離婚問題

夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(64)―夫はどうして「離婚したくない」などと主張するのか?

2023.10.02更新

弁護士秦
こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

 

1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.夫は、いまだに「離婚はしたくない」と言っているが、こんなことはあるのか?


 実際、私が担当した事件ですと、夫が監護者指定事件を起こしながら、夫婦関係についてはヨリを戻したいと言ってくる夫はかなりの数います。
 そのため、私の感覚で申しますと、「そんなに特殊な話ではありません」という回答になります。

 

 

3.夫の監護者指定審判申立書を読む限り、妻への攻撃ばかりなんですが…


 夫の監護者指定審判申立書を見ますと、どれだけ夫が育児に関わってきたのか、逆に、あなたの育児が至らなかったのかを縷々述べていますので、読んでいて「これだけ私の事を攻撃しておいて、良く離婚したくないなんて言えたものだ」と感じる方もかなり多いです。
 しかも、夫の言い分が正確な事実でしたらまだしも、虚偽や誇張が多いため、一層妻側の不信感が増すというケースは多いです。

 

 

4.夫は何を意図しているのか?


 私が実際に担当した事件での夫側の様子を見ていると、いくつかのパターンがありますので、以下の通り整理します。

(1)【パターン1】こちらが主張している離婚理由を全く理解していない・理解しようともしない。
 監護者指定事件で争っている場合、こちらからは平行して離婚調停を申し立てるなどして対応しているケースも多いです。
 その場合、こちらからは離婚したい理由をしっかりと伝えているのですが、夫側が全く理解していない・理解しようともしないということもあります。
 極端なケースですと、夫側から「こちらが妻から嫌われる理由がない」とか「どうして離婚と言われるのかがよく分からない」という主張がなされることすらあります。

 そのため、夫側は、「監護者指定事件で争いはするけれども、妻と別れたいわけではないんです」などと主張してくるのです。
 また、このような夫がよく口にするフレーズは「自分は暴力を振るったり、浮気をしたこともないので、後ろ指を指されるようなことは一切ない」とか「こんなことは他の家庭でもよくあることだと思いますので、これで離婚というのはおかしいと思います」といったものです。

(2)【パターン2】法律上の離婚原因がないことを証明したいというパターン
 どちらかというと、夫側の反応としては【パターン1】のケースの方が多いのですが、たまに、「法律上の離婚原因がないことを証明したい」と言い出す夫もいます(【パターン2】のケース)。
 要するに、離婚裁判などで、自分に非がないことをしっかりと証明したいというパターンでして、実際には夫婦の今後というよりも、夫自身の正当性を証明することを重視しているのです。
 特に自身のキャリアなどを重要視する夫ですと、「これまでの婚姻生活で過ちを犯していないことを証明したい」という考えを持つことが多いようです。

(3)【パターン3】他の離婚条件の話を進めたくない
 このようなパターンも相当数あるのですが、夫側としても、あなたの様子などを踏まえて、内心では、離婚は避けられないと感じていても、離婚に応じてしまうと親権や養育費・財産分与といった議論をスタートしなくてはいけなくなるので、このような議論をしたくないがために、「離婚したくない」と言ってくるのです。
 夫側も内心では「離婚やむなし」と思ってはいますので、離婚裁判になる前に夫側が離婚には応じて来たり、離婚裁判になった直後から、「離婚は争いません」と言ってくることも多いです。

(4)【パターン4】単純に寂しい
 上記の【パターン1】から【パターン3】と複合して夫側が述べてくることも多いのですが、お子様もいる生活だとにぎやかだったのが、急に別居で家庭内があまりに静かで「やりきれない」「寂しい」というパターンです。
 このような一人だけの生活は「どうしてもやりきれない」という感情が強いと、今後の離婚についても長期化することも多いです。

 

 

5.こちらは粛々と手続きを進めていく他ない


 夫が上記のように離婚したくないと述べたとしても、こちらは離婚の意思が固いことが多いと思いますので、粛々と手続きを進めていくしかありません。
 ただ、夫側が真剣に「離婚する理由が分からない」と考えている場合には、最後の最後までこちらが夫を嫌悪していることは伝わらないというケースもあります(その場合には、最終的に離婚裁判の判決で離婚を決めてもらうことになります)

 

 

6.まとめ


・夫側が監護者指定事件を起こしつつ「離婚したくない」と述べてくるケースはそれほど珍しい話ではない。
・夫側は監護者指定事件の中でこちらのことを積極的に攻撃しているが、それと離婚するかどうかは別個の問題だと捉えている。
・夫の「離婚したくない」は、本当に「離婚すべき理由が分からない」というケースもあれば、内心離婚は避けられないと思いながらも、今は離婚に向けて話し合いたくないというケースもある。
・こちらは、夫の意思はどうあれ粛々と手続きを進めていくしかない。

 

 

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投稿者: 弁護士秦真太郎

夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(63)―特に子供の習い事に関しては夫の方が熱心に対応していたという場合、夫に有利に働くか?

2023.09.18更新

弁護士秦
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1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.夫が習い事に関して熱心に関わっていた


 夫側がお子様の習い事に熱心に関わっていたというのは、男の子のお子さんの場合、サッカーを習っていて、そのサッカーチームの送迎を手伝ったり、自主練習の時に練習の手伝いなどをしたとか、女の子のお子さんの場合、ピアノのレッスンの送り迎えをしたり、発表会に向けての自主練習の手伝いをするといったものです。
 なお、今回の解説は、夫側がかなりの割合で習い事に関わり、相対的にあなたの関わりが少ないというケースを想定して解説します。
 要するに、お子様が複数の習い事をしていて、その一つは夫側が直接かかわり、他の習い事はあなたが直接かかわるように、夫婦で習い事の関わり・負担をうまくシェアしていたようなケースは除きます(このようにシェアしていたケースですと、習い事の面で夫婦間で優劣がつかないと思われるからです)。

 

 

3.監護者指定事件で重視される「子どもとの関わり」って?


 監護者指定事件で重視されるのは、お子様の「育児」という面で、どこまで関与していたのかという点です。
 具体的には、お子様の衣食住にどの程度親御さんが関わってきたのか、という点が重視される傾向が強いです。

 「衣」というのは、お子様がまだ小さい年齢の時には、おむつ替えや着替えの補助、もう少し年齢が上がったお子様の場合には、季節に合った服装をさせること、そのような洋服を購入すること、および身だしなみや清潔さの確保を意味します。
 次に「食」というのは、お子様の食事の支度を意味し、お子様の栄養バランスを確保し、少なくとも平均的な健康状態や成長を保つことができているのかどうかという点です。お子様が持病を持っていたり、アレルギーを持っているような場合には、それに対してどのようにケアしているのかという点も重要な要素になります。
 最後に「住」というのは、お子様の安心できるような清潔かつ整理整頓された住環境が確保されていることを意味しますが、この中には、お子様の躾や教育面も含めた意味で使うこともあります。

 このように、お子様の習い事は、「住」にある程度関連する項目になってくると思います。

 

 

4.「習い事に関わっている」ということをどう評価するか


(1)衣食住にある程度関連してくる
 習い事は、スポーツですとお子様の身体づくりに役立ちますし、学校教育との関係でも体育等の科目にも影響があります。音楽関係ですと、学校教育との関係でも音楽の科目に影響があります。
 また、集団行動に関わってくることも多く、お子様の躾に関わってくる側面もあります。

(2)お子様の意識・希望への影響
 お子様の年齢にもよりますが、家庭裁判所調査官が、お子様と直接話をして、お子様にとって父親がどんな父親なのかといったことを確認することも多いです。
 その際には、お子様にとって、習い事によくかかわってくれる父親だという場合には、好印象を持っている場合もあり、このような心情調査で夫側が多少有利になる可能性はあります。

(3)以上のように、夫が習い事に熱心に関わっている場合には、多少なりとも夫側の有利に働くことにはなります。ただ、直接的な教育等とは別ですので、その内容がよほど特徴的な場合を除き、そこまで夫側に大きく有利になる話ではありません。

 

 

5.どのように対策するのか?


