【夫から我が子への虐待(17)】離婚すべきか悩んだ末に「一旦別居」する場合に別居の合意書はどのように作成すべきか?
2024.06.24更新
こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「どこよりも分かりやすい解説」を目指して詳しく解説していきます。
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1.そもそも、合意書を作った方がよいのか?
一旦別居する際に、夫と口約束ができた場合、それ以上に文書を作るということになると、堅苦しく感じるかもしれません。
また、わざわざ書面を作成しなくても、メールやLINE、ショートメッセージなどでやり取りの履歴を残しておけば足りると考える方もいるかもしれません。
ただ、別居の約束事について書面を残しておかないと、夫側は後から約束の存在自体を争ってきたり、自分に都合の良い解釈をする危険性があります。
メールやLINE等でも、あなたが発言した内容はその通りだとしても、夫側はそれに了解していないとか、そこまで真剣に捉えていなかったなどと争ってくる可能性もありますので、必ずしも十分とは言えません。
2.合意書と言うと弁護士とかに作成を頼まないといけないの?
結論から言いますと、「弁護士に作ってもらわないと法律上の効力が認められない」ということはありません。
また、たまに私のところにご相談に来られた方の中には、「こういう約束事は公正証書にしないといけないんですよね?」と質問してこられる方もいますが、特に公正証書にする必然性はありません。
ただ、インターネットで調べていると、別居の合意書のひな型なるものを掲載しているサイト等もありますが、これをあまり深く考えずにそのまま利用してしまうと、後で思っていた効力が認められないということになってしまうケースもありますので、以下の手順に従って、しっかりとあなたの実情に即した内容のものを作成して下さい。
3.合意書に書き込む内容をブロック分けすると
合意書に書き込む内容を大まかにブロック分けすると、以下のような7個のブロックに分けることができます。
(1)最低限盛り込んでおいた方がよい事項
①別居の経緯
②別居期間
③別居中の生活費
④別居中の面会交流
(2)可能であれば盛り込んでおいた方が良い事項
必須とまでは言えないけれども、合意書に盛り込んでおくのが望ましい事項としては以下のようなものがあります。
①別居中の誓約事項
②ペナルティーに関する事項
③別居中の荷物に関する事項
以下ではそれぞれについて詳しく解説していきます。
4.【第1ブロック】別居の経緯に関する条項
例えば「令和4年に入ったあたりから夫法律太郎が長男の次郎に対して激しく叱責するといった行動が何回かあり、長男が夫と離れて暮らしたいと強く希望することから、令和4年〇月〇日より妻法律花子と長男は自宅を出て実家で別居生活を送ることにした。」といった書き方をします。
別居の経緯について、夫婦の共通認識を持つために、もっと具体的な内容を盛り込むケースもあります(例えば「令和4年〇月〇日夫が長男の頬を平手打ちにし、長男は翌日も顔が晴れているため学校を欠席した、令和4年〇月〇日も……といったことがあり、妻は、このような長男が虐待行為を受け続けることが耐えられなくなって令和4年〇月〇日より別居することとなった。」というような形です)。
このような別居経緯について、沢山の事情を盛り込みたいとおっしゃる方もいますが、あまり事情を盛り込み過ぎますと、夫との対立が激しくなって合意書の締結そのものが危うくなりかねませんし、合意書全体のバランスが悪くなってしまいますので、この「第1ブロック」の内容が細かくなり過ぎないように注意して下さい(第1ブロックの分量としては通常は5,6行以内に収め、どんなに長文にしてもA4用紙1枚を超えることがないよう留意して下さい)。
5.【第2ブロック】別居期間に関する条項
例えば「夫と妻とは、令和4年〇月〇日より1年程度別居する。」といった書き方をします。
別居期間については「1年」とか「半年」と言い切ってしまってもよいですが、「1年程度」というような書き方にしておくと多少柔軟性を持たせることができます。
別居期間については、夫側は極力短期間にしたがり、あなたの方はそこまで短期間にしたくないということで意見の対立が激しくなりやすいですが、「当分の間」とか「しばらくの間」という定め方にしてしまいますと、あいまいなため、後で争いの種になりやすいので、明確に期間を定めておいた方がよいと思います。
6.【第3ブロック】生活費に関する条項
