離婚問題

夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(55)―夫による連れ去り事案なのでこちらに有利に働くか?

2023.06.26更新

弁護士秦 

こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

 

1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

2.夫による連れ去り事案ってどういうケース?


 夫による連れ去り事案というのは、夫側がこちらに断りもなくお子様を勝手に自宅から連れ出し、夫だけ(夫の実家の補助を受けつつ)で育てていくようなケースを言います。
 よくあるケースとしては、①こちらが別居の準備をしていることを夫側が察知してしまい、こちらが別居を始める前に夫側が先に連れ去って行ってしまったケースや、②こちらの冗談の発現を夫が真に受けて、お子様に危険が及ぶ可能性があるなどと言って連れ去ってしまうケースなどがあります。

 

3.連れ去りは違法になるのか?


 連れ去りが違法な場合、夫側には大きく不利な要素となりますので、連れ去りが違法なのかどうかという点が非常に重要になります。
 一般的には以下のような要素を考慮して判断されるケースが多いです。

(1)【違法な連れ去りかどうかのポイント1】連れ去り態様
 「態様」というのは、分かりやすく言いますと、「連れ去り方」の問題です。
 例えば、大型のバンの後部座席に無理矢理お子様を軟禁するかのような態様で連れ去るケースだとか、保育園の保育士さんの全く目が届かないところで、勝手に園庭に侵入して連れ去ると言ったケースですと、態様そのものが違法な態様といえますので、違法な連れ去りと認定されるケースが多いかと思います。

(2)【違法な連れ去りかどうかのポイント2】お子様の意思
 ここでのお子様の意思というのは、別居に対してのお子様の意思と言うことになります。
 夫側がお子様を連れ去る場合、お子様の意思を十分確認せずに別居を開始していることも多いと思いますが、お子様が自宅に戻りたいとか、奥様と一緒に生活したいと希望するような場合には、お子様の意思に反していますので、違法な連れ去りと認定されるおそれがあります。
 なお、まだ年齢が小さい子は、自身の置かれている状況等をしっかりと把握できていないケースも多いので、お子様の意思の確認は6,7歳以上を一つの目安として確認することが多いと思います。

(3)【違法な連れ去りかどうかのポイント3】それまでの監護状況
 同居生活中の監護状況(それまでの育児への関わり方)は、違法な連れ去りかどうかの判断にも影響を及ぼします。
 同居中、育児をメインで担当していた場合、別居後も同居中の育児の延長とみなすことができますので、連れ去りの違法性は否定する方向に働きますし、逆に、同居中あまり育児に関わってこなかった場合、別居後しっかりと育児を担うことができるものと評価して良いのかという問題が発生しますので、連れ去りの違法性が肯定される方向に働くのです。

(4)【違法な連れ去りかどうかのポイント4】無断別居イコール「違法な連れ去り」ではない。
 たまに私が相談に乗っていますと、奥様の了解を得ずに連れ去ったことをもって「違法だ」と強くご主張なさる方もいますが、「無断別居」イコール「違法な連れ去り」ではありません。
 確かに、あなたの了解も得ずにお子様を連れて行っているのですから「連れ去り」にはなるのでしょうが、それが法律的に違法なのかどうかは、これまでに述べてきた考慮要素を総合的に検討して判断されることになるのです(要するに、連れ去りと言っても「適法な連れ去り」というのもあるということです)。

 

4.初動が非常に重要


 今回のブログは、夫側が監護者指定事件を起こしてきたというケースというタイトルにしてありますが、夫側が連れ去った場合には、あなたの方から監護者指定審判を申し立てるケースの方が多いと思います。
 そして、夫側の所在が判明し次第、速やかに監護者指定事件と保全事件を同時に申し立てて対応することが重要になります(その意味で「初動が非常に大事」です)。
 夫が連れ去った環境にお子様が馴染んでいけば馴染んでいくほど、夫側に有利になってしまいますので、早めに対処した方が良いのです。
 そして、監護者指定事件では、早めにお子様を取り戻すために、速やかに保全事件の結論を得られるよう尽力する必要があります。
※保全事件の詳細につきましては、まとめサイトから、本シリーズの(20)のブログをご覧下さい。

 

5.警察や児童相談所を活用して至急連れ戻すことはできないのか?