 監護者指定事件において、裁判官は、夫婦の言い分を鵜呑みにするのではなく、どの裏付けからどのようなことが言えるのかということを重視します(要するに、単なる「言い分」よりも裏付け証拠の方を重視するという意味です)。
 特に、夫側が習い事に関わってきたという場合には、習い事に関わっているときの写真などを提出してくるパターンが多いです。
 そのため、まずは、この写真について問題があるようでしたら、それを指摘して切り崩すという作業をすることが多いです。

 

 

6.習い事への関与がお子様の心理的負担になっている場合


 夫側が習い事に関わることがお子様の大きな負担になっているというケースもかなり多いです。
 実際に私が担当した事件では以下のようなものがあります。
① 野球の試合でミスをすると夫に強く叱責されるので、子供は試合に出たくないと言うことが多かった。

② 野球のレギュラーを取れないとペナルティーを与える(例えば誕生日やお年玉がなしになるとか)ので、息子が泣いてしまうことも多かった。

③ 夫からサッカーの自主練習に付き合わされて、子供は常にへとへとだった。

④ サッカーの練習の送迎の際、夫の小言がひどく、いつも子供は憂鬱そうであった。

⑤ 娘は嫌がっているのに、夫がいつもダンス教室の送迎をしたがるので困っていた。

⑥ 夫は楽譜も読めないのに、娘の自宅でのピアノ練習に口を挟んでくるので、練習の邪魔になっていた。

⑦ 娘のスイミングの送迎を夫が担当していたが、迎えの際にはビール片手に酔っぱらっていることが多く、娘はかなり嫌がっていた。

 程度の大小はあるのでしょうが、夫が習い事に関わることでお子様にとって心理的な負担になっていたという場合には、夫側の貢献というよりも、むしろ悪影響とも言えますので、このような問題がある場合には、しっかりと指摘していく必要があります。

 

 

7.まとめ


・夫がお子様の習い事に熱心に関わっていたという事情は、お子様の衣食住の「住」に関連する事情である。
・そのため、習い事での関わりも、監護者指定事件に多少なりとも影響はある(特別な関わりでもない限り、大きな影響はない)。
・夫側が習い事に熱心に関わってきたという場合、写真などを証拠提出してくるパターンが多い。
・対抗策としては、写真の問題点を指摘したりすることが多い。
・また、夫の関わりがお子様の心理的負担になってしまっているケースも多いので、そのような事情がある場合にはしっかりと指摘していく必要がある。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(62)―特に子供の遊びの面等では夫の方が熱心に対応していたという場合、夫に有利に働くか?

2023.09.11更新

弁護士秦
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1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.要するにどういう話?


 これは、お子様との関わり方のどこに重きを置くのかの違いでもあるのですが、お子様と一緒に遊ぶこと、一緒に出掛けることに強い重きを置く夫もいます。
 そして、このことを実践している夫側からは、夫の方が妻よりも子供に強くかかわっているという主張をしてくるのです。
 この説明だけですと、やや抽象的ですので、実際に、夫側がどのような言い分を述べてくるのかをご説明します。

 (1)子供は、いつも週末は私(夫)と出かけていて、妻とは出かけたがりませんよ。

 (2)子供は、知人や友人の目から見ても「パパっ子」で、どこに行くにも着いてきますよ。

 (3)地元の知人や友人に聞いてもらえば良いですが、子供がいつも公園で一緒に遊んでいるのは私(夫)で、妻が一緒に遊んでいることは見たことがないと口を揃えて言いますよ。

 (4)子供の好みに合わせてプレゼントや企画をするのはいつも私(夫)で、妻はいつも任せきりですよ。

 (5)パパ友やママ友との交流は、ほぼ私(夫)しかしておらず、妻は、ほぼ全く交流がありませんよ。

 (6)子供の長期休み(夏休みや冬休み等)も、子供は私と出掛けて、妻とは出掛けませんよ。

 (7)家族で室内で過ごすときにも、子供は私(夫)に○○をしようと、遊びをせがんできますが、妻にはせがんでいませんよ。
 そして、夫の方がお子様と過ごす時間が圧倒的に長いなどと言って、夫とお子様で撮った写真などを沢山証拠で提出してくることもあります。

 

 

3.結局「子どもとの関わり」って?


 監護者指定事件で重視されるのは、お子様の「育児」という面で、どこまで関与していたのかという点です。
 具体的には、お子様の衣食住にどの程度親御さんが関わってきたのか、という点が重視される傾向が強いです。

 「衣」というのは、お子様がまだ小さい年齢の時には、おむつ替えや着替えの補助、もう少し年齢が上がったお子様の場合には、季節に合った服装をさせること、そのような洋服を購入すること、および身だしなみや清潔さの確保を意味します。
 次に「食」というのは、お子様の食事の支度を意味し、お子様の栄養バランスを確保し、少なくとも平均的な健康状態や成長を保つことができているのかどうかという点です。お子様が持病を持っていたり、アレルギーを持っているような場合には、それに対してどのようにケアしているのかという点も重要な要素になります。
 最後に「住」というのは、お子様の安心できるような清潔かつ整理整頓された住環境が確保されていることを意味しますが、この中には、お子様の躾や教育面も含めた意味で使うこともあります。

 このように、お子様の遊びに熱心に関わってきたという点は、直ちにお子様の衣食住に関わる話ではありません。

 

 

4.「遊びに付き合っている」ということをどう評価するか


(1)単純に「遊び」と言い切れるのか
 前述の通り、「お子様と一緒に遊ぶ」ということは直ちにお子様の衣食住に関わる話ではありません。
 ただ、お子様と関わる時間が長くなれば、ただ単に遊んでいるだけではなく、間に一緒に昼食をとったり(食事の支度という意味での「食」に関わる)、遊んでいる途中で洋服が汚れてしまって着替えたり、帰宅後に汚れた洋服を洗ったりということも出てくると思いますし(これを夫側が担当すれば「衣」に関わったものと言える)、他のお友達との関わりで躾を学んだりすることもあるでしょうし(広い意味での「住」に関わる)、遊びに行く先では、学校で必要な文房具を購入したり、お子様のスポーツなどにも関わる機会が生まれるかもしれませんから(広い意味での「住」に関わる)、単純に「一緒に遊んでいるだけ」ではないことも多くなると思います。
 その意味で、衣食住と完全に切り離せないということも多いかと思います。

(2)お子様の意識・希望への影響
 お子様の年齢にもよりますが、家庭裁判所調査官が、お子様と直接話をして、お子様にとって父親がどんな父親なのかといったことを確認することも多いです。
 その際には、お子様にとって、よく遊んでくれる父親だという場合には、好印象を持っている場合もあり、このような心情調査で夫側が多少有利になる可能性はあります。

(3)以上のように、夫が長時間お子様と遊ぶなどしている場合には、多少なりとも夫側の有利に働くことにはなります。ただ、前述した「衣食住」の中心的な出来事ではありませんので、そこまで夫側に大きく有利になる話ではありません。

 

 

5.どのように対策するのか?


 監護者指定事件において、裁判官は、夫婦の言い分を鵜呑みにするのではなく、どの裏付けからどのようなことが言えるのかということを重視します(要するに、単なる「言い分」よりも裏付け証拠の方を重視するという意味です)。
 特に、夫側がお子様の遊びに関わってきたという場合には、遊んでいるときの写真などを大量に提出してくるパターンが多いです。
 そのため、まずは、この写真について問題があるようでしたら、それを指摘して切り崩すという作業をすることが多いです。また、逆に、こちらからお子様との写真を提出して対抗する場合もあります。

 

 

6.まとめ


・夫がお子様の遊びに熱心に関わっていたという事情は、お子様の衣食住に直接かかわる話ではない。
・ただ、衣食住に全く無関係と割り切れないことも多いし、少なくとも、お子様の心情には影響がある。
・そのため、遊びでの関わりも、監護者指定事件に多少なりとも影響はある(大きな影響ではない)。
・夫側が遊びに熱心に関わってきたという場合、写真などを証拠提出してくるパターンが多い。
・対抗策としては、写真の問題点を指摘したり、逆にこちらからも写真を提出するといった方法がある。

 

 

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投稿者: 弁護士秦真太郎

夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(61)―子供の勉強は主に夫がみていたが夫に有利に働くか?

