、モラハラ行為を監護者指定事件で活かしていくにあたっては、やはり、その証拠がどの程度あるのかという点が重要になってきます。
 録音が最たるものですが、夫側が壁や床、物を破壊したといった場合には、その写真も有効な証拠になります。

 

 

6.まとめ


・お子様へのモラハラには、①暴言、②執拗な責め立て、③物への八つ当たり、④行動監視や強要といったものがある。
・DVに至らないモラハラは、裁判官も重要視しないケースが多い。
・だからと言ってモラハラを指摘しなくて良いということではない。
・モラハラの存在は、お子様の意思確認の際に活きてくる。
・重要なのはモラハラの証拠集めである。

 

 

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投稿者: 弁護士秦真太郎

夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(31)―監護者指定事件で重視される「児童虐待」とはどのようなものを指すのか?

2022.10.17更新

弁護士秦 

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1.そもそも「監護者」って何だ?


 

(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.児童虐待とは?


 どのような行為が児童虐待に該当するかについては、児童虐待防止法に定めがあり、具体的には以下の通りです。

 

【児童虐待防止法より引用】

第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

 

 

3.それぞれの詳しい解説


 児童虐待防止法の定めは前述の通りですが、これだけを見ていても理解しにくいと思います。今回は、特に、監護者指定事件で重視されるような「児童虐待」について解説していきます。

(1)お子様への暴力
 前述の通り、児童虐待防止法上は、お子様に怪我ができるか、怪我ができる可能性があるものを一つの線引きとしています。
 もちろん、このようにお子様に対して直接暴力を振るい、お子様に現実に怪我ができたり、怪我ができる可能性がある場合には、監護者として即不適格ということになろうかと思います。

 ここでの「怪我ができる可能性がある」というのは、それだけの強い威力の暴力ということですので、例えば、①DV夫がお子様を殴ったケースなどで、お子様がよけたので怪我をしなかったけれども、拳が壁に当たって壁が大きくへこんでしまったとか、②お子様が咄嗟に逃げたので怪我をしなかったけれども、DV夫が凶器を振り回したケースなどがこれに該当します。
 ただ、このようにお子様が怪我をする危険性があるような暴力でなくとも、お子様自身がDV夫からの暴力被害を記憶していて、そのことが理由でDV夫のことを怖がっているといった事情がある場合には、監護者指定にあたっても、夫側に大きく不利な事情になります。

 

(2)お子様へのわいせつ行為

 夫側がお子様に対してわいせつ行為に及んだことがあったり、お子様自身にわいせつな行為をさせたことがあるような場合には、直接の児童虐待に該当しますので、監護者として即不適格ということになろうかと思います。
 監護者指定事件で争われる場合には、上記のような直接的な性的虐待ではなく、①夫がお子様に対して性的に不適切な言動に及ぶ場合や②お子様の前であるにもかかわらず、性的描写のある映画や動画、本等を鑑賞するといったケースの方が多いかと思います。

 このようなケースでは、このような性的虐待についてどこまで客観的に証明できるのか、それがお子様にどこまでの悪影響を及ぼしているのかがキーポイントになってくるかと思います。なお、お子様の年齢によっては、性的虐待の意味合い等をお子様自身が十分認識できず、そのことについて自ら口に出して表現できないことも多いと思いますが、実際にはお子様の心の奥底に傷跡を残していることも多いので、小児心理の専門医に相談してケアをしていったほうが良いケースもあろうかと思います(当該医師から、性的虐待の後遺症が残っているような診断がなされた場合、その診断結果も重要な証拠になります)。

(3)ネグレクト
 上記の通り、児童虐待防止法にて「児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。」と規定されているものですが、いわゆるネグレクトのことを意味します。
 監護者指定事件では、同居中の言動や行動を問題にすることが多いので、ネグレクトは取り上げにくいというのが実際のところではないかと思います。

