離婚問題

夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(38)ー夫の方が経済力があるが、大丈夫か?

2022.12.26更新

弁護士秦
こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

 

1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

 

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

 

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

2.夫の方が経済力があるというケースは非常に多い


 夫婦共働きというケースでも、奥様の方が収入が高いというケースは少数で、旦那側の収入の方が高額だというケースの方が多いと思います。
 また、結婚を機に、仕事を辞めて、専業主婦をしているという場合には、あなた自身の収入はゼロ、もしくは、パート勤務なので、大した収入がないというケースも多いと思います。
 このように、夫側の方が経済力が高い場合、特に、あなたが専業主婦で、ほとんど収入が無いような場合、監護者を決める時に、どのように影響するのでしょうか。

 

 

3.同居中、夫から散々言われていたので不安


 特にあなたが専業主婦の場合には、同居中に、夫側から「生活力がないから、お前が育てていけるはずがない」とか「仕事を辞めてこんなに立っているんだから、誰もお前のことを雇ってくれるはずがない」とか、散々に言われているケースもあります。
 そもそも、あなたが専業主婦になったのは、結婚や出産といった出来事があって、夫側とも相談しての結果なので、これを責められる謂れはなく、夫の発言そのものがモラハラ発言と言えるものです。
 ただ、夫からそのように言われていると、今後のことが不安になるのもよく分かるお話ですので、専業主婦であることが不利に働くのかという視点も踏まえて解説していきます。

 

 

4.キーポイントは家計が維持できていること


 監護者指定事件で重視されるのは、別居後の家計が維持できていることです。
 例えば、実家に転居し、実家の支援を受けることで、お子様の生活費も含めて家計を維持できているようでしたら、そのことで、不利に扱われることはほとんどありません。
 また、今は、貯蓄を切り崩して生活しているという場合でも、貯蓄が少なくなった段階で生活保護を申請して、生活保護費で暮らしていく予定だということでも、そのことで家計を維持できるのであれば、それほど大きく不利になるケースは少ないです。

 

 

5.家計維持にあたっては、婚姻費用も考慮して良い?


(1)夫側から婚姻費用が支払われている場合
 現在夫側から任意に婚姻費用の支払いがあり、今後の支払も期待できるような場合には、このような婚姻費用も家計維持にあたって考慮して差し支えありません。
 ただ、あなたが、夫との離婚を希望する場合、離婚した後は、養育費しかもらえなくなりますので、養育費しかもらえなくても家計を維持できるのか、といった点は考慮しておく必要があります。その際、児童扶養手当や児童育成手当等、行政の支援が期待できるような場合には、どのような支援が期待できるのか、いくらぐらい貰えるのかといった点を確認しておくと、より安心かと思います。

(2)夫側から婚姻費用が支払われていない場合
 これは、夫側の勝手な言い分ですが、「勝手に出て行ったやつには一銭も払わない」といったことを言ってくる夫もいます。
 そうやって婚姻費用がなかなか支払われない場合には、一旦は、婚姻費用の支払いが期待できないことを前提に家計を維持できるかを確認する必要があります。
 もちろん、婚姻費用は夫側に支払い義務がありますし、いずれは支払わなければならないものなのですが、現段階で支払われていないという場合には、「今は、今月分の婚姻費用も入ってきていませんが、いずれ、今月分も後から払われるから、その後払い分も考慮して下さい」と主張しても、現実に「今」あなたの手元に入ってきていない収入なので、家計維持にあたって考慮することは難しいです。

 

 

6.いつまでに就職すればよいか?


 たまに監護者指定等で有利に話を進めたいということで、就職活動に熱心に取り組んでくださる方もいます。
 もちろん、あなた自身がしっかりと稼いで、家計の状況がもっと良くなるようであればプラス材料にはなります(但し、前述のように現状でも家計を維持できているのであれば、あまり無理をする話ではありません)。しかし、一つ気を付けなければならない点があります。
 それは、就職活動や仕事をすることによって、お子様の世話や家事が疎かにならないかという点です。
 監護者指定事件では、現在のお子様に対するケアが行き届いているかどうかという点を重視することが多く、あなたが就職しているかどうかという点よりも重要性が断然高いです。
 そのため、就職活動や業務開始に伴って、お子様へのケアが疎かにならないようにして下さい。

 

 

7.将来の教育の充実等は、そこまで重視されない


 夫の方が経済力がある場合には、夫側から、「自分が育てていくのであれば、私立の小学校に入学させ、小学校時代から、遠足で海外に行かせたり、小学校高学年からは英語学習にも力を入れ、グローバルな教育を受けさせられる」というように、教育面で充実させられるといったことが主張されることがあります。逆に、あなたの元では、小学校受験や中学校受験をするだけの費用も出せないといったことを批判してくるのです。
 確かに、経済力の差がある場合、ある程度教育を受けさせる資金面での差は否定できません。
 ただ、裁判所が重視するのは、これまで誰がお子様の面倒を見て来て、今後もお子様のケアをしっかりと行っていくことができるのか、という点でして、教育を充実させられるかどうかといった点は「二の次」というように考えることが多いです。

 

 

8.お子様も充実した教育に期待してしまっている場合


 同居中、あまりに夫側がバラ色の教育のように話をするので、お子様の方も、詳しいところは分からないまでも、そのような「バラ色の教育」に期待してしまうというケースもあります。
 ただ、お子様の年齢からして、その「バラ色の教育」の詳しい内容が分からないまま、「なんとなくパパが言ってたから、そっちの方が良いと思っていました」という程度の話であれば、そのことが影響することはほとんどありません。
 また、お子様がもう中学生や高校生で、そのような教育に期待している面があったとしても、普段の生活面では、母親であるあなたとの生活でないと、生活が成り立たないと考えているのであれば、やはり、教育面よりも普段の生活面の方が重視されます。

 

 

9.まとめ


・妻側よりも夫側の方が経済力があるケースの方が多い。
・だからと言って、それだけで夫側が有利になるというわけではない。
・むしろ、普段の生活のケアを夫と妻どちらの方が担えるのかということの方が重要なので、経済面は「二の次」とされることの方が多い。
・経済面で重視されるのは、こちらの家計が維持できているかどうか、である。
・あまり就職を焦って、お子様へのケアが疎かにならないよう注意が必要である。
・現に婚姻費用が支払われているのであれば、婚姻費用が支払われることで家計が維持できていれば、それで差し支えない。
・お子様が将来の充実した教育に期待していても、普段の生活の方が重要性が高い。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(37)―関係機関調査ってなんだ?

2022.12.19更新

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1.そもそも「監護者」って何だ?


 

(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.関係機関調査って何だ?