2023.08.28更新

弁護士秦

こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

 

1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.同居中、子供の勉強は主に夫が見ていた


 同居中は、お子様の勉強は主に夫側が見ており、あなたが同水準で勉強を見ることができるかというと難しい場合もあろうかと思います。特に、夫がモラハラ夫だという場合には、同居中、あなたに対して「お前じゃ子供の算数を教えることはできないから、中学受験で不合格になるぞ」とか「お前はただでさえ日本語が下手だから、子供に国語などを教えられるはずがない。子供に変な日本語が身についてしまうと困るから教えないでくれ」などと発言している場合もあり、不安に感じるケースも多いと思います。
 ただ、皆さん、別居後は、夫がいない状況でも、お子様の教育面をケアできている方が大半だと思いますので、過剰に不安にならない方が良いと思います。

 

 

3.監護者指定事件での「勉強面」の位置付け


 監護者指定事件では、お子様の衣食住にどの程度親御さんが関わってきたのか、という点が重視されることが多いです。
 「衣」というのは、お子様がまだ小さい年齢の時には、おむつ替えや着替えの補助、もう少し年齢が上がったお子様の場合には、季節に合った服装をさせること、そのような洋服を購入すること、および身だしなみや清潔さの確保を意味します。
 次に「食」というのは、お子様の食事の支度を意味し、お子様の栄養バランスを確保し、少なくとも平均的な健康状態や成長を保つことができているのかどうかという点です。お子様が持病を持っていたり、アレルギーを持っているような場合には、それに対してどのようにケアしているのかという点も重要な要素になります。
 最後に「住」というのは、お子様の安心できるような清潔かつ整理整頓された住環境が確保されていることを意味しますが、この中には、お子様の躾や教育面も含めた意味で使うこともあります。
 このように、お子様の勉強面・教育面は、上記の「住」に関わる項目なのですが、衣食住全体が考慮されますので、あくまでその中の「一つの項目」という扱いになります。

 

 

4.対策の基本的な視点


 このような場合の対策の基本的な視点は「同居の時と同じ成績順位を維持すること」とか「同居時の志望校にしっかり合格すること」ではありません。
 お子様の教育面には関心が高い方も多いので、「成績が落ちてしまうと夫から何を言われるか分からない」とか「息子にはこの学校に合格させてあげたい」といったことをおっしゃる方もいます。
 ただ、監護者指定事件で重視されるのは、学校で問題となるような成績・素行ではないことです。簡単に言いますと、同居時学年トップの成績で、別居後にある程度成績が落ちたとしても、「担任教師が問題視するような悪い成績ではない」ということなら、ほとんど問題視されることはありません。

 

 

5.夫の教育熱心さがお子様の負担になっていた場合には、それを逆用すると効果的


 夫側が非常に教育熱心で、自宅でも熱心に指導・教育してきたというケースもあります。
 ただ、そのような熱心さは、お子様のためというよりも、夫自身のため(自分の子供なので、このくらいの成績は取ってもらわないと困るとか、自分と同じくらいの社会的地位を確保するために、この学校に行かせる必要があるとか)であるというケースも多くあります。
 そうすると、夫が目指す目標に、お子様の意識がついて行っていないというケースも往々にしてあります。

 そのことで、時に夫がお子様に対して暴言を吐いたり、果ては暴力を振るっているような場合には、勉強を見ることはプラス要素ではなく、むしろマイナス要素と言えます。
 そのような場合には、夫の勉強の面倒が、逆にお子様の大きな心の負担になっていたこと、モラハラやDVに陥っていた場合には、明らかな有害行為であることをしっかりと指摘して対抗していくことになります。

 

 

6.あなた自身の学歴等はあまり重視されない


 お子様の勉強面との兼ね合いでは、教育面を重視する夫側は、あなたの学歴と夫の学歴を比較して、夫側の方が学歴が上で、お子様の教育面を充実させられるといったことを強調してくることもあります。このような学歴の差から、お子様の教育のケアは夫側が見た方が良いなどと主張してくるのです。
 しかし、学歴の差といった点は、監護者指定事件であまり重視されませんので、この点であまり不安にならない方が良いと思います。

 

 

7.重要なのは教育資源をしっかりと活用すること


 むしろ、今は、様々な教育資源がありますので、それをしっかりと活用することの方が重要です。あなたが自分で勉強を教えるということに固執し、無理をし過ぎてしまいますと、逆にそのことで家事・育児が疎かになるなど、悪影響を生じかねませんので、そうであれば、教育資源を活用した方が良いのです。
 例えば、学校の宿題のケアは、学童がしっかりと確認してくれるところもありますし、受験に関しても、課題が多くない塾に通塾させることで対応できることも多いです。
 お子様の心理面のケアなどは、スクールカウンセラーや子ども家庭支援センターに助言を受けるといった方法もあります。
 このように教育資源をしっかりと活用して、少なくとも学校教育に遅れがなく、宿題や課題もしっかりと提出できていれば、教育面で、あなたのケアが不十分だと指摘される可能性は低いと思います。

 

 

8.まとめ


・監護者指定事件では、お子様の衣食住の面倒を誰が見ていたかが重要であるが、教育面は「住」に関わる要素として考慮されることがある。
・基本的には、別居後、学校で問題になるような成績・素行でなければ問題ない。
・夫の教育熱心さが逆にお子様の心理的負担になっていた場合には、その点をしっかりと指摘していくのが良い。
・あなた自身の学歴等はあまり重視されない。
・現在は教育資源が充実しているので、それを活用することも重要である。

 

 

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>夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(3)ー夫はどういうつもりでこのような手続きを取ってきたのか?

>夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(5)ー監護者として指定されるための6個のポイント

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(60)―夫側がやたら細かいことばかり追求してきているが、どこまで対抗すべきなのか

2023.08.21更新

弁護士秦

こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。

神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

 

1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.裁判所から分厚い書類が届いた!


 監護者指定事件は、何の前触れもなく起こされるのが通常です。
 そのため、①夫側が弁護士を立てたと思ったら、突如監護者指定の分厚い書類が届いた、とか、②弁護士間でやり取りをしていたと思ったら、裁判所からの通知が届いた、というようなケースが大半です。
 監護者指定事件は、緊急の事件として起こされることが多いので(夫側からすると、至急お子様を取り戻さなくてはいけないという意味で「緊急の事件」と位置付けてくるのです)、突如申し立てられることが多いのです。
 そのため、あなたとしても「書類は受け取りましたが、どのようなことが起こっているのかがよく分かりません」と感じてしまうことも多いのです。

 

3.夫側がやたら細かいことばかり言ってきているがどう対処すべきか


 監護者指定申立書や主張書面が、夫側の言い分を示す書類ですので、その確認も重要なのですが、大きく二つに大別して検討する必要があります。
 即ち、①言い分は細かいけれども、裏付け証拠があまりない場合と、②言い分が細かく、その裏付け証拠も非常に細かい場合に大別できます。
 まず、裏付け証拠があまりない場合には、夫側の言い分をこちらから否定する必要はありますが、そこまで事細かに対応しなくても問題ないケースが多いです。仮に、夫側の言い分が緻密に練り上げられているとしても、裏付けがない言い分については、裁判官も関心を持たないことが多いので、そこまで心配しなくても良いことが多いのです。
 これに対して、夫側が裏付け証拠を沢山提出してきている場合には、その証拠のしっかりとした整理が必要になります。

 

 

4.夫側の証拠を検討する視点


(1)まずは、証拠の分類
 夫側の裏付け証拠を漫然と通読・確認していても、分量が多いので、逆に整理が難しくなってしまいます。
 そのため、監護者指定における重要な6個のポイントに沿って整理するのが有効です。
 即ち、監護者指定にあたっては、以下の6個のポイントが重要視されますので、夫の証拠がどの項目にどの程度影響を与える証拠なのかを分類していくのです。
 【6個の重要ポイント】
1)監護実績
2)連れ去りの違法性
3)現在の監護状況
4)過去の児童虐待の有無・程度
5)子供の意思
6)面会交流の姿勢

