夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(54)ー最近夫は完全在宅勤務になっているが、こちらに不利になるのか?
2023.06.19更新
こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
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1.そもそも「監護者」って何だ?
(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。
(2)親権の意味のおさらい
そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)
(3)要するに監護権って?
上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。
(4)監護者指定審判とは?
離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。
2.在宅勤務だと監護実績という部分で争いが激化しやすい
(1)監護実績とは?
監護実績というのは、分かりやすく言いますと、これまでお子様の育児にどの程度関わってきたのかという実績のことです。
監護者指定事件では、この監護実績が非常に重要な考慮要素とされます。なぜなら、これまでの監護実績が豊富であれば、その親御さんに引き続きお子様の世話を任せるのが安心だという評価を受けやすく、監護者指定事件で大きくリードすることができるからです。
(2)在宅勤務だと監護実績で争いが激化しやすい
元々、監護者指定事件では、監護実績について夫婦の言い分が大きく食い違うことも多々あります。旦那側は、監護権を獲得するために、積極的に育児に関わってきたと主張してくるため、言い分が食い違ってしまうのです。
そして、旦那側が在宅勤務だと、平日旦那側も自宅に居ることになりますので、「仕事をしながらも、育児に関わっていた」という主張がなされやすくなるのです。
逆のパターンを想定すると分かりやすいと思いますが、旦那側が出社勤務だという場合、旦那側が育児に関わっていたと主張しても、こちらから「夜遅くまで会社に行っていたのだから、物理的に育児なんてできるわけがない」と反論すると、旦那側は言い訳が難しくなります。
しかし、旦那側が自宅に居ると、「物理的に育児ができない」ということを言いにくくなってしまうため、一層監護実績という点で紛争が激化しやすくなってしまうのです。
3.夫が在宅勤務の場合、監護実績はどのように判断されるのか?
(1)大きく分けると3パターンが考えられる。
一口に夫側が在宅勤務だと言っても、大きく分けると、以下の3パターンがあると思います。
①【パターン1】あなたは専業主婦で、夫は在宅勤務
②【パターン2】(共働き)あなたも夫も在宅勤務
③【パターン3】(共働き)夫は在宅勤務だけど、あなたは出社勤務
上記の【パターン1】のケースですと、夫側が在宅勤務だと言っても、あなたの方が専業主婦として家事や育児に大きく関わっていることが推測されますので、夫が在宅勤務だからと言って、夫側が大きく有利になるということはないと思います。ただし、前述の通り、夫が出社勤務のケースと比較して、在宅勤務の方が、単純に通勤時間がなくなるわけですし、物理的に自宅に居るため、育児に関わりやすくなっていることは事実ですので、夫側の育児の主張に対しては丁寧に反論していく必要があります。
次に、【パターン2】のケースですと、お互いが在宅勤務ですので勤務形態という点から、大きな差はつかないことが多いと思います。ただ、お互いに在宅勤務だとしても、あなたは時間短縮勤務で、旦那側はフルタイム勤務だという場合、ある程度はあなたの方が家事・育児に関わる時間が取れるかもしれないと評価されることもあろうかと思います。
最後に【パターン3】のケースですと、勤務形態という点からは、残念ながらあなたの方が不利になってしまっていることは否定できません。そのため、あなた自身の監護実績をどのように証明していくのかという点が課題になります。
(2)結局、裁判所は何をもとに判断するのか?
監護者指定事件の手続を進めておりますと、監護実績についてのお互いの言い分が大きく食い違ってしまい、良い分だけでは、監護実績を判断することが難しいというケースも多いです。
そのため、裁判所側は、保育園の連絡帳等当時の状況を探れる資料を非常に重要視することが多いです。これを見れば、ある程度お子様がどのような生活を送っていたのかが分かりますし、誰が連絡帳を書いていたのかが分かれば、夫婦のどちらが積極的に育児に関わってきたのかが分かるからです。
また、今回のブログは、解説を簡明にするために、夫側が完全在宅だというケースで解説しましたが、実際には完全在宅ではなく、週2回は出社しているなど、一部出社しているケースもあります。そのような場合には、出勤簿などを提出して、どの程度出社していたのかを確認するといったこともあります。
4.在宅勤務のもう一つの懸念点
夫側が在宅勤務の場合、夫も自宅に居るため、こちらの育児方法に色々と口を挟んでくる機会も増えていきます。
口を挟むだけならまだしも、監護者指定事件の中で、あなたが子供を虐待して泣かせていたとか、不適切な育児をしている現場を見たといった主張がなされることもあります。
そのため、ある程度夫が言ってきそうな問題点があらかじめ分かっているようでしたら、早めにこちらの方から事情を説明するという形で対応することもあります。
5.まとめ
・夫が在宅勤務だと監護実績について争いが激化しやすい
・一口に夫側が在宅勤務だと言っても、大きく分けると、以下の3パターンが考えられる。
①【パターン1】あなたは専業主婦で、夫は在宅勤務
②【パターン2】(共働き)あなたも夫も在宅勤務
③【パターン3】(共働き)夫は在宅勤務だけど、あなたは出社勤務
・あなたが専業主婦の場合、夫が在宅勤務であっても大きな影響はないが、共働きの場合には一定の影響が避けられない。
・特にあなたが出社勤務の場合【パターン3の場合】には、しっかりと監護実績を証明していく必要が出てくる。
・監護実績の証明にあたっては、保育園の連絡帳などが最適である。
・在宅勤務の場合のもう一つの懸念点は、あなたの育児方法などについて夫がみて不適切な育児だなどと言い始めることである。
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