 関係機関調査とは、お子様の監護状況を確認する一環として、現在または過去に関係していた機関に対して、家庭裁判所調査官が調査をかけることを言います。通常は、家庭裁判所調査官がその関係機関まで直接足を運んで話を聞くという形をとります。
一般的に関係機関調査の対象になるのは、①現在お子様が通っている保育園・小学校、②お子様がメンタルケアなどを受けている場合には、通院している病院、③児童相談所が関わっている事件の場合には、児童相談所等となります。

(1)関係機関調査の位置付け
 児童相談所が深く関わっている事件の場合、お子様への虐待の程度や頻度、虐待親の危険性等の判断にあたって、児童相談所の見解は非常に重要になりますが、①児童相談所が関わってはいるが、かかわりが薄い場合や、②児童相談所が全く関わっていない場合などでは、関係機関調査の重要性は、そこまで高くないことが多いです(家庭訪問やお子様の意思確認の方が、格段に重要性が高いです)。
 要するに、普段の学校での生活に問題等がないかを確認するといったものですので、あまり関係機関調査の結果を心配し過ぎない方が良いと思います。

(2)各関係機関調査ごとの特徴等
ア 保育園・小学校の調査
 保育園や小学校の調査は、現在お子様が通っている保育園・小学校の調査を行うことが多く、別居直前の保育園(転園前の保育園)・小学校(転校前の小学校)の調査までは行わないことの方が多いです。
 一般的には、家庭裁判所調査官が、その保育園・小学校まで足を運び、保育園ですと担任の保育士と園長先生から話を聞く、小学校ですと担任教師と教頭先生(又は校長先生)から話を聞くという形がオーソドックスかと思います(但し、保育園によっては、「うちは書面での回答しかしない」という方針のところもあって、その場合には、調査官が書面で質問事項を送り、保育園から書面で回答が来るということになります)。
調査の際、調査官は、お子様の普段の保育園・学校生活の様子(積極性や普段の態度、他の児童とのトラブルの有無・内容、宿題など提出物や授業準備の状況)や、小学校の場合、学校成績等を尋ねることが多いです。
 このような調査に先立って、あなたまたは夫側から保育園の連絡帳コピーや小学校の通知表コピーなどを事前に裁判所宛に提出し、調査官もある程度も事前に情報を得た上で、調査に臨むことが多いです。

イ 病院の調査
 ここでの病院の調査というのは、お子様が現状もメンタルケア等で病院に通院している際に、その病院医師から調査官が事情を聴くというものです。
 たまに、夫が過去に心療内科等への通院歴がある際に、こちらから、その病院への調査を希望する場合もありますが、裁判所側は、まず、夫側から診断書を提出させ、診断書で症状等が把握できるのであれば、それ以上に調査まではしないケースがほとんどだと思います。
 お子様の病院への通院期間が長い場合、調査の事前準備として、カルテを提出したり、または、主治医の意見書を提出するケースが多いと思います。このように事前にある程度の情報を把握した上で、調査を実施するのです。
 その後の対応は、主治医がどこまで協力してくれるかにもよるのですが、多忙な医師の場合、調査官が来訪して直接話をする時間をとることが難しいということで、電話での事情確認にとどめるケースもあります。
 なお、病院への調査の場合、カルテのコピー、主治医の対応、いずれも、費用が発生するケースも多いです(要するに、その医師に対して手間賃を支払うということです)。費用負担について両当事者間で話し合いが円滑に進めばよいのですが、円滑に進まない場合には、病院への調査(専門用語では「医療機関調査」などと言ったりします)をどこまでどのように実施するかに影響を及ぼすケースもあります。

ウ 児童相談所への調査
 お子様の関係で児童相談所が関係している場合、基本的には、家庭裁判所調査官の調査を実施していくことになります。
 ただ、あなた又は夫側が児童相談所に事情を話して相談しただけ(要するに、児童相談所としては調査等を一切実施していない)といった場合には、調査官の調査までは行わないこともあります。
 児童相談所は、調査官からの質問をまとめた書面を受け取り、書面で回答するという対応が多いですが、各児童相談所で対応が統一されているわけではないようで、調査官と直接面接して事情を話してくれることもあります。
 また、調査に先立って、あなた又は夫側から児相側に個人情報の開示申請を行い、その資料を事前に提出するよう裁判所から求められることもあります。

 

 

3.関係機関調査の順序


 関係機関調査を実施する場合、同時期に実施してしまうことが多いのですが、家庭訪問との先後では、①関係機関調査を早急に実施する場合と②家庭訪問と同時期に実施する場合とがあります。
①の進め方にするか、②の進め方にするかは、裁判官によっても異なるのですが、一般的には、②のパターンが多いかと思います。

 

 

4.まとめ


・関係機関調査とは、お子様の監護状況を確認する一環として、現在または過去に関係していた機関に対して、家庭裁判所調査官が調査をかけることである。
・関係機関調査としては、保育園・小学校、病院、児童相談所などが対象になることが多い。
・虐待の事案の場合、児童相談所への調査の重要性は非常に高いが、そうでない場合、関係機関調査はそこまで重要ではないことの方が多い。
・関係機関調査は、関係機関ごとに特徴がある。特に医療機関調査は、費用が発生する可能性がある点で注意が必要である。
・関係機関調査のタイミングは家庭訪問と同時期に行うケースが相対的に多い。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(36)―調査報告書の重み

2022.12.05更新

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1.そもそも「監護者」って何だ?


 

(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.調査報告書って何だ?


(1)調査報告書とは?
 調査報告書とは、家庭裁判所調査官が、調査した内容をまとめたレポートのようなものです。調査報告書は、家庭裁判所調査官が担当裁判官宛に報告するというスタイルを取っていますので、その内容を確認するには、弁護士が裁判所にて調査報告書のコピーをとってくる必要があります。

(2)調査報告書作成の流れ
 調査報告書がどのようなものなのかについては前述にて説明した通りですが、この説明だけでは、まだ今一つ理解しにくいと思いますので、時系列に沿って、より具体的にご説明しますと以下の通りです。
①裁判所の審判廷にて、裁判官が調査内容を宣言(調査発令などと言ったりします)
 合わせて次回審判期日を設定

②期日間で、調査官が必要な調査を実施

③調査官が調査報告書を書き上げて裁判官に報告

④弁護士がコピーをとって、あなたや夫側も調査報告の内容を把握

⑤調査報告の内容を踏まえて、次回審判期日で今後の進め方等を議論

(3)調査報告書はどのように章立てされているの?
 前述の通り、調査報告書は、期日の間に調査官が実施した調査経過や結果をまとめたものなのですが、監護者指定事件ですと、ボリュームが多いものですと30ページ近くに及ぶものもあって、最初から最後まで順に通読していると、概要は分かったけれども、詳しいところまでは理解が難しいということもあります。
 実際上、ボリュームが多い調査報告書でも、章立てがされていまして、特にあなたの関心が強い部分を何度か読み返すといったことをすると、より理解が進むと思います。
 具体的な章立ては、事件の内容によって順番が変わったりもするのですが、大きくは、以下のような章立てとすることが多いように感じます。
 なお、調査報告書では「第1章」「第2章」といった書き方はせず、ページトップに


 監護の経過


といった表記をして、このページ以降は「監護の経過」の調査結果を記載しているということが分かるようにしてあります。逆に言いますと、調査報告のページトップのタイトルを見れば、このページには何についての調査結果が書かれているのかが分かるようになっています。

 具体的な章立て(オーソドックスなパターンであって、タイトルの付け方や順序は調査官によって千差万別です)は以下の通りです。
①調査経過
 ほとんどの調査報告書では1ページ目に記載がある記載事項でして、調査官がいつ何を調査したのかということが分かる部分です(「令和4年4月10日 母及び母手続代理人弁護士と当庁において面接」というように端的にいつ何をしたのかだけが記載されています。

②関係者一覧
 ほとんどの調査報告書では1ページ目に記載がある記載事項でして、当事者やお子様、親族等を簡単に記載しています。稀に、調査官によっては、関係者一覧を省略するケースもあります。