 例えば、別居直前に娘様が夫側に対して「お父さん大好き、お父さんのお嫁さんになる」と書き、夫の似顔絵も書いてある手紙が証拠で出された場合、上記の「5)子供の意思」に関係する証拠になります。

(2)分類にあたっては、証拠の重要性を見極めつつ分類
 前述のように証拠の分類をするのですが、夫側が大量に証拠を提出してきている場合、それを全て分類するのは、かなりの労力が必要になります。
 そのため、ある程度夫側の証拠の重要性を見極めた上で、重要なものを優先して整理する方が得策です。
 監護者指定事件は、こちらの準備期間がある程度限られるケースが多いので、夫側の証拠を順番に全て整理するよりも、重要なものから順番に整理・検討していく方が効率的なのです。
 また、夫が提出してきた証拠が、関連性が乏しい証拠という場合もあり、それに対して逐一対抗していくことは、手続きを複雑にしていくだけで得策でもありません。

 

 

5.夫側の証拠に対する対抗策


 前述の通り、裁判官は、どのような裏付け証拠があるのかという点を重視しますので、夫側の証拠に対抗するために、こちらも一定の証拠を準備し、提出していくことになります。
 その場合には、夫側の証拠に対して直接対抗していくものと、逆に、こちらがかなり不利な証拠の場合には、敢えてその証拠には言及せず、こちらがアピールすべき項目についての裏付けを集めていくという作戦をとる場合もあります。
 このあたりの判断・見極めは弁護士でないと難しいことが多いので、弁護士にご相談されることをオススメします。

 

6.最も重要なのは、文章の量や表現の上手さの問題「ではない」ということ


 たまに、私が事件を担当しておりますと、夫側が30ページの主張書面を書いてきた場合、「こちらは30ページ以上の文章を返してください」とか「もっと沢山書いてください」と言われることもあります。
 また、文章の表現についても、「もっと裁判官に訴えかけるような書き方をお願いできないでしょうか」とおっしゃる方もいます。

 確かに、文章の表現が良い方が、裁判官も読みやすいでしょうが、前述からお話しております通り、裁判官が最大の関心を持つのは「どんな裏付けがあるのか」という点です。
 夫側の言い分を読んでいると、「負けないためにも、それ以上に反論しないといけない」という気持ちに駆られることも多いのですが、そのことでこちらの文章が冗長になってしまっては元も子もないと思います。
 そのため、文章の分量や表現の上手さという点にとらわれ過ぎずに準備することが大切です。

 

 

7.まとめ


・夫側がやたら細かいことを言ってきている場合でも、裏付け証拠を伴うものなのかで対応が異なってくる。
・あまり裏付けを伴わない言い分は重視されないことが多い。
・夫側の証拠は、その重要性も考慮しながら、監護者指定重要6項目に照らし合わせて検討・分類するのが良い。
・夫側の証拠に対して、どのように対抗していくかは専門性が高いので、弁護士に相談しながら検討すると良い。
・文章の分量や表現の上手さで勝負するものではないという視点が最も重要である。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(59)―手続き中、子供の友達付き合い等について注意すべき点はあるか?

2023.08.07更新

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1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

2.監護者指定手続き中、お子様の友人付き合い等で注意すべき点はあるか?


 あまりこのような点を意識していない方の方が大半で、そうしますと、「どのような問題なんですか?」と首を傾げられるかもしれません。
 端的に言いますと友達経由でこちらの動向等が夫側に知られるリスク等をどのように考えるのか、といった問題のことです。
 このようなリスクの考え方は、あなたが別居の際に、夫側が全く知らないところに転居したケースと、そうではないケースで対応の仕方が異なってきますので、大別してご説明します。

 

 

3.【ケース①】あなたが、夫側が全く知らない場所に転居したケース


 夫との離婚を決意し、別居する際、別居先としては、①実家(夫も場所は知っている)、②近所だけれども夫は場所を知らないところ(お子様の通学する学校を変えたくないので、結局近所に住んでいるといったパターン)、③全くの新天地といったパターンがあろうかと思います。
 今回は、③の全く夫側が把握していない場所(新天地)に別居したケースを前提に解説していきます。

 このようなケースでは、あなたの現住所(新天地である住居)を夫側に知られないということが非常に重要になってくることが多いと思いますので、そのような切り口から解説します。
そもそも、お子様の友人関係につきましては、基本的にイチから友達を作り直すということかと思いますので、その友人経由で何かしら夫側に情報が洩れるリスクはないと思います。
 そのため、特に友人付き合いの関係で神経質になる必要はほとんどありません。但し、全くリスクがないわけではありませんので、注意すべき代表的なケースとともにご説明します。

(1)【注意すべきケース①】以前の友達との接触
 新天地に転居した後も、お子様の希望で、別居前のお友達と会ったり、遊んだりするというケースもあろうかと思います。
 そのご友人が信頼できるママ友、パパ友を介して連絡を取り合う分には、あまりリスクはないと思いますが、家族ぐるみの付き合いをしていて、情報が夫側に漏れるリスクがあるという場合には、注意が必要な場合もあろうかと思います。

 特に、夫側がどうしても離婚したくなくて、そのママ友やパパ友に協力を強く懇願しているような場合には、ママ友やパパ友も「断れない」という場合もありますので、そのママ友やパパ友経由で、あなたの現住所の情報や、現住所につながる情報(例えば、最寄り駅が○○駅であるとか)が漏れないよう注意が必要な場合もあります。

(2)【注意すべきケース②】以前の習い事を続ける場合
 新天地に転居した後も、お子様の希望で、習い事は別居前の習い事を続けるというケースもあると思います。
 その場合には、習い事で接触する友達や講師経由で情報が漏れないかという点に注意すべき場合もあります。
 その習い事での友人や講師が夫側とも親密だという場合には、そもそも、その習い事はやめて、新天地付近で新しく習い事を始めた方が良いかと思います。

(3)【注意すべきケース③】新天地で同じ種目の習い事をする場合
 新天地で同じ種目の習い事をする場合(例えば、別居前にお子様がサッカーチームに所属していて、別居後、新しく新天地近くのサッカーチームに入り直すといったケース)、友人経由で夫側に情報が洩れる可能性はほとんどないと思いますが、そのチームの対応等で注意が必要な場合もあります。
 特にスポーツ系の習い事で多いのですが、練習風景や試合での様子の写真をインターネット上で一般公開しているようなところもあると思います。
 そうすると、お子様の写真が一般公開され、夫側に、現在お子様が所属するチームが分かってしまうというケースもあります。
 また、サッカーや野球など他のチームと試合で対戦する場合、元のチーム等と対戦する心配もありますので、注意が必要です。

 

4.【ケース②】別居後も比較的近所に住むケース


 別居後も比較的近所に住むケースとしては、①別居後にこちらが住んでいる場所を夫側にも知らせているケース(もしくは、既に知られてしまっているケース)と、②別居後にこちらが住んでいる場所を知らせていないケースがあろうかと思います。
 ただ、近所に住んでいる場合、共通の友人と顔を合わせたり、スーパー・飲食店その他店舗で夫と偶然顔を合わせてしまうということもあると思いますので、②のケースでも、こちらの住まいを全く知られない状況を保つということは難しいことが多いと思います。
 そのため、以下では、こちらの住まいを知られないようにするという視点よりも、こちらの動向等を探られないようにする、という視点から解説していきます。

(1)結局、どのような形で問題化するのか?
 あなたとしても、今は夫側に住所を隠しているけれども、遅かれ早かれ場所は知られてしまう可能性が高いと考えているような場合、「住所を知られないこと」は、そこまで重要性が高くないかもしれません。
 ただ、監護者指定事件を闘っておりますと、夫側の知人経由、友人経由で様々な情報が飛び交うこともありますので、その点に留意すべき場合もあります。
 例えば、当職が実際に担当した事件では、以下のような点が指摘されることがありました。
① まだ5歳の子供が公園で一人で遊んでいた。こんな小さい子を一人で遊ばせているなんて危険な行為だ。