 たまに私が相談に乗っておりますと、「監護者指定事件だと保全だと言ってもどうしても時間がかかってしまうので、今すぐ警察に乗り込んでもらって、すぐに子供を保護してもらえないのか?」という質問を受けることもあります。
 旦那側の連れ去りが、あまりに乱暴な態様だというような場合には、警察も誘拐事件として取り上げてくれるケースもありますが、連れ去りは、通常、こちらの目が届かないところで実行されることが多いので、どのようにして連れ去って行ったのか、こちらには分からないことが多いです。

 そのため、誘拐罪と絡めて警察に動いてもらうことは難しいことが多いと思います。
 また、児童相談所についても、現状お子様が旦那側から暴力被害を受けているというような、明らかな児童虐待のケースであれば別ですが、そうでないと、児童相談所が大きく動くことは難しいと思います。

そのため、結局は、監護者指定事件(特に保全事件)の中で裁判所に速やかに結論を出してもらうという方法を取ることが多いと思います。

 

6.まとめ


・無断での連れ去りイコール違法というわけではない(同じ「連れ去り」でも「適法な連れ去り」となるケースもある)
・連れ去りが違法かどうかは、以下のような要素で判断されることが多い。
 ①連れ去り態様
 ②お子様の意思
 ③それまでの監護状況
・夫側に連れ去られた場合には、速やかに監護者指定事件(保全を含む)を起こすなど初動が非常に大事である。
・警察や児童相談所を介して早期に連れ戻すということは難しいケースが多い。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(54)ー最近夫は完全在宅勤務になっているが、こちらに不利になるのか?

2023.06.19更新

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1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

2.在宅勤務だと監護実績という部分で争いが激化しやすい


(1)監護実績とは?
 監護実績というのは、分かりやすく言いますと、これまでお子様の育児にどの程度関わってきたのかという実績のことです。
 監護者指定事件では、この監護実績が非常に重要な考慮要素とされます。なぜなら、これまでの監護実績が豊富であれば、その親御さんに引き続きお子様の世話を任せるのが安心だという評価を受けやすく、監護者指定事件で大きくリードすることができるからです。

(2)在宅勤務だと監護実績で争いが激化しやすい
 元々、監護者指定事件では、監護実績について夫婦の言い分が大きく食い違うことも多々あります。旦那側は、監護権を獲得するために、積極的に育児に関わってきたと主張してくるため、言い分が食い違ってしまうのです。
 そして、旦那側が在宅勤務だと、平日旦那側も自宅に居ることになりますので、「仕事をしながらも、育児に関わっていた」という主張がなされやすくなるのです。

 逆のパターンを想定すると分かりやすいと思いますが、旦那側が出社勤務だという場合、旦那側が育児に関わっていたと主張しても、こちらから「夜遅くまで会社に行っていたのだから、物理的に育児なんてできるわけがない」と反論すると、旦那側は言い訳が難しくなります。
 しかし、旦那側が自宅に居ると、「物理的に育児ができない」ということを言いにくくなってしまうため、一層監護実績という点で紛争が激化しやすくなってしまうのです。

 

3.夫が在宅勤務の場合、監護実績はどのように判断されるのか?


(1)大きく分けると3パターンが考えられる。
 一口に夫側が在宅勤務だと言っても、大きく分けると、以下の3パターンがあると思います。
①【パターン1】あなたは専業主婦で、夫は在宅勤務
②【パターン2】(共働き)あなたも夫も在宅勤務
③【パターン3】(共働き)夫は在宅勤務だけど、あなたは出社勤務

 上記の【パターン1】のケースですと、夫側が在宅勤務だと言っても、あなたの方が専業主婦として家事や育児に大きく関わっていることが推測されますので、夫が在宅勤務だからと言って、夫側が大きく有利になるということはないと思います。ただし、前述の通り、夫が出社勤務のケースと比較して、在宅勤務の方が、単純に通勤時間がなくなるわけですし、物理的に自宅に居るため、育児に関わりやすくなっていることは事実ですので、夫側の育児の主張に対しては丁寧に反論していく必要があります。

 次に、【パターン2】のケースですと、お互いが在宅勤務ですので勤務形態という点から、大きな差はつかないことが多いと思います。ただ、お互いに在宅勤務だとしても、あなたは時間短縮勤務で、旦那側はフルタイム勤務だという場合、ある程度はあなたの方が家事・育児に関わる時間が取れるかもしれないと評価されることもあろうかと思います。
 最後に【パターン3】のケースですと、勤務形態という点からは、残念ながらあなたの方が不利になってしまっていることは否定できません。そのため、あなた自身の監護実績をどのように証明していくのかという点が課題になります。