③監護の経過
 これまでの育児における両当事者のかかわり方などを記載しています。お互いの言い分が食い違っている場合には、「父はこう説明した」「母の説明はこうであった」といった形で記載してあります。

④当事者双方の状況
 お子さんのことではなく、両当事者の現在の生活状況や心身の状況、経済状況等を記載しています。

⑤○○に対する当事者双方の主張
 どちらかの親からお子様に対する虐待が疑われるケースやお子様の障害や疾患等との付き合い方でお互いの言い分が大きく食い違っているような場合には、別に章立てして、詳しくお互いの言い分を記載することもあります。

⑥現在の未成年者の状況
 現在のお子様の登校(登園)状況、生活ぶり、面会交流の状況等について記載してあります。この箇所の記載は、現在お子様の育児を担っている奥様側の陳述内容をかいつまんで記載するケースが多いです。

⑦関係機関の調査結果
 調査官が小学校・保育園、病院や児童相談所から見聞きした内容が記載されています。なお、児童相談所等からの回答が書面で回答された場合には、調査報告書の末尾に回答書が添付されているケースが多いです。

⑧家庭訪問の結果
 調査官が、あなたの家を家庭訪問した際の様子等が記載されています。

⑨未成年者との面接結果
 調査官がお子様と1対1で話をした際の様子等が記載されています。

⑩調査官の意見
 今回の調査結果を踏まえ、今後どのような進行が望ましいといったことが記載されています。今後の手続の進め方を見極めるにあたって、最も重要な記載箇所です。
 このように「調査官の意見」が最も重要な記載箇所なので、当職は依頼者に対して、調査報告書はボリュームがあるので、最初から順番に読むのではなく、まず、最後の方の「調査官の意見」の箇所を先に読んでみて下さい、とお伝えすることもあります。

 

 なお、上記の章立ては、調査官が期日間に関係機関調査や家庭訪問、子の意向調査といった調査を一挙に進めてしまうケースでの章立てです。事案によっては、まずは、関係機関調査だけを先行して実施するというケースもあり、その場合には、調査報告書には関係機関調査の結果だけが記載されます。

 

 

3.調査報告書については、明確に結論が書かれてしまうケースが多い


 前述の通り、調査報告書は、家庭裁判所調査官が裁判官に対して結果報告するレポートです。このように聞くと、裁判官がそのレポートも参考にして結論を下すように捉えられがちですが、実際はそうではありません。
 前述の「調査官の意見」の章の中に結論、要するに、父母のどっちが監護者としてふさわしいといったことまで書き込まれてしまっているケースが大半です。
 そのため、それを受け取った裁判官は、よほどの事情がない限り、調査官の意見の通りに審判を下してしまいます。
 このように、調査報告書は非常に重みのある書類と言えます。

 

4.こちらの資料の準備


 前述の通り、調査報告書の中にほぼ結論が書きこまれてしまいますので、こちらの資料の準備も、調査着手前にほぼ出し尽くしてしまう必要があります(要するに、「調査報告書が出た後に、資料の補足などをしよう」というように悠長に構えていてはいけないということです)。
 このように監護者指定事件では、調査発令のタイミングを見極めながら、調査発令前、または、調査発令直後まで(遅くとも、調査官が本格的な調査に着手する前まで)に資料を出し尽くしてしまう必要があります。

 

 

5.まとめ


・調査報告書とは、家庭裁判所調査官が、調査した内容をまとめたレポートのようなものである。
・調査報告書はボリュームが多くなるケースも多いので、各章立てを意識して読み解くと理解が深まる。
・調査報告書の中でも「調査官の意見」の章が最重要である。
・調査報告書の中の「調査官の意見」の章には、父母のどちらが監護者としてふさわしいといった結論まで明記されるケースが多い。
・そのため、資料の提出は調査官の調査着手前までに出し尽くしてしまった方が良い。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(35)―お子さんの年齢に応じた手続きの特徴

2022.11.28更新

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1.そもそも「監護者」って何だ?


 

(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

2.お子様の年齢に応じた手続きの特徴


 一口に監護者指定事件と言いましても、お子様の年齢に応じて、手続きには一定の特徴があります。
 監護者指定事件では、様々な要素を総合考慮して、あなたと夫どちらが監護者にふさわしいかが決まるのですが、その中でも、以下の6個の要素は特に重要だと思います。
 お子様の年齢が特に重要な意味を持つのは、下記の「4)過去の児童虐待の有無・程度」、「5)子供の意思」になります。

1)監護実績
2)連れ去りの違法性
3)現在の監護状況
4)過去の児童虐待の有無・程度
5)子供の意思
6)面会交流の姿勢
 以下詳しく解説していきます。

 

 

3.お子様の年齢区分


 当職が監護者指定事件を取り扱っておりますと、裁判所は、大まかに以下の年齢区分に応じて、対応の仕方を変えているように感じますので、以下の区分に応じて解説していきます。
(1) お子様が0歳から4歳ころ(以下では便宜的に「乳幼児時代」と言います)

(2) お子様が5,6歳から小学校低学年(9歳くらいまで)頃(以下では便宜的に「小学校低学年頃時代」と言います)

(3) お子様が小学校高学年(10歳ころ)以上(以下では便宜的に「小学校高学年以上時代」と言います)

 

 

4.「過去の児童虐待の有無程度」について


(1)「乳幼児時代」の場合
 「乳幼児時代」のお子様は、実際に虐待と思われる行為を受けたとしても、その意味等を理解しきれず、また、そのことをしっかりと説明する言語能力も備わっていませんので、家庭裁判所調査官が直接お子様から事情を確認することは基本的にありません。
 そのため、虐待の証明のためには、あなた自身がお持ちの証拠が相対的に重要になってきます。

(2)「小学校低学年頃時代」の場合
 お子様の年齢が5歳以上になってきますと、ある程度の会話は可能になっていることが多いので、裁判所調査官は、直接お子様と会話をすることが多いです(但し、5歳や6歳ですと、まだお子様の言語能力の発達には個人差がありますので、十分な会話が難しいと感じた場合には、家庭裁判所調査官も詳しい会話はしないことも多いです)。
 しかし、お子様の年齢に鑑みますと、事細かく過去の事実を説明することは難しい年齢ですので、調査官が虐待の有無等について事細かく確認するのかというと、そのようなことはなく、「お父さんってどんなお父さんかな?」とか「お父さんとの思い出の中で楽しかった思い出って何かな?」といった質問をして、お子様の反応に応じて虐待のこと等についても尋ねるといったケースが多いように感じます。
 もちろん、虐待の有無が非常に重要な争点になっているケースやお子様が9歳で十分な会話能力があるという場合などでは、ストレートにお子様に直接、虐待の有無や内容について確認するケースもあります。

(3)「小学校高学年頃時代」の場合
 お子様が小学校高学年以上の場合、ある程度の難しい会話も可能になっていることが多いので、家庭裁判所調査官は直接虐待の有無や具体的詳細を尋ねることが多いです。
 なお、このぐらいの年齢になると、お子様自身があなたに対して「調査官からどのようなことを聞かれるのか?」とか「どのようなことを聞かれるのか分かっているなら、事前に準備しておきたい」といったことを言ってくることもあります。
ただ、調査官調査は面接試験ではありませんし、面接試験対策のようにして準備をすると逆効果になるケースが多いので、あまり特別な準備はしない方が良いことが多いと思います(もちろん、どのようなことを聞かれそうなのかについて概要は説明しておいて良いと思いますが「○月〇日どこどこでこれこれのことがあったから、そのことはすごく記憶によく残っていると伝えなさい」といったような面接試験対策のようなことはしない方が良いという意味です)。