② まだ小学校に入ったばかりの子が公園で一人で泣いていた。私(知人)が気付いて慰めてあげたが、母親の育児放棄ではないかと思う。

③ 久しぶりにお子様と道で会ったので元気にしているか話しかけたら、母親から殴られたと言っていた、別居して母親が児童虐待している疑いがある。

④ 久しぶりにお子様を見かけたので話しかけたが、何度話しかけても無視し続けられた、別居後の母親の教育には大きな問題があると思う。

 このような①から④の事情を、夫側の知人や友人が、直接見かけた・目撃した、といった形で、裁判所に訴えてくることがあるのです。

(2)どのように対処するのか。
 監護者指定事件の中での対処法としましては、事実と異なるところはしっかりと誤りであると指摘して毅然と対応していく、ということに尽きます。
 そもそも、夫側の知人や友人が目撃したという事情が、よほどの虐待を疑われるような事情であればともかく、そこまでの事情でなければ、裁判所も、その点を重視する可能性はほとんどありません。
 そのため、お子様の友人関係であまり神経質になり過ぎない方が良いと思います。
 ただ、前述の通り、お子様のお友達の中でも、あなたよりも、どちらかというと夫側と親密だというようなお友達の関係では、こちらの同行が夫側に知られるリスクはある程度意識してお付き合いした方が良いかと思います。

 

 

5.まとめ


・お子様の友人付き合いについてはあまり神経質になり過ぎない方が良い。
・新天地に引っ越したという場合、現住所を夫側に知られないということが重要なので、その点は母親としてある程度意識しながら生活した方が良い。
・近所に住む場合、現住所を知られないことの重要性は相対的に下がることが多いが、夫側に動向を知られないための配慮が必要なこともある。
・夫側の知人・友人経由で、監護者指定事件に何等か資料を提出された場合でも、事実と異なるところは虚偽である旨をしっかりと伝えて毅然と対応するのが一番である。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(58)―保育園・幼稚園の連絡帳の位置付け

2023.07.31更新

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1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.監護者指定審判手続きにおける連絡帳の「重み」


(1)普段の生活では、何の気なしに記帳しているものだけれど…
 保育園や幼稚園の連絡帳については、普段の生活の中では、「重要書類」といった意識もなく記帳していることが多いと思います。
 しかし、監護者指定審判手続きの中では、非常に重要な書類と位置付けられることが多いです。
 なぜ、このように重視されるのかと言いますと、監護者指定審判手続きでは、これまで夫婦のどちらがどのくらい育児を担ってきたのかという点について、お互いの言い分が大きくずれることが多いです。そんなときに、連絡帳を見ると、おのずと夫婦のどちらの方が育児をメインで担当していたのかといったことが明確化することが多いので、重要な書類と位置付けられることが多いのです。

(2)残念ながらあまりに簡素なものは、ほとんど証拠価値がない
 例えば、連絡帳はあるけれども、そもそも書く欄が、元気かどうか及びその朝の体温しか書けない形式のものだとか、連絡帳自体がなく、保育園に備え付けのボードにその日の出欠と朝の体温だけを書くといったものの場合、それだけを見ても夫婦のどちらが育児をメインで担当していたのかといったことはほとんど分からないので、残念ながらほとんど証拠価値はありません。

(3)しっかりとした連絡帳の場合の【ポイント①】
 前述のようにあまりに簡素な連絡帳は、あまり有力な手掛かりとはなりません。
 逆に、しっかりとコメント欄などもある連絡帳については、何が重要になってくるのでしょうか。
 まず大きなポイントの一つ目は、「夫婦のどちらが記帳しているのか」という点です。

 通常は、記帳者が保育園・幼稚園への送迎も担っていることが多いので、少なくとも保育園への送迎を夫婦のどちらがメインで担ってきたのかという点は分かることが多いです。
 そうしますと、保育園・幼稚園のお迎えという場合には、夫婦のどちらが先に自宅に帰宅しているのかが分かることも多いです(通常は、保育園にお迎えに行く方が先に帰宅していると思います)。先に帰宅した方の配偶者が、その分お子様と自宅で接する時間が長かったということになりますし、その間、育児を担っていた証明にもなります。

 また、連絡帳を記帳するにあたっては、連絡帳の形式にもよりますが、今朝の朝食や前夜の夕食メニューなどを書く形式のものがありますが、これらのメニューは、実際に食事の用意をしていた者でないと分からないことも多いです。
 お子様の食事について記帳しているということは、その食事の調理や配膳に関わってきた可能性が高いという推定が働き得るのです。

(4)しっかりとした連絡帳の場合の【ポイント②】
ポイントの二つ目は「どのような内容が記載されているのか」という点です。
このように解説しますと「他愛ない日常的なやり取りをしていない」ということで心配される方もいるかもしれませんが、それでも問題ありません。

そのような他愛ないやり取りの中でも、普段のお子様の生活や癖、成長具合などを探る貴重な手掛かりになることも多いからです。
後は、前日の夜に食べた食事の内容、その日の朝に食べた食事の内容なども細かく記載する形の連絡帳ですと、お子様の栄養面で配慮してきたかどうかといったことも分かりますので、そのような食事欄の記載の有無・内容も重要な要素になります。

(5)しっかりとした連絡帳の場合の【ポイント③】
 ポイントの三つ目は、連絡帳に記載している「分量」になります。
 家庭裁判所調査官も、ある程度は連絡帳の記帳内容を確認しますが、その全てをきめ細かく確認するのかというと、そこまで手が回らないということもあります。
 その場合に、調査官は、連絡帳の全体を確認し、あなたが書いた箇所の分量や空欄がどの程度あるのかという全体感を見ることも多くあります。

 

 

3.連絡帳は何年分必要になる?


 この点は裁判官によって対応が異なるのですが、大きく分けて、1年分の提出で足りるとする裁判官と2年分提出して欲しいと要請してくる裁判官に大別されるように思います。
 なお、裁判官から「2年前からのもの」と要請された場合でも、3年前の連絡帳の方が、あなたが熱心に育児に関わってきたことが分かるという場合には、敢えて戦略的に3年前のものまで提出することもあります。
 どの範囲の連絡帳を提出するかは、裁判官からどのように要請されたのか、及び、どのような戦略で対応するかを弁護士と相談しながら、対応していくことになります。

 

 

4.連絡帳提出の際の注意点


 あなたが別居後、旦那側に別居先を伝えていない場合(伝えたくない場合)には、連絡帳をそのまま提出してしまいますと、旦那側にこちらの居場所を知られてしまうリスクが生じてしまいます。
 そのため、連絡帳の保育園名はもちろん、クラスの名前はマスキングしますし、連絡帳の記載内容の中に、地名(園の近くの公園の名前とか)、お友達の名前、園での特別なイベントの名前(例えば、あまり東京の園では行わないような地方の踊りをイベントで踊るといった場合、その踊りの名前はマスキングしたりします)、記帳して下さった保育士の名前などにマスキングをすることが多いと思います。
 このように連絡帳を提出する際には、マスキングにかかる時間も考慮して、裁判所への提出期限を設定すると安心です。

 

 

5.小学校での連絡帳は?


 小学校でも連絡帳を活用している学校が多いと思いますが(最近はタブレットで管理している学校も多いように思いますが)、学校の連絡帳は、何か病欠や行事等があった際にしか記帳しないと思いますので、監護者指定事件で重視されることはほとんどありません。
 ただ、お子様が学校でトラブルを起こしてしまったり、いじめを受けたりしていて、その際の担任教師とのやり取りを記帳していたというような場合には、その内容を確認することはあります。

 

6.育児日記は?