例えば「夫は、妻に対し、別居中の婚姻費用として、令和4年〇月から別居解消または離婚するまで月額○○万円を、毎月末日限り、妻名義の○○銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○)に振り込む方法により支払う。振込手数料は夫の負担とする。なお、夫はこれとは別に、現在夫名義の口座から引き落としになっている妻及び長男の携帯電話利用料及び長男の給食費の引落を継続する。」といった書き方をします。
生活費のことは法律用語では「婚姻費用」と表現しますので、合意書にもそのような表現を盛り込みます。
なお、生活費としていくら請求するのかが分からないという場合には、裁判所の算定表のサイトをご覧になると参考になる数字が分かります(インターネットで「裁判所 婚姻費用算定表」と検索すると出てきますので、試してみて下さい)。
7.【第4ブロック】面会交流に関する条項
例えば「妻は、夫に対し、夫が長男と週1回程度電話で通話する形で交流することを認める。夫は、長男の体調に配慮し当面直接交流を求めない。電話交流の具体的日時、場所、方法等については、その都度夫婦間で協議して定める。」といった定め方をします。
面会交流というのは、夫がお子様と会うことについての約束事ということになります。
別居の経緯が、夫のお子様に対する虐待行為だという経緯に鑑みて、すぐに直接会う形での面会交流は難しいとしても、何も交流させないというわけにもいかないと思いますので、一旦電話で話をする形を認める形の条項です。
なお、電話の形にすると、夫側から「自由に電話させて欲しい」というリクエストがなされるケースもありますが、自由に電話する形になってしまいますと、際限なく電話してくる危険性もありますので「週1回程度」という形にしています。お子様の体調等を考慮して「2週間に1回程度」など頻度は実情に則して検討してみて下さい。
もちろん、お子様が月1回会うくらいなら大きな負担ではないと考えているということでしたら、夫側と月1回直接会う形で合意書を作ることも可能です。
この条項については、お子様の体調や意思を最大限尊重して取り決めるようにして下さい。
8.【第5ブロック】別居中の誓約事項
例えば「夫は、飲酒して長男を叱責することが多かったことを真摯に反省し、別居期間中は飲酒を控えることを、妻に対して誓約する。」といった定め方をします。
なお、この誓約事項の「第5ブロック」については、沢山の事項を盛り込みたいという話が出やすいブロックになりますが、あまり誓約事項を多くしてしまいますと、夫側が遵守し来てなくなりかねませんし、あなたがたくさん誓約事項をリクエストすると、夫側からも「そっちがそういうなら、こっちもこれを約束して欲しい」というように「誓約事項合戦」のようになってしまうことも多いので、あまり誓約事項が多くならないように注意して下さい。
また、第4ブロックまで出来上がればひとまず合意書としての体裁は整っていますので、この「第5ブロック」のところで夫婦の意見対立が激しい場合には、第5ブロックは盛り込まないとか、最低限のものにとどめるという形で折り合うこともあります。
9.【第6ブロック】ペナルティー条項
例えば「夫は前条の誓約事項に違反した場合、来月の小遣いを1万円減額することに合意する」といった定め方をします。
ただ、このようなペナルティーを盛り込むことについては夫側が強く反発してくることも多いため、この第6ブロックは最初から盛り込まないことも多いです。
10.【第7ブロック】荷物に関する条項
例えば「夫は、妻及び長男が残置した荷物を妻に無断で処分等しないことに合意する。」といった定め方をします。
荷物の件は、第6ブロックまでの条項に比べると重要性がかなり低くなりますので、敢えて盛り込まなくてもよいケースが大半かと思います。
11.合意書にはお互いがサインと印鑑を押す。
このようにして別居の合意書が出来上がりましたら、日付を記載し、夫婦がお互い住所と氏名を自署し、押印することで完成します。使用する印鑑は実印である必要はありませんが、厳粛さを持たせるという意味では実印を用いてもよいと思います。
12.まとめ
・別居中のトラブル防止の観点からは、合意書という書面を作成しておくと安心である。
・合意書は個人でも作成できるので、弁護士に作成を依頼する必要はない。
・但し、インターネットで掲載されているような「ひな型」をそのまま利用するのは禁物である。
・合意書には大きく以下の7個のブロックを盛り込むことが多い。
(1)最低限盛り込んでおいた方がよい事項
①別居の経緯
②別居期間
③別居中の生活費
④別居中の面会交流
(2)可能であれば盛り込んでおいた方が良い事項
①別居中の誓約事項
②ペナルティーに関する事項
③別居中の荷物に関する事項
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