 

 

5.「お子様の意思」について


(1)「乳幼児時代」の場合
 「乳幼児時代」のお子様は、現在自分が置かれている状況を正確に理解したり、自分の意思をしっかりと説明する言語能力も備わっていませんので、家庭裁判所調査官が直接お子様の意思を確認することは基本的にありません。
 但し、お子様と夫とを面会交流させてきた場合には、交流時の反応や、交流後のお子様の様子等は、参考情報として考慮されることがあります。

(2)「小学校低学年頃時代」の場合
 お子様の年齢が5歳以上になってきますと、ある程度の会話は可能になっていることが多いので、裁判所調査官は、直接お子様と会話をすることが多いです(但し、5歳や6歳ですと、まだお子様の言語能力の発達には個人差がありますので、十分な会話が難しいと感じた場合には、家庭裁判所調査官も詳しい会話はしないことも多いです)。
 ただ、お子様に対して「お父さんのところとお母さんのところどっちと一緒に住みたい?」といった質問をすることはなく、通常は「今の生活はどうか?」とか「引越前の生活はどうだったか?」といった尋ね方をするケースが多いと思います。
 また、お子様の理解力に応じて、簡単な心理テスト等を行い、内心を確認することもあります。

(3)「小学校高学年以上時代」の場合
「小学校高学年以上時代」の場合も「小学校低学年頃時代」の場合と大きな差はなく、調査官がお子様に直接意思確認をすることが多いです。但し、この年齢になると心理テストを実施することは少ないと思います。

 

 

6.調査官調査の特徴


 お子さんの年齢に応じて、家庭裁判所調査官による調査にも差が生じますので、以下概要をご説明します。

(1)「乳幼児時代」の場合

 乳幼児の場合には、まだお子さんは十分に発言できない年齢ですので、家庭裁判所調査官は、お子さんの発言ではなく、保護者であるあなたの気配りや対応という部分に重きを置いて調査が実施されることが多いです(但し、もうお子さんが4歳に達していて、かなりコミュニケーションをとれる状況になっている場合には、調査官がお子さんと直接会話するケースの方が多いです(これは、お子さんの成長の具合によります))。

 具体的には、まず、家庭訪問の際には、お子さんが誤飲・転倒等をしないような配慮がなされているか(要するに、引出し等にチャイルドロックがかかっているのかとか、小物がお子さんの手の届かないようなところに置いてあるのかといった点)、お子さんの反応に応じてどのようにあなたが対応するのかといった点を中心に確認が行われます。

 また、お子さんが十分に言葉を発することができない年齢ですので、あなたとお子さんが遊んでいる様子などから、あなたとお子さんとの関係性等を見極めようとすることが多いです。

 

(2)「小学校低学年時代」の場合

 お子さんが小学校低学年時代の場合、小学校教育が開始して(または、小学校入学に向けた準備が開始して)いますので、お子さんの学習環境がどのように整えられているのかという点が相対的に重要になってきます(但し、お子さんが小学校入学前であると、ある程度の教育面の確認はしますが、どちらかというと、「乳幼児時代」の際同様、あなたの気配り等の方を重視して調査するケースも多いです)。

 そのため、家庭訪問の際にも、どの程度学習環境が整っているか、学校から出された宿題や課題への取り組み方等を確認することに重きが置かれていきます。合わせて、もうお子さん自身が自発的に挨拶や自宅内の案内等を出来る年齢ですので、その様子等を調査官は見極めようとしてくることが多いです。

 また、お子さん自身が平易な会話は可能なので、調査官はお子さんと1対1で話をすることが多いです。

 

(3)「小学校高学年以上時代」の場合

 お子さん自身が難しい言葉もある程度理解するようになっており、合わせて、家庭環境やそのような環境の中で自分が置かれた立場等についても大なり小なり理解していることが多いため、お子さん自身の発言や意思が、より重要性を増してくることになります。

 このようにお子さんが「小学校高学年以上時代」の場合でも、家庭訪問は行い、その際に、監護環境の確認は行われますが、それ以上に、調査官とお子さんとの1対1での会話の内容がより重要性を増していくことになります。また、そのような会話の際には、お子さん自身が過去の経緯等についても十分自分の経験や意思を言葉にすることができる年齢ですので、より突っ込んだ確認が行われることも多いです。

 

 

7.その他


 その他にも、「乳幼児時代」の場合、監護実績の証明にあたっては、保育園の連絡帳の持つ意味合いが非常に重要になるとか、面会交流にあたっても、お子様だけを預けることが難しいので、交流方法についても慎重な検討を要するなど、お子様の年齢に応じて、証拠集め等の準備や手続きへの取り組み方が異なってくるのですが、詳しくは弁護士にご相談ください。

 

 

8. まとめ


・お子様の年齢区分としては、以下の3区分で特徴が変わってくる。
① お子様が0歳から4歳ころ(以下では便宜的に「乳幼児時代」と言います)
② お子様が5,6歳から小学校低学年(9歳くらいまで)頃(以下では便宜的に「小学校低学年頃時代」と言います)
③ お子様が小学校高学年(10歳ころ)以上(以下では便宜的に「小学校高学年以上時代」と言います)
・監護者指定の重要要素の中でも「過去の児童虐待の有無・程度」「お子様の意思」の項目で対応が異なってくることが多い。

・家庭裁判所調査官による調査の際にも、お子さんの年齢に応じた特徴がある。

・その他にもお子様の年齢に応じて対応が異なってくる箇所やケースがあるので、詳しくは弁護士に相談してみるとよい。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(34)―夫から浮気を疑われていることはどこまで影響するか

2022.11.14更新

弁護士秦

こんにちは、東京・日本橋(神田至近)の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

1.そもそも「監護者」って何だ?


 

(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

2.夫から浮気を疑われている


 夫から浮気を疑われているという場合、その浮気が事実なのかどうかによって対応が異なってきます。
 なお、ここでの「浮気」というのは、法律上の不貞行為を意味する言葉として使っておりまして、要するに夫以外の男性と肉体関係に及ぶことを意味します。他の男性と二人で食事に行くこと等は含まないという前提で解説していきます。

 

3.【ケース1】浮気は事実ではないし、それを疑われる事情もないケース


 例えば、こちらが別居を開始したことについて、夫側が、「浮気しているに違いない」などと勝手に想像しているケースなどです。
 その場合には、あなたが浮気しているという事実がありませんし、そのような事実がない以上、疑わしい証拠や事実もないため、夫側が「浮気している」と主張していたとしても、当然監護者指定事件への影響は全くありません。

4.【ケース2】浮気は事実ではないが、疑わしい事情はあるケース


(1)どんなケースか?
 浮気が事実ではないので、それが疑われるということが分かりにくいかもしれませんが、例えば以下のようなケースなどです。
 例えば、別居後、知人を含めた4,5人でシェハウスに住んでいるが、その中に男性も含まれている。特にその男性と関係はないが、その男性と二人で食事に行っているところを夫側の探偵に写真を取られてしまったとか、その男性と日帰りで遊びに出かけたことがあって、その時のメールのやりとりが証拠で提出されてしまったといったケースになります。
 浮気の確たる証拠はないのですが、普段の生活がその男性も含めたものでして、そのことに加え、男性と出かけた証拠もあるとなると、浮気が「疑わしい」状況ではあると思います。