 育児日記は、保育園の保育士とやり取りするというものではなく、あなたご自身が任意にお子様の成長を記帳しているものだと思います。
 このような育児日記は、監護者指定事件でどの程度重みがあるのでしょうか。

(1)連絡帳との比較では?
 もし連絡帳がある場合、それに重ねて育児日記を提出しても、効果は少ないことが多いと思います。
 連絡帳は、第三者である保育士も記帳しているので、その資料の中立性が高まっていると言えるからです(育児日記は、あなただけが記帳していますので、どうしても、中立な保育士も記帳している資料よりも証拠価値が落ちてしまうのです)

(2)真価を発揮するのは、連絡帳がないとき、又は簡素な連絡帳の時
 前述のように、保育園の連絡帳がある場合、そちらの内容の方が重視され、育児日記の内容はあまり効果が少ないことが多いです。
 他方で、①そもそも、まだお子様を円に入園させていないという場合には、連絡帳そのものがありませんし、②年長さんになって連絡帳を書かなくなったという場合、もしくは、③連絡帳は書いているけれども、体温だけを記載するだけの簡単な連絡帳である、というようなケースですと、連絡帳を見ても、お子様の普段の様子は分かりませんので、育児日記が真価を発揮することもあり得ます。

(3)連絡帳がないときは、育児日記はかなり重視されるのか?
 前述のように、連絡帳がないとき、または、連絡帳の内容が非常に簡素な連絡帳な場合には、育児日記が重視される場合もありますが、これも、その記載内容次第です。以下ポイントに絞って解説します。

ア)【重視される育児日記のポイント①】毎日欠かさず記帳していること
 最も重要なポイントになりますのが、「毎日欠かさず記帳していること」です。
 毎日記載することで、お子様の成長や変化等を漏らさず記帳することができますので、重要なポイントになるのです。
 もちろん、たまに1日だけ記帳しなかった、というだけで、その育児日記にほとんど価値がなくなる、ということはないのですが、記帳の頻度が低ければ低いほど、その証拠としての価値は落ちてしまいます。

 例えば、お子様の記念日だけ記帳している育児日記(誕生日や誕生後ちょうど1か月のバースデイ、寝返りを打った、首が座った、立った等の特徴がある日のことしか書いていないような育児日記)は、残念ながら証拠としての価値が薄くなってしまいます。
 または、例えば、週末である土日だけ記帳している育児日記も、平日という週5日間の記録が抜けていることになってしまいますので、残念ながら証拠としての価値は薄くなってしまいます。

イ)【重視される育児日記のポイント②】それなりの分量記載していること
 次のポイントは、記載の分量です。
 毎日欠かさず記帳しているとはいっても、毎日1行だけしか記載していないということですと、残念ながら証拠としての価値は薄くなってしまいます。

ウ)【重視される育児日記のポイント③】あまり古くないものであること
 次のポイントは、「あまり古くないものであること」です。
例えば、現在お子様が6歳だとして、育児日記が0歳児の時の日記だとすると、記録として「古過ぎる」と評価されてしまう可能性が高いと思います。このような古い記録は、あまり重視されないと思います。

 

7.まとめ


・保育園・幼稚園の連絡帳は、監護者指定事件で重要な資料として扱われることが多い。
・但し、あまり簡素な連絡帳(体温だけを記載するものとか)はあまり役に立たない。
・連絡帳の評価にあたっては、①夫婦のどちらが記帳しているのか、②記帳内容、③その分量が重要なポイントになる。
・連絡帳提出の際には、部分的にマスキングが必要になることも多いので注意が必要である。
・小学校の連絡帳は、ほとんど重視されないことが多い。
・連絡帳がない場合、又は簡素な無いような場合には、育児日記が重視される場合もある。
・どのような育児日記が重視されるのかは、最近のもので、かつ、毎日欠かさず、それなりの分量記載してある育児日記だと心強い。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(57)―夫側から「妻はひどい叱り方」をすると指摘されたが?

2023.07.18更新

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1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.夫はどのように主張してくるのか?


 「ひどい叱り方」といっても、やや抽象的ですので、実際に私が担当した事件で、夫側がどのように言ってきたのかを、具体例として、ご紹介します。

(1)妻自身の機嫌が悪いと、昨日までは良かったことでも今日はダメと言うように叱りつけてくるので、子供も困り果てていた。

(2)妻は短気なので、何かがあると頭ごなしに叱りつけるので子供がかわいそう

(3)妻は怒り始めると止まらないので、30分近く延々と叱りつけるため、子供も疲れ果ててしまうことが多かった。

(4)妻は叱るだけで、何がダメでどのようにダメなのかを何も伝えないから、子供はダメな理由も分からないままのことが多かった。

(5)妻は大声で叱りつけるので、子供も怖がってしまっていた。

(6)妻は叱る際に子供が傷つくようなことを言うことが多く、子供が泣き出してしまうことが多かった。

(7)突如として子供に罰を与えることが多く(おやつを与えないとか、ゲーム機を突如取り上げるとか)子供が気の毒だった。

(8)他の兄弟と差別的に叱ることが多かった(例えば、次男には甘く、長男には異常に厳しいので、同じことをしても長男だけが叱られることが多かったなど)

(9)妻は叱る際に手をあげることが多かった。

 

 

3.監護者指定審判の中で問題となるような「ひどい叱りつけ」とは?


 お子様も時にはふざけてしまったり、悪戯をしてしまったりということもあって、その際には、ついこちらも「叱り方」が好ましくない形になってしまうということもあると思います。

 もちろん、お子様が何か悪いことをしたからと言って、①そのことに対して暴力を振るってしまったり、②お子様を閉じ込めるなどして恐怖を与えてしまうこと、③お子様の物を壊してしまうこと、④お子様の人格を否定するような発言をすること(例えば、「こんな子だったら産まなきゃよかった」とか)はNGです。これらは、お子様に対する健全な発達のための「叱りつけ」ではなく、もはや児童虐待になってしまっているため、許容できません。
 このように叱りつけが、あまりにも度を越してしまいますと、監護者指定審判の手続においても不利に扱われてしまいます。
 逆に、これらの①から④に当てはまるような度を越したものでなければ、そのことでこちらが大きく不利になることはほとんどないと思います。

 

 

4.逆に「良い叱り方」とは?


 このようなお話をしますと、逆にどのような叱り方が「理想なんですか?」とか「良い叱り方って何なんですかね?」とご質問を受けることがあります。
 そんな時には「お子さんに、叱られている理由がしっかりと伝わる叱り方が良いみたいですよ」とか「お子さんの目を見て正面から向き合って叱ると効果があるみたいですよ」などと回答することがあります。
 ただ、これらは一例でして、お子様がしてしまったことの内容、お子様の年齢、これまでのお子様との関係性、ご家庭の事情、地域の風習等によって、対応の仕方は様々だと思います。お子様にとって負担にならないやり方で、お子様にとってもしっかりと叱られている理由が分かる方法で叱るのが良いと思います。

 

 

5.夫側の主張に対する対応方法


 それでは、夫側の主張(詳しくは「2.夫はどのように主張してくるのか?」をご覧下さい)に対してはどのように対応すべきなのでしょうか。

(1)夫の言い分は虚偽・過剰であることが多い
 夫の言い分は、自分が有利に立ちたいがために、虚偽や過剰反応とも言える主張だということが多いです。
 そのため、虚偽や過剰なものに対しては、しっかりと「そのような事実はない」と指摘することが大事です。

(2)多少の叱り過ぎがあった場合は?
 多少の叱り過ぎがあったという場合でも、前述のような児童虐待という程度のものではない場合には、それほど恐れる必要はありません。
 この場合には、当時の経緯をしっかりと説明し、母親としてお子様をしっかり叱らなくてはいけない場面であったことを裁判官にも理解してもらうという作業が必要になります。また、このような場合でも、夫側は実際の事実よりも過剰に演出してくることが多いので、過剰な部分が誤りであることもしっかりと指摘する必要があります。

(3)多少虐待的行為に及んでしまった場合は?
 前述のような虐待と称されるような行動に出てしまった場合にも、しっかりと経緯を説明して、母親としてお子様をしっかり叱らなくてはいけない場面であったことを裁判官にも理解してもらうという作業が必要になります。
 ただ、その際に気をつけなくてはいけないのは、このような説明が「言い訳」と映らないようにすることです。折角詳しく説明している内容が、裁判官の目から見て「言い逃れの弁解を並べているだけ」と捉えられてしまいますと、逆に不利になってしまう虞があります。
 そのため、詳しい説明に加えて、自分としても反省していて今後二度と同じ行動に出ないことも明記することが大事です(こうすることで、「言い逃れ」ではなく、しっかり「反省」したうえで、事情を説明しているということが裁判官にも伝わりやすくなります)。

 

6.「お互い様だから問題ない」という言い分はどうなのか?