 例えば、あなたが週末出かけた場合で、夫が自宅でお子様の面倒を見ていた際、ネグレクトをしていたというようなケースですと、夫がそのようなことを繰り返していた場合、残念ながら、あなた自身に対しても、裁判所は「どうしてそんな夫にお子さんを任せて出かけたのか」ということで責められる危険性が高いのです。
 このように同居中の夫側のネグレクトは、あまり極端なものであった場合には、どうしてあなたが防止できなかったのか、ケースによっては、防止する意識が薄かったのではないか?とか、黙認していたのではないか?と裁判所から言われてしまい、あなた自身の育児の問題点とされてしまう危険性もあるのです。

(4)お子様への暴言・面前DV
 児童虐待防止法2条4号は、DV夫からお子様への直接の暴言と面前DVを児童虐待と定めています。以下では暴言と面前DVに分けて解説していきます。

ア 暴言
 児童虐待防止法は、「児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応」を児童虐待と定義しています。要するに単なる暴言ではなく「著しい」暴言のみを対象にしているのです。
 ただ、その暴言が「著しい」ものなのかの区別は非常に難しく、こと監護者指定事件では、著しいものかどうかを問わず、暴言を受けることでお子様にどのような悪影響が生じてしまっているのかという観点を重視する傾向が強いです。実際のところ、DV夫が発した口頭の言動を細かく確定することは不可能に近いので、お子様自身がどう受け取ったのか、どう感じているのかといった観点から検討していく他ないのです。
 特に、お子様が①DV夫からの言動が怖かったとか、そのことで夜なかなか寝付けなかったといった話をしているとか、②DV夫の言動を真似て他の友人にそのような発言をしてしまったといった場合には、DV夫側は監護者指定で大きく不利になるケースが多いと思います。

イ 面前DV
 面前DVは、児童虐待防止法上、児童虐待と位置付けられているのですが、監護者指定事件では、あまり重視されない傾向が強いです。裁判所は、妻側に対する暴力は、夫婦間の問題と考える傾向が強く、そのことがストレートに監護者としての適格性に大きな影響を与えないと考える傾向が強いのです。
 もちろん、面前DVでお子様の心身に具体的な悪影響が生じてしまっているといったケースでは、そのような事情も監護者指定にあたって重視されますが、そうでない場合には、残念ながら、あまり重視されないとお考え下さい。

 

 

4.監護者指定事件で争っていくにあたっての基本的な視点


 このように児童虐待のお話をしますと、「夫がそのような発言に及んでいたことがないかよく思い出してみます」と反応なさる方が非常に多いのですが、どちらかと言いますと、昔のことを思い出すというよりも、「どのような裏付けがあるか」をしっかりと確認することの方が重要性が格段に高いです。
 裏付けもなく言い分を述べても、DV夫側は「そのような事実はない」と否定してくることが多いので、そうなると、裁判所も、そのような言動があったかなかったかを明確に判断できないのです。

 

 

5.まとめ


・児童虐待については児童虐待防止法で大きく以下の5つを定義している。
 ①お子様への直接暴力
 ②お子様への性的虐待
 ③ネグレクト
 ④お子様への著しい暴言等
 ⑤面前DV
・監護者指定事件の中での児童虐待の重要性は、児童虐待防止法の定めとずれる部分もあるので注意が必要である。
・監護者指定事件では、「過去の児童虐待をよく思い出す」というよりも「その裏付けを探す」ということの方が、重要性が高い。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(30)―どんなケースで保全の結論が先に出されるのか?

2022.10.03更新

弁護士秦

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神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。

 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.監護者指定事件は実は3個の事件が同時並行で審理されている


 「監護者指定審判事件」と言いますと、事件は「1個」のように誤解されがちですが、監護者指定審判事件では、子の引渡し審判事件と、これらの事件の保全事件も一緒に申し立てられているのが通常です(よく「三点セット」などと言われたりします)
 そして 保全事件(仮処分などと言ったりもしますが)は、一般的な審判事件よりも特に急いで結論を出してほしいと要求する事件ということになります。言い換えると、暫定措置として子の引渡し等の結論を出してほしいという申立てになります。

 

 

3.裁判官から「保全の結論を先に出す」と言われたがどういうことか?