(2)そもそも浮気と監護者は関係があるのか?
 そもそも、浮気の問題と監護者の問題が関係あるのか?という点ですが、基本的には、浮気の問題は、夫婦の間の問題でして、監護者の問題とは切り離されて取り扱われることが多いです。
 要するに、浮気の確たる証拠があるならば、夫側はあなたに対して慰謝料請求をすることができるなど、夫婦としての紛争にはなっても、お子さんを育てていくにあたって的確なのかどうかとは基本的に別問題だということです。
 しかし、浮気との関係であなたの夜間の外出が頻繁だとか、あなたとその男性との外出にお子様も同行させていて、お子様の就寝時間がかなり遅くなることが多いという場合には、それは、お子様の育児にも関わってくる問題になります。
 このように「浮気を疑われる状況がある」ことそのものは監護者選びに直接関係しませんが、そのことでお子様の育児が疎かになったりする場合、その限度では問題になることもあるのです。

 

5.【ケース3】浮気は事実だが、夫側が全く証明できていない場合


 仮に浮気が事実だとしても、そのことを夫側が全く証明できていない場合には、敢えてご自身に不利な対応をする必要はないかと思われます。
 証拠がない以上、裁判所も、浮気の事実はないものとして、監護者指定の問題を審理していくことになります。

 

6.【ケース4】浮気は事実で、夫側にかなりの証拠を握られてしまっている場合


 実際にあなたが浮気をしていて、夫側にかなりの証拠を握られてしまっている場合でも、前述の通り、浮気そのものは、監護者選びには直接影響しません。
 ただ、この場合、大きく2点問題となることが多いです。

(1) 浮気を認めるか
 夫側は、あなたが浮気しているという事実を強く主張してきて、「そのような不健全な親に監護者を任せることはできない」と強く責めてくることが多いです。
 このケースでは、浮気の証拠を握られてしまっているため、浮気そのものを否定することは得策ではないことが多いです。なぜなら、浮気の証拠がある以上、裁判所は、浮気があることを前提に審理を進めますし、あなたが「浮気は事実ではない」と言い張ると、裁判所から見て「嘘をつく人」と見られてしまうリスクがあるからです。

(2) 住居の問題
 浮気をして別居しているケースの場合、新居に浮気相手が関わっているケースが多いです。
 別居先が正に浮気相手の家で、お子様とあなた、浮気相手の3人で暮らしているケースとか、一緒に住んではいないけれども、新居は浮気相手が経営する会社名義の部屋であるといったケースです。
 そのような場合には、新居がお子様の福祉にかなう生活環境と言えるのか、その住居の安定性が保たれているのかという観点から審査が行われることになります。

 このように夫側に浮気の証拠を握られている場合には、監護者指定との関係でどのように対応すべきかの判断が難しいケースも多いため、早めに弁護士に相談した方が無難かと思います。

 

 

6.まとめ


・浮気を疑われていると一口に言っても複数のケースが想定されるので、ケース分けが必要である。
・実際には浮気の事実などなく、疑わしい事情もないなら何も心配はいらない。
・実際には浮気の事実がないとしても、それが疑われる事情があるのであれば、そのことがお子様の育児面で影響がないかの確認が必要になる。
・実は浮気しているが、夫側に確たる証拠がないならば、敢えてこちらから不利になる対応をする必要はないものと思われる。
・実は浮気していて、夫が確たる証拠を持っている場合、浮気は認めた上で、育児面への影響の検討が必要になる。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(33)―弁護士へのセカンドオピニオンの活用法

2022.11.07更新

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神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

1.そもそも「監護者」って何だ?


 

(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

2.セカンドオピニオンとは?


 私のところには、監護者指定事件で既に弁護士を雇っているけれども、他の弁護士にも意見を聴きたいということでご相談に来られる方が多くいます。
 このようなセカンドオピニオンには、①あなた自身の事件について、どの程度有利に手続きを進めているのか、結論はどうなりそうなのか、という点を尋ねてくるケースと、②あなたが提出したいと考えている証拠について、どの程度効き目がありそうなのかを尋ねてくるケースがあります。

 

 

3.セカンドオピニオンの限界


 セカンドオピニオンは、現在あなたが雇っている弁護士よりも、より客観的に状況を把握する利点があります(あなたが雇った弁護士は、あなたと一緒に事件を戦っているため、どうしてもあなたの味方としての立場が表れてしまっていて、客観的な状況把握がしにくくなっていることもあります)。
 また、あなたが今雇っている弁護士の方針に疑問や不安があった場合、セカンドオピニオンで、その弁護士の方針に誤りがないと聞くことができれば、大きな安心材料になります。
 そのため、セカンドオピニオンは、「今雇っている弁護士と違う意見を聴く」ということではなく「今雇っている弁護士と同じ意見を聴いて安心する」というメリットもあります。
 ただ、セカンドピニオンは、限られた時間内で、限られた資料の中で意見を述べるに過ぎませんので、時間的、資料的な制限があることは否めません。

 

 

4.あまりセカンドオピニオンを多用することはオススメしない


 たまに、今後の手続や結論への不安が強く、何人もの弁護士にセカンドオピニオンを繰り返しているという方もいます。
 前述のように、セカンドオピニオンは、、限られた時間内で、限られた資料の中で意見を述べるに過ぎませんので、時間的、資料的な制限がありますので、「弁護士によって少しずつ言うことが違う」と感じることも出てくるかと思います。
 そうなると「沢山の弁護士に話を聞いて、余計混乱した」とか「余計に不安が増してきた」ということにもなりかねません。
 そのため、セカンドオピニオンを求めるにしても、多くても2,3件程度にとどめておいたほうが良いと思います。

 

 

5.定期的アドバイザリーは?


 セカンドオピニオンからさらに進んで、今の弁護士を雇いながら、定期的なアドバイザリーをお願いしたいと依頼されることもあります。
 ただ、定期的アドバイザリーは、裁判所の法廷に足を運ばずに弁護士がアドバイザーになるというものですので、どうしても、裁判所が考えている方向性とずれてしまう側面が否定できません(実際に法廷に足を運ぶと、裁判官の発言や表情を直接見聞きできますので、アドバイザリーとして、そのような直接見聞きができないという点は大きなビハインドと言えます)。
 そのため、私自身は、そのような定期的アドバイザリーを引き受けることはしていません。
 他の弁護士も、「定期的アドバイザリーは引き受けない」という弁護士も多くいますので注意が必要です。

 

 

6.今雇っている弁護士を変えたほうが良いのか?