 たまに、奥様の方から「夫の方は、もっとひどい叱り方をしていた。こんな夫に言われる義理はない」といったことを指摘されることもあります。
 もちろん、夫側の不適切な育児等についてはしっかりと指摘しなくてはいけないのですが、「夫も悪いから、こちらのことも許される」という言い分は通りにくいです。
 そのため、前述のように、こちらの叱り方に実際に大きな問題があったという場合には、反省すべきは反省しているという姿勢を裁判所に見せたほうが効果的なことが多いです。

 

7.まとめ


・夫側は監護者として指定されたいがために、こちらの叱り方について様々な主張をしてくることも多い。
・虐待といえるような度を越した叱りつけでなければ、そこまで心配することはない。
・お子様にとって負担にならないやり方で、お子様にとってもしっかりと叱られている理由が分かる方法で叱ることが「良い叱り方」と言われることが多い。
・夫の言い分に対する対応方法は、指摘されている内容に応じて異なってくる。
・「お互い様だからこちらのことも許される」という言い分は通りにくい。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(56)―夫は同居中些細なことでも録音を取ったり証拠集めをしていたが大丈夫か?

2023.07.10更新

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1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.同居中、夫は些細なことでも録音を取ったり証拠集めをしていたが大丈夫か?


 夫婦の関係が良好な場合には、夫側が家庭内で録音機を構えたり、スマートフォンで録音をするということはないと思います。しかし、夫婦の関係が険悪化してきますと、今後何かあったときのためにといったことで、夫側が証拠集めのようなことを開始する場合があります。
 あなたはお子さんの育児に奔走しているため、記録化があまりできていないのに対して、旦那側はほとんど育児に協力しないため、着々と記録化しているといったパターンが多いように思われます。
 具体的に私が担当した事件では以下のようなパターンがありましたので、各パターンごとに以下で詳しく解説していきます。
① こちらの家事不行き届を指摘するための証拠化

② こちらの育児不行き届を指摘するための証拠化

③ こちらの叱責の行き過ぎを記録するための証拠化

④ 旦那側が「良い父親としてふるまってきたこと」の証拠化

⑤ こちらの旦那側への発言の言い過ぎを記録するための証拠化

 

3.【パターン①、②】こちらの家事不行き届や育児不行き届を指摘するための証拠化


 こちらの家事不行き届や育児不行き届を指摘するための証拠化というのは、具体的には、旦那側があなたに対して家事不行き届や育児不行き届を指摘している場面を録音して、これまでに不行き届があったこと及び旦那が気付いて指摘していることの両方を記録化するといったケースになります。
 以下では、具体的にはどのようなことをどのように記録しているのかに応じて解説していきます。

(1)音声録音での証拠化
 具体的には、前述のような、旦那側があなたに対して①家事不行き届(部屋が片付いていないとか、取り込んだ洗濯物が置きっぱなし、食事後の食器を洗い始めるのが遅いとか、料理の味が薄いとか)や②育児不行き届(保育園への持ち物の忘れ物が多い、おむつを替える頻度が少ない、目を離している隙にお子様が化粧品等を口にしようとしてしまっているとか)を指摘している場面を録音して、これまでに不行き届があったこと及び旦那が気付いて指摘していることの両方を記録化するといったケースがこれに該当します。

 このような録音に対する対抗策としては、録音中に、あなた自身の口から「録音している余裕があるなら手を貸して」「そうやって録音しているけど、あなたは何もしてくれないよね」と言った形の発言をして、あなただけの問題ではないという記録化をしていくというのが有効かと思います。

(2)写真や動画での証拠化
 写真や動画での証拠化というのは、よくあるケースとしては、①こちらが他の家事や育児で手が回らず、部屋が片付いていない状況を旦那側が写真撮影するとか、②こちらがお子様の幼児で外出しなければならないため、食後の食器類を洗い場にそのままにしている状況を旦那が動画にして、旦那自身のコメントを勝手に吹き込むといったことになります。
 そもそも、このような片付けや整頓の不十分については、数日不十分な状態が継続したということであればともかく、そうでない場合には、あまり大きな落ち度になるような問題ではないかと思います。
 また、監護者指定手続きの中で、旦那側がこちらを追及してきた場合には、「リビングは旦那もよく利用する部屋なので、リビングが片付いていないのは旦那側の責任でもある」といったような反論をすれば十分かと思います。

(3)日記やメモでの証拠化
 旦那側が問題に感じたことを逐一日記やメモ帳にまとめているというケースもたまにあります。
 単なる手書きのメモの場合、メモを何時作成したのかの証明が難しいことが多いので(要するに、旦那側が「令和2年2月2日に書いた」としても、実際には監護者指定手続き最中の令和5年5月5日に書いていることもあり得るということです)、あまり心配する必要はないかと思います。
 手書きの日記や手書きのメモは、その当時に記録したものであれば、一定の証拠価値があるのですが、「いつかいたのかが不明確なもの」(旦那側がいついつに書いたと言い張っているだけで、本当にその日に書いたのかが不明確なものも含みます)については、あまり証拠価値は認められないことが多いです。

 これに対して、携帯電話のメモ機能で作成したデータについては、作成日付を変更できない形式のものでしたら、少なくともその時に作成したデータということになり、一定の証拠価値が認められることになります。
 ただ、その場合でも、書いている内容次第というところでして、あまり旦那側の主観が多く含まれる場合には、あまり重要とは見られないケースがほとんどです。

 

 

4.【パターン③】こちらの叱責の行き過ぎを記録するための証拠化


 これは端的に、こちらがお子様を叱責しているときの様子を旦那側が録音したり動画にしたりするというパターンになります。
 最近は、新型コロナウイルス流行を機に、在宅勤務をする旦那が増えた関係で、在宅勤務中に、お子様の泣き声を聞くと、すぐに旦那が口を挟んでくるとか、携帯電話を構えて録音しようとしてくるといったケースが増加傾向にあります。
 そもそも、録音等されたとしても、その叱責が行き過ぎたものでなければ、特にこちらが不利になるわけではありません。お子様ですからふざけてしまったり、悪戯をしてしまったりと、しっかりと注意しなくてはならない場面は多くあると思いますので、そのような場合に、何も注意しないというのではむしろお子様にとっても良くないことだと思います。

 なお、そのような叱責が、旦那側が煽った結果だというケースもあります。
 例えば、お子様の悪戯が度を越していてしっかりと注意しなくてはいけないのに、旦那側が、「そのくらい大目に見てやれよ」とか「ヒステリーなママだねぇ」などと煽ってくるケースです。
 そのような場合、こちらが叱責している場面だけを切り取って記録化されてしまいますと、こちらに不利になりますので、その日のうちに、あなたの親族等にメールやLINEを送って、経緯を記録化しておくとよいと思います。

 旦那側は、あなたがお子様を叱っている場面だけを切り取って、監護者指定手続きの中でも「些細なことで子供を叱りつけている」といった言い方をしてくると思います。
 それに対抗するために、しっかりと経緯もあなたの方で記録化しておくという意味です。そして、その記録化は、早めに記録化しておく必要がありますので「その日のうちに」親族にメールを送るなどして、状況保存しておいた方が良いのです。

 

 

5.【パターン④】旦那側が「良い父親としてふるまってきたこと」の証拠化


 よくあるパターンが、旦那側がお子様と会話をし、その中でお子様に対して旦那への感謝を言わせるというものです(その会話全体を録音しています)。例えば、あなたが所用で自宅を留守にしている際に、旦那がお子様の昼食を準備したとします。そのことについて、お子様に「パパが作るミートソーススパゲティは最高だよ」「いつもパパが料理してくれるよね。サンキューね」などと言わせ、録音するといったものです。
 こうした録音については、旦那側が意図的に言わせていることが多く、不自然な雰囲気、不自然な会話になっていることが多いので、このような録音が監護者指定手続きの中で出てきたとしても、あまり心配しなくても良いことが多いと思います。

 

 

6.【パターン⑤】こちらの旦那側への発言の言い過ぎを記録するための証拠化


 よくあるパターンが、旦那側がこちらを煽ってきた上で、もしくは、こちらを挑発してきた上で、こちらを怒らせ、怒っている様子だけを録音するといったものです。
 そもそも、そのようなあなたの発言が、聞いていて、周りを萎縮させるようなものでしたら問題になるかもしれませんが、そこまでのものでなければ、そこまで四敗する必要はないかと思います。また、その場面にお子様が同席していなければ、監護者指定手続きとの関係ではほとんど無関係な事情となります(夫婦間の問題であって、お子様との関係の問題ではないという意味です)。
ただ、この場合も、不安があるようでしたら、その日のうちに、あなたの親族等にメールやLINEを送って、経緯を記録化しておくとよいと思います。

 

 

7.こちらも記録化した方が良いのか?