(1)前述の通り、監護者指定事件では、①監護者指定事件と②子の引渡し事件、③保全事件の3つの事件が同時並行で審理されています。
 「保全の結論を先に出す」というのは、上記の①と②の事件の結論が出る前に、先に③の結論を出すということになります。

(2)要するにどういうことか?
 特にお子様をあなたが育て続けることで問題がないようでしたら、保全事件のみ先行して結論を出す必要はありません(上記の①から③の事件を同時並行で審理継続すれば良いという意味です)。
 そのため、「保全の結論を先に出す」という意味は、監護者指定を申し立てた夫側のいう通りに、暫定的にせよ、仮の監護者を夫に指定する、お子様を引き渡せという結論を出すという意味です。
 そして、保全についての結論が出た場合、これに対して不服申し立て(即時抗告と言います)をしても、執行停止が認められないと、保全に基づく執行が実行されて、お子様を夫側に引き渡さなければならなくなります。
 そのため、裁判官が「保全の結論を先に出す」と発言したことは、こちらにとって不利な結論を想定しているとイメージした方が良いです。

 

 

4.どんなケースで保全先行となるのか?


 保全先行となる事件は複数あり得るのですが、以下では代表的なものをご紹介いたします。

(1)あなたが海外での生活を近日中に予定している
 一時的に海外出張を予定しているとかであれば、それだけで保全の結論が先行する可能性は低いのですが、数年単位で海外に生活する予定であるといった場合には、仮に夫側の監護者指定事件の申立てが認められても、それを執行し得ないという事態になり得ますので、保全の結論が先行することがあり得ます。

(2)連れ去りの違法性が顕著な場合
 特に夫側に事前に別居のことを相談していなかったとしても、①これまであなたが中心となってお子様の育児を担ってきたこと、②お子様自身は別居に同意していたことという両方の条件を満たす場合には、それが「違法な」連れ去りと評価される可能性は極めて低いです。
 逆に、上記の①と②の条件のいずれか又は両方を満たさず、連れ去りの違法性が顕著だと認定されてしまいますと、裁判所も「早くお父さんのところにお子さんを返してあげたほうが良い」と考えて保全の結論を先行させることもあり得ます。

(3)虐待の危険性が高い場合
 監護者指定事件になりますと、夫側があなたの逆外を疑っている旨の主張がなされることが多いのですが、それだけで保全が認められることはまずありません。
 ただ、その虐待主張に裏付けがあり、その内容次第では裁判所が保全の結論を先行させるということもあり得ます。

(4)住居の不安定性
 あなたの住居が友人宅を転々としているというような場合には、残念ながらお子様の住環境が一定しないと言ことになり、お子様にとって少なからず悪影響となっていることは否めません。
 そのため、その内容によっては、保全の結論先行となるケースもあります。

(5)上記のような事情があればすぐに保全先行となるわけではないこと
 保全事件の結論を出すためには、監護者指定事件が認められる「蓋然性」が必要だとされています。
 すなわち、「夫側が監護者としてふさわしいという結論に至る可能性が高い」という状況が必要だということです。
 そのため、代表的なケースを前述の通りに紹介しましたが、そのような事情があっても、それまでのお子様の育児をあなたが担っていて、今後もその育児を継続した方が望ましいというケースですと、保全先行となることはほとんどないかと思います。

 

 

5.まとめ


・保全事件(仮処分などと言ったりもしますが)は、一般的な審判事件よりも特に急いで結論を出してほしいと要求する事件のことである。
・保全先行というのは、暫定的に夫側を仮の監護者に認める結論を想定している可能性が高い。
・代表的なケースとしては、以下のようなケースで保全先行とされることがあり得る。
 ①あなたが海外での生活を近日中に予定している
 ②連れ去りの違法性が顕著な場合
 ③虐待の危険性が高い場合
 ④あなたの住居が不安定な場合
・上記の①から④の事情があっても、夫側が監護者にふさわしいというような事情がないと保全先行で結論を出すことは少ない。

 

 

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