 セカンドオピニオンを受けていると、「今雇っている弁護士を変更したほうが良いのでしょうか?」という質問を受けることが多いです。
 ただ、私がお話を聞いていると、その弁護士が、そこまでおかしな弁護活動を行っているようには感じず、相談に来られた方も、引き続きその弁護士にお願いするということでお帰りになることが大半です。
 そのため、私が途中から交代して弁護につくことは、「ごく少数」という印象です。

 

 

7.セカンドオピニオンを受けるのが非常に遅いと感じることが多い


 監護者指定事件でセカンドオピニオンのご相談を受けるタイミングとしては、家庭裁判所調査官からこのように言われたとか、裁判官からこのように言われた、もしくは、調査報告書でこのように書かれてしまったというケースが多く、残念ながら、「そこまで手続きが進んでしまっていると、弁護士を交代して劇的に好転させることは難しいです」という状況のことが多いです。要するにセカンドオピニオンの相談が「遅過ぎる」ということです。
 特に、「知り合いの紹介で弁護士を雇ったんですが、監護者の事件は初めてみたいなんです」などと言われることも多いのですが、監護者指定事件は特に専門性が高い事件なので、最初の段階で対応を誤ってしまっている側面が否定できません。
 そのため、監護者指定事件では、最初から専門性が高い弁護士にお願いするということが特に重要と言えます。

 

 

8.まとめ


・セカンドオピニオンは客観的な意見を聴けることが多いが、時間的・資料的限界がある。
・あまりセカンドオピニオンを多用することはオススメしない。
・定期的アドバイザリーについては、そもそも、そのような契約形態は引き受けないという弁護士も多いので注意が必要である。
・今雇っている弁護士を交代させたほうが良いというケースは稀である。
・事件途中でセカンドオピニオンの相談をするのではなく、最初から弁護士をしっかりと選んだほうが良いケースが多い。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(32)―子供へのモラハラはどの程度考慮されるのか?

2022.10.24更新

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神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

 

1.そもそも「監護者」って何だ?


 

(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

2.子供へのモラハラって?


 モラハラについては 「言葉、態度、文書などによって継続的に相手の人格や尊厳を傷つける精神的な虐待行為」などと定義されたりしますが、これだけではピンと来ない方が多いと思います。具体的にお子様との関係での夫の発言や行動で「モラハラ」と評価し得るものとしては以下のようなものがあります(これが「モラハラ」の全て、というわけではなく、あくまで代表例とお考え下さい)。
なお、夫がお子様に直接手をあげるケースは、もはやDVに該当しますので、一旦モラハラとは分けて考えます(以下では、このようなDVにまでは達していないケースを想定して解説いたします)

(1)お子様に対して暴言を吐く
 お子様へのモラハラの典型例のようなケースですが、より詳しく見ますと以下のようなものがあります。なお、暴言やあなたやお子様ご本人に向けられるケースだけでなく、パパ友やママ友、お子様の友人等が集まる場所等で発言されると、より一層お子様は傷つくことになると思います。
①お子様を侮辱するような発言をする(「バカ」「アホ」だとかの単純なものから、お子様の容姿を侮辱するもの、お子様の学習能力や知識不足等を侮辱するものなどがあります)
②お子様に危害を加えるような発言をする(「一度殴られないと直らないのか?」、「むしゃくしゃしてお前を殺してしまいそうだ」等々)
③叱責する際などに敢えてお子様が傷つくようなことを言う(例えば「テストの点が悪かったから、おまえのこのゲームは捨てるからな」、「朝の勉強をさぼっていたから、週末はお出かけ禁止な」とか「遊びに行ってる暇があったら、ドリルを1ページでも進めとけよ」等)

 

(2)執拗な責め立て等
 これもお子様へのモラハラとしてはよく見られるケースですが、より詳しく見ますと以下のようなものがあります。
①些細な問題を執拗に責め立てる(「この前のテストで90点だった理由をしっかりと説明しろ」「昨日音楽の笛を学校へ持って行き忘れたことの反省文を書け」「この前の誕生日会で俺に恥をかかせたことについて、参加者に謝ってこい」等々)
②責め立てが何時間も延々と続く
③責め立てが夜中や早朝など時間を問わず長々と続く
④責め立ての際、正座や土下座を強要する

 

(3)物への八つ当たり等
 例えば、機嫌が悪いと物に当たり散らす。大きな物音を立てる(席を立つ際に椅子を乱暴にテーブルにぶつける、大きな音を立ててドアを閉める等)といったものです。
 特にお子様が大事にしているものとか、お子様のデスクや衣装ケースなどを傷つける行動は、お子様にもショックが大きいと思います。

 

(4)行動監視や強要
 例えば、以下のようなものがあります。
①お子様のスマートフォンにGPSアプリを入れて頻繁に位置情報を確認してくる
②門限その他家庭内のルールを作って、お子様に強要する(勉強の時間は何時からとか、入浴の時間は何時からなどと細かく決めた上で、1分でも過ぎると執拗に責め立ててくるとか)
③お子様が口にするお菓子等について夫の気分次第で種類や値段を制限してくる

 

3.お子様へのモラハラは、どこまで考慮されるか


 上記のようなモラハラは、頻繁であったり、執拗であったりすると、お子様はもちろん、あなた自身も非常に窮屈で、普段の生活において常に緊張を強いられるような大きな心理的負担を生じるケースも多いと思います。
 ただ、これらのモラハラがストレートに監護者指定に大きな影響を与えるのかと言いますと、残念ながら、影響は「大きくない」という印象です。
 裁判官や裁判所調査官は、第1次的には暴力行為があったかなかったか、そのことでお子様自身が怪我をしたことがあったかなかったかという点を気にかけ、これらがなかったということになると、虐待事案としては、大きな虐待はなかったと捉えがちなのです。

 

4.お子様への意思確認で生きてくる


 上記のようにご説明しますと、「それなら子供へのモラハラを主張しても意味ないんですね」とか「子どもへのモラハラの証拠は不要ですね」とおっしゃる方もいますが、そうではありません。
 モラハラそのものは、直接監護者指定に大きな影響はないとは言っても、全く無関係ではないからです。
 また、特に、お子様が夫側を嫌がっているとか、接点を持ちたくないと発言しているような場合には、その根拠として意味を持ってきます。
 要するに、監護者指定事件では、様々な要素が考慮されるのですが、お子様が一定の年齢に達している場合、「お子様の意思」も重要な判断要素の一つになります。
 お子様が夫側を嫌がっているとか、接点を持ちたくないと発言しているような場合、家庭裁判所調査官は、必ず理由を尋ねますので、その際に、モラハラ行為の存在が生きてくるのです。

 

 

5.モラハラ行為をこちらに有利に活かすには


 前述の通り、お子様の意思確認の段階で、モラハラ行為の存在はそれなりに意味を持ってくることになります。
 ただ、こちらが夫のお子様に対するモラハラ行為を主張しても、夫側が全否定してくるケースも往々にしてあります。
 そのため、モラハラ行為を監護者指定事件で活かしていくにあたっては、やはり、その証拠がどの程度あるのかという点が重要になってきます。
 録音が最たるものですが、夫側が壁や床、物を破壊したといった場合には、その写真も有効な証拠になります。

 

 

6.まとめ


・お子様へのモラハラには、①暴言、②執拗な責め立て、③物への八つ当たり、④行動監視や強要といったものがある。
・DVに至らないモラハラは、裁判官も重要視しないケースが多い。
・だからと言ってモラハラを指摘しなくて良いということではない。
・モラハラの存在は、お子様の意思確認の際に活きてくる。
・重要なのはモラハラの証拠集めである。

 

 

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投稿者: 弁護士秦真太郎

夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(31)―監護者指定事件で重視される「児童虐待」とはどのようなものを指すのか?

2022.10.17更新

弁護士秦 

こんにちは、東京・日本橋(神田至近)の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

1.そもそも「監護者」って何だ?