 夫側が記録するのであれば、こちらも記録するというスタンスで臨みたという方もいますが、弁護士としてはあまりオススメしません。
 と言いますのは、あなたが記録をとっていることを旦那側が知ると、旦那側の記録行為は悪化していく可能性が高く、余計に家庭内がぎくしゃくしていくからです。
 もし、あなたの方で記録を残しておきたいということでしたら、「旦那の落ち度を探す」という観点ではなく、むしろあなたの育児での頑張りを記録しておいた方が良いと思います。
 一番端的なのは、毎日育児日記をつけておくということではないかと思います。大した行事やイベント等がない日も、しっかりと「毎日書く」ということが非常に重要になります。

 

 

8.まとめ


・旦那側がこちらの落ち度を記録しようとする場合、以下のようなものが考えられる。
① こちらの家事不行き届を指摘するための証拠化
② こちらの育児不行き届を指摘するための証拠化
③ こちらの叱責の行き過ぎを記録するための証拠化
④ 旦那側が「良い父親としてふるまってきたこと」の証拠化
⑤ こちらの旦那側への発言の言い過ぎを記録するための証拠化
・いずれについても、行き過ぎたものでなければ、旦那側が記録を取っていても無意味である。
・それぞれの証拠化に対して対処方法もあるので、不安があるようなら対処方法を講じるべきである。
・こちらが積極的に「旦那の落ち度を探す」という観点で記録化することはあまりオススメしない。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(55)―夫による連れ去り事案なのでこちらに有利に働くか?

2023.06.26更新

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1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

2.夫による連れ去り事案ってどういうケース?


 夫による連れ去り事案というのは、夫側がこちらに断りもなくお子様を勝手に自宅から連れ出し、夫だけ(夫の実家の補助を受けつつ)で育てていくようなケースを言います。
 よくあるケースとしては、①こちらが別居の準備をしていることを夫側が察知してしまい、こちらが別居を始める前に夫側が先に連れ去って行ってしまったケースや、②こちらの冗談の発現を夫が真に受けて、お子様に危険が及ぶ可能性があるなどと言って連れ去ってしまうケースなどがあります。

 

3.連れ去りは違法になるのか?


 連れ去りが違法な場合、夫側には大きく不利な要素となりますので、連れ去りが違法なのかどうかという点が非常に重要になります。
 一般的には以下のような要素を考慮して判断されるケースが多いです。

(1)【違法な連れ去りかどうかのポイント1】連れ去り態様
 「態様」というのは、分かりやすく言いますと、「連れ去り方」の問題です。
 例えば、大型のバンの後部座席に無理矢理お子様を軟禁するかのような態様で連れ去るケースだとか、保育園の保育士さんの全く目が届かないところで、勝手に園庭に侵入して連れ去ると言ったケースですと、態様そのものが違法な態様といえますので、違法な連れ去りと認定されるケースが多いかと思います。

(2)【違法な連れ去りかどうかのポイント2】お子様の意思
 ここでのお子様の意思というのは、別居に対してのお子様の意思と言うことになります。
 夫側がお子様を連れ去る場合、お子様の意思を十分確認せずに別居を開始していることも多いと思いますが、お子様が自宅に戻りたいとか、奥様と一緒に生活したいと希望するような場合には、お子様の意思に反していますので、違法な連れ去りと認定されるおそれがあります。
 なお、まだ年齢が小さい子は、自身の置かれている状況等をしっかりと把握できていないケースも多いので、お子様の意思の確認は6,7歳以上を一つの目安として確認することが多いと思います。

(3)【違法な連れ去りかどうかのポイント3】それまでの監護状況
 同居生活中の監護状況(それまでの育児への関わり方)は、違法な連れ去りかどうかの判断にも影響を及ぼします。
 同居中、育児をメインで担当していた場合、別居後も同居中の育児の延長とみなすことができますので、連れ去りの違法性は否定する方向に働きますし、逆に、同居中あまり育児に関わってこなかった場合、別居後しっかりと育児を担うことができるものと評価して良いのかという問題が発生しますので、連れ去りの違法性が肯定される方向に働くのです。

(4)【違法な連れ去りかどうかのポイント4】無断別居イコール「違法な連れ去り」ではない。
 たまに私が相談に乗っていますと、奥様の了解を得ずに連れ去ったことをもって「違法だ」と強くご主張なさる方もいますが、「無断別居」イコール「違法な連れ去り」ではありません。
 確かに、あなたの了解も得ずにお子様を連れて行っているのですから「連れ去り」にはなるのでしょうが、それが法律的に違法なのかどうかは、これまでに述べてきた考慮要素を総合的に検討して判断されることになるのです(要するに、連れ去りと言っても「適法な連れ去り」というのもあるということです)。

 

4.初動が非常に重要


 今回のブログは、夫側が監護者指定事件を起こしてきたというケースというタイトルにしてありますが、夫側が連れ去った場合には、あなたの方から監護者指定審判を申し立てるケースの方が多いと思います。
 そして、夫側の所在が判明し次第、速やかに監護者指定事件と保全事件を同時に申し立てて対応することが重要になります(その意味で「初動が非常に大事」です)。
 夫が連れ去った環境にお子様が馴染んでいけば馴染んでいくほど、夫側に有利になってしまいますので、早めに対処した方が良いのです。
 そして、監護者指定事件では、早めにお子様を取り戻すために、速やかに保全事件の結論を得られるよう尽力する必要があります。
※保全事件の詳細につきましては、まとめサイトから、本シリーズの(20)のブログをご覧下さい。

 

5.警察や児童相談所を活用して至急連れ戻すことはできないのか?


 たまに私が相談に乗っておりますと、「監護者指定事件だと保全だと言ってもどうしても時間がかかってしまうので、今すぐ警察に乗り込んでもらって、すぐに子供を保護してもらえないのか?」という質問を受けることもあります。
 旦那側の連れ去りが、あまりに乱暴な態様だというような場合には、警察も誘拐事件として取り上げてくれるケースもありますが、連れ去りは、通常、こちらの目が届かないところで実行されることが多いので、どのようにして連れ去って行ったのか、こちらには分からないことが多いです。

 そのため、誘拐罪と絡めて警察に動いてもらうことは難しいことが多いと思います。
 また、児童相談所についても、現状お子様が旦那側から暴力被害を受けているというような、明らかな児童虐待のケースであれば別ですが、そうでないと、児童相談所が大きく動くことは難しいと思います。

そのため、結局は、監護者指定事件(特に保全事件)の中で裁判所に速やかに結論を出してもらうという方法を取ることが多いと思います。

 

6.まとめ


・無断での連れ去りイコール違法というわけではない(同じ「連れ去り」でも「適法な連れ去り」となるケースもある)
・連れ去りが違法かどうかは、以下のような要素で判断されることが多い。
 ①連れ去り態様
 ②お子様の意思
 ③それまでの監護状況
・夫側に連れ去られた場合には、速やかに監護者指定事件(保全を含む)を起こすなど初動が非常に大事である。
・警察や児童相談所を介して早期に連れ戻すということは難しいケースが多い。

 

 

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投稿者: 弁護士秦真太郎

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