 

(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.児童虐待とは?


 どのような行為が児童虐待に該当するかについては、児童虐待防止法に定めがあり、具体的には以下の通りです。

 

【児童虐待防止法より引用】

第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

 

 

3.それぞれの詳しい解説


 児童虐待防止法の定めは前述の通りですが、これだけを見ていても理解しにくいと思います。今回は、特に、監護者指定事件で重視されるような「児童虐待」について解説していきます。

(1)お子様への暴力
 前述の通り、児童虐待防止法上は、お子様に怪我ができるか、怪我ができる可能性があるものを一つの線引きとしています。
 もちろん、このようにお子様に対して直接暴力を振るい、お子様に現実に怪我ができたり、怪我ができる可能性がある場合には、監護者として即不適格ということになろうかと思います。

 ここでの「怪我ができる可能性がある」というのは、それだけの強い威力の暴力ということですので、例えば、①DV夫がお子様を殴ったケースなどで、お子様がよけたので怪我をしなかったけれども、拳が壁に当たって壁が大きくへこんでしまったとか、②お子様が咄嗟に逃げたので怪我をしなかったけれども、DV夫が凶器を振り回したケースなどがこれに該当します。
 ただ、このようにお子様が怪我をする危険性があるような暴力でなくとも、お子様自身がDV夫からの暴力被害を記憶していて、そのことが理由でDV夫のことを怖がっているといった事情がある場合には、監護者指定にあたっても、夫側に大きく不利な事情になります。

 

(2)お子様へのわいせつ行為

 夫側がお子様に対してわいせつ行為に及んだことがあったり、お子様自身にわいせつな行為をさせたことがあるような場合には、直接の児童虐待に該当しますので、監護者として即不適格ということになろうかと思います。
 監護者指定事件で争われる場合には、上記のような直接的な性的虐待ではなく、①夫がお子様に対して性的に不適切な言動に及ぶ場合や②お子様の前であるにもかかわらず、性的描写のある映画や動画、本等を鑑賞するといったケースの方が多いかと思います。

 このようなケースでは、このような性的虐待についてどこまで客観的に証明できるのか、それがお子様にどこまでの悪影響を及ぼしているのかがキーポイントになってくるかと思います。なお、お子様の年齢によっては、性的虐待の意味合い等をお子様自身が十分認識できず、そのことについて自ら口に出して表現できないことも多いと思いますが、実際にはお子様の心の奥底に傷跡を残していることも多いので、小児心理の専門医に相談してケアをしていったほうが良いケースもあろうかと思います(当該医師から、性的虐待の後遺症が残っているような診断がなされた場合、その診断結果も重要な証拠になります)。

(3)ネグレクト
 上記の通り、児童虐待防止法にて「児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。」と規定されているものですが、いわゆるネグレクトのことを意味します。
 監護者指定事件では、同居中の言動や行動を問題にすることが多いので、ネグレクトは取り上げにくいというのが実際のところではないかと思います。

 例えば、あなたが週末出かけた場合で、夫が自宅でお子様の面倒を見ていた際、ネグレクトをしていたというようなケースですと、夫がそのようなことを繰り返していた場合、残念ながら、あなた自身に対しても、裁判所は「どうしてそんな夫にお子さんを任せて出かけたのか」ということで責められる危険性が高いのです。
 このように同居中の夫側のネグレクトは、あまり極端なものであった場合には、どうしてあなたが防止できなかったのか、ケースによっては、防止する意識が薄かったのではないか?とか、黙認していたのではないか?と裁判所から言われてしまい、あなた自身の育児の問題点とされてしまう危険性もあるのです。

(4)お子様への暴言・面前DV
 児童虐待防止法2条4号は、DV夫からお子様への直接の暴言と面前DVを児童虐待と定めています。以下では暴言と面前DVに分けて解説していきます。

ア 暴言
 児童虐待防止法は、「児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応」を児童虐待と定義しています。要するに単なる暴言ではなく「著しい」暴言のみを対象にしているのです。
 ただ、その暴言が「著しい」ものなのかの区別は非常に難しく、こと監護者指定事件では、著しいものかどうかを問わず、暴言を受けることでお子様にどのような悪影響が生じてしまっているのかという観点を重視する傾向が強いです。実際のところ、DV夫が発した口頭の言動を細かく確定することは不可能に近いので、お子様自身がどう受け取ったのか、どう感じているのかといった観点から検討していく他ないのです。
 特に、お子様が①DV夫からの言動が怖かったとか、そのことで夜なかなか寝付けなかったといった話をしているとか、②DV夫の言動を真似て他の友人にそのような発言をしてしまったといった場合には、DV夫側は監護者指定で大きく不利になるケースが多いと思います。

イ 面前DV
 面前DVは、児童虐待防止法上、児童虐待と位置付けられているのですが、監護者指定事件では、あまり重視されない傾向が強いです。裁判所は、妻側に対する暴力は、夫婦間の問題と考える傾向が強く、そのことがストレートに監護者としての適格性に大きな影響を与えないと考える傾向が強いのです。
 もちろん、面前DVでお子様の心身に具体的な悪影響が生じてしまっているといったケースでは、そのような事情も監護者指定にあたって重視されますが、そうでない場合には、残念ながら、あまり重視されないとお考え下さい。

 

 

4.監護者指定事件で争っていくにあたっての基本的な視点


 このように児童虐待のお話をしますと、「夫がそのような発言に及んでいたことがないかよく思い出してみます」と反応なさる方が非常に多いのですが、どちらかと言いますと、昔のことを思い出すというよりも、「どのような裏付けがあるか」をしっかりと確認することの方が重要性が格段に高いです。
 裏付けもなく言い分を述べても、DV夫側は「そのような事実はない」と否定してくることが多いので、そうなると、裁判所も、そのような言動があったかなかったかを明確に判断できないのです。

 

 

5.まとめ


・児童虐待については児童虐待防止法で大きく以下の5つを定義している。
 ①お子様への直接暴力
 ②お子様への性的虐待
 ③ネグレクト
 ④お子様への著しい暴言等
 ⑤面前DV
・監護者指定事件の中での児童虐待の重要性は、児童虐待防止法の定めとずれる部分もあるので注意が必要である。
・監護者指定事件では、「過去の児童虐待をよく思い出す」というよりも「その裏付けを探す」ということの方が、重要性が高い。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(30)―どんなケースで保全の結論が先に出されるのか?

2022.10.03更新

弁護士秦

こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。

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1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。

 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.監護者指定事件は実は3個の事件が同時並行で審理されている


 「監護者指定審判事件」と言いますと、事件は「1個」のように誤解されがちですが、監護者指定審判事件では、子の引渡し審判事件と、これらの事件の保全事件も一緒に申し立てられているのが通常です(よく「三点セット」などと言われたりします)
 そして 保全事件(仮処分などと言ったりもしますが)は、一般的な審判事件よりも特に急いで結論を出してほしいと要求する事件ということになります。言い換えると、暫定措置として子の引渡し等の結論を出してほしいという申立てになります。

 

 

3.裁判官から「保全の結論を先に出す」と言われたがどういうことか?


(1)前述の通り、監護者指定事件では、①監護者指定事件と②子の引渡し事件、③保全事件の3つの事件が同時並行で審理されています。
 「保全の結論を先に出す」というのは、上記の①と②の事件の結論が出る前に、先に③の結論を出すということになります。

(2)要するにどういうことか?
 特にお子様をあなたが育て続けることで問題がないようでしたら、保全事件のみ先行して結論を出す必要はありません(上記の①から③の事件を同時並行で審理継続すれば良いという意味です)。
 そのため、「保全の結論を先に出す」という意味は、監護者指定を申し立てた夫側のいう通りに、暫定的にせよ、仮の監護者を夫に指定する、お子様を引き渡せという結論を出すという意味です。
 そして、保全についての結論が出た場合、これに対して不服申し立て(即時抗告と言います)をしても、執行停止が認められないと、保全に基づく執行が実行されて、お子様を夫側に引き渡さなければならなくなります。
 そのため、裁判官が「保全の結論を先に出す」と発言したことは、こちらにとって不利な結論を想定しているとイメージした方が良いです。

 

 

4.どんなケースで保全先行となるのか?


 保全先行となる事件は複数あり得るのですが、以下では代表的なものをご紹介いたします。

(1)あなたが海外での生活を近日中に予定している
 一時的に海外出張を予定しているとかであれば、それだけで保全の結論が先行する可能性は低いのですが、数年単位で海外に生活する予定であるといった場合には、仮に夫側の監護者指定事件の申立てが認められても、それを執行し得ないという事態になり得ますので、保全の結論が先行することがあり得ます。

(2)連れ去りの違法性が顕著な場合
 特に夫側に事前に別居のことを相談していなかったとしても、①これまであなたが中心となってお子様の育児を担ってきたこと、②お子様自身は別居に同意していたことという両方の条件を満たす場合には、それが「違法な」連れ去りと評価される可能性は極めて低いです。
 逆に、上記の①と②の条件のいずれか又は両方を満たさず、連れ去りの違法性が顕著だと認定されてしまいますと、裁判所も「早くお父さんのところにお子さんを返してあげたほうが良い」と考えて保全の結論を先行させることもあり得ます。

(3)虐待の危険性が高い場合
 監護者指定事件になりますと、夫側があなたの逆外を疑っている旨の主張がなされることが多いのですが、それだけで保全が認められることはまずありません。
 ただ、その虐待主張に裏付けがあり、その内容次第では裁判所が保全の結論を先行させるということもあり得ます。

(4)住居の不安定性
 あなたの住居が友人宅を転々としているというような場合には、残念ながらお子様の住環境が一定しないと言ことになり、お子様にとって少なからず悪影響となっていることは否めません。
 そのため、その内容によっては、保全の結論先行となるケースもあります。

(5)上記のような事情があればすぐに保全先行となるわけではないこと
 保全事件の結論を出すためには、監護者指定事件が認められる「蓋然性」が必要だとされています。
 すなわち、「夫側が監護者としてふさわしいという結論に至る可能性が高い」という状況が必要だということです。
 そのため、代表的なケースを前述の通りに紹介しましたが、そのような事情があっても、それまでのお子様の育児をあなたが担っていて、今後もその育児を継続した方が望ましいというケースですと、保全先行となることはほとんどないかと思います。

 

 

5.まとめ


・保全事件(仮処分などと言ったりもしますが)は、一般的な審判事件よりも特に急いで結論を出してほしいと要求する事件のことである。
・保全先行というのは、暫定的に夫側を仮の監護者に認める結論を想定している可能性が高い。
・代表的なケースとしては、以下のようなケースで保全先行とされることがあり得る。
 ①あなたが海外での生活を近日中に予定している
 ②連れ去りの違法性が顕著な場合
 ③虐待の危険性が高い場合
 ④あなたの住居が不安定な場合
・上記の①から④の事情があっても、夫側が監護者にふさわしいというような事情がないと保全先行で結論を出すことは少ない。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を申し立ててきた(29)ー裁判所はこれまでの監護実績についてどう認定するのか

2022.09.26更新

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1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。

 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

 

2.裁判官は監護実績についてどう判断するのか?


(1)監護実績については言い分が大きく対立することも多い
 これまでの監護実績(同居中、お子様の育児にどのくらい関わってきたのか)は監護者指定にあたって非常に重要な要素です。
 ただ、監護実績については、お互いの言い分が大きく食い違うケースも非常に多いのが実情です。裁判官によっては、アバウトにお互いの監護割合を確認したいので「これまでの育児の割合として、あなたの比率と旦那さんの比率だとどのくらいですか?」と質問してくることも多いのですが、そのようなときに、あなたは9対1と答え、夫側は、自分の方が比率が高く7対3(夫7で妻が3という趣旨)と答えるなど、言い分が大きく食い違うことが往々にしてあります。

 それでは、裁判官はどのように監護実績を判断するのでしょうか。

(2)一番大きな鍵になるのが連絡帳
 お子様を保育園に通わせている場合には、毎日連絡帳を記帳していることも多いと思います。このように連絡帳を誰が記入しているのか、どこまでの内容を書いているのかという点は非常に重要な判断要素になります。
 率直に言いますと、監護実績について端的に証明できる証拠は通常ほとんどなく、連絡帳がほぼ唯一の証拠と言えるからです。連絡帳は、日々、自然な形で記帳していますので、当時の様子を探る貴重な資料とされることが多いのです。

(3)育児日記は?
 監護者指定事件で時折問題になる「育児日記」というのは、自主的にノートなどに普段のお子様の様子やかかわり方等を定期的に記帳した日記のことを言います。
 当時から毎日記帳していたということを相手側も認めているようでしたら、育児日記も貴重な資料となります。ただ、相手が「妻は普段からそんな日記は付けていなかった。今回の審判に向けてバックデートで作ったものに違いない」などと言ってきた場合には、それほどの証拠価値は認められなくなってしまうことも多いです。

 特に育児日記とは言っても、大切なイベントなどがあったときのことしか書いていないというものについては、本当にその日に作成したのかという点の証明が難しいのが難点です(連絡帳の場合、毎朝記帳しなければならず、その後に毎日保育園の保育士の返答コメントがありますので、バックデートで作成することは非常に困難です)

(4)お互いの勤務形態も重要
 同居中のお互いの勤務形態も、育児への関わり具合を探る重要な判断要素になります。
 例えば、夫側は毎日遅くまで仕事をし、他方妻側は専業主婦だったという場合には、妻側の方が育児に関わる場面は大きかったということになります。同様に、共働きでも、妻側は時間短縮勤務で、夫側はフルタイム勤務という場合にも、妻側の監護割合の方が大きいと判断されやすいと思います。

(5)写真は?
 写真をどこまで重視するかは裁判官によるところが大きいです。裁判官によっては、お子様との関わりを示す資料になるので、「写真も出してほしい」とリクエストしてくることもありますが、全体的には少数派ではないかと思います。
 写真はどうしても普段の様子というよりは、旅行等特別な行事の時などに撮影することが多いので、「普段の監護実績」の証明資料としては弱いという面があります。

 

 

3.まとめ


・監護実績についてはお互いの意見が大きく対立することが多い。
・連絡帳は監護実績を探る貴重な資料とされることが多い。
・育児日記は、それまでの作成経緯、相手がどこまで争ってくるのかによる
・お互いの勤務形態等も監護実績を探る客観的状況として重要である。
・写真は、あまり重視されない傾向が強い。

 

 

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雨宮眞也法律事務所
弁護士 秦(はた) 真太郎
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