(2)結局、裁判所は何をもとに判断するのか?
 監護者指定事件の手続を進めておりますと、監護実績についてのお互いの言い分が大きく食い違ってしまい、良い分だけでは、監護実績を判断することが難しいというケースも多いです。
 そのため、裁判所側は、保育園の連絡帳等当時の状況を探れる資料を非常に重要視することが多いです。これを見れば、ある程度お子様がどのような生活を送っていたのかが分かりますし、誰が連絡帳を書いていたのかが分かれば、夫婦のどちらが積極的に育児に関わってきたのかが分かるからです。

 また、今回のブログは、解説を簡明にするために、夫側が完全在宅だというケースで解説しましたが、実際には完全在宅ではなく、週2回は出社しているなど、一部出社しているケースもあります。そのような場合には、出勤簿などを提出して、どの程度出社していたのかを確認するといったこともあります。

 

 

4.在宅勤務のもう一つの懸念点


 夫側が在宅勤務の場合、夫も自宅に居るため、こちらの育児方法に色々と口を挟んでくる機会も増えていきます。
 口を挟むだけならまだしも、監護者指定事件の中で、あなたが子供を虐待して泣かせていたとか、不適切な育児をしている現場を見たといった主張がなされることもあります。
 そのため、ある程度夫が言ってきそうな問題点があらかじめ分かっているようでしたら、早めにこちらの方から事情を説明するという形で対応することもあります。

 

 

5.まとめ


・夫が在宅勤務だと監護実績について争いが激化しやすい
・一口に夫側が在宅勤務だと言っても、大きく分けると、以下の3パターンが考えられる。
①【パターン1】あなたは専業主婦で、夫は在宅勤務
②【パターン2】(共働き)あなたも夫も在宅勤務
③【パターン3】(共働き)夫は在宅勤務だけど、あなたは出社勤務
・あなたが専業主婦の場合、夫が在宅勤務であっても大きな影響はないが、共働きの場合には一定の影響が避けられない。
・特にあなたが出社勤務の場合【パターン3の場合】には、しっかりと監護実績を証明していく必要が出てくる。
・監護実績の証明にあたっては、保育園の連絡帳などが最適である。
・在宅勤務の場合のもう一つの懸念点は、あなたの育児方法などについて夫がみて不適切な育児だなどと言い始めることである。

 

 

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夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(53)―精神疾患はどこまで手続に影響するか?

2023.06.05更新

弁護士秦

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1.そもそも「監護者」って何だ?


(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
 離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
 端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。

(2)親権の意味のおさらい
 そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)

(3)要するに監護権って?
 上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。

(4)監護者指定審判とは?
 離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
 「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。

 

2.全部で3パターン


 一口に精神疾患の影響と言いましても、①あなたが精神疾患のパターンと、②旦那側が精神疾患のパターン、③夫婦双方が精神疾患のパターンの3パターンがあると思います。
 そのパターンに応じて、監護者指定事件に与える影響も異なってきますので、それぞれについて解説していきます。
 なお、このブログでの「精神疾患」とは、心療内科医等から正式に精神疾患の診断を受けていることを指す用語として使っております。そのため、単に①精神的な不調があって今度病院でカウンセリングなどを受けてみようかと思っているとか、②心療内科に通ってはいるけれどもカウンセリングを受けているだけで、正式な診断は出ていない場合は除外して解説しています。

 

3.【パターン1】あなたが精神疾患のパターン


(1)残念ながら不利な要素の一つにはなってしまう
 前述の通り、監護者とは、今後お子様の身の回りの世話などをしていくにふさわしい人を指しますので、あなたが精神疾患を患っているということは、残念ながら不利な要素となってしまいます。
 ただ、精神疾患であるから、監護者を争っても勝てない、ということではありませんので、慎重に見極めていく必要があります。

(2)どのように考慮されるのか?
 あなたの精神疾患がどの程度影響するかは、主に以下の要素が考慮されると思います。

①精神疾患の診断名

②精神疾患の重症度

③精神疾患を患っていた期間

④今後の治療見込み

⑤精神疾患が日常生活に与える影響の度合い

⑥精神疾患が育児に与える影響の度合い

⑦精神疾患が特定の場所や状況で発現する場合、どのような状況等で発現するのか

 以下、それぞれについて解説していきます。
(3)【考慮要素①】診断名
 あなたが心療内科医又は精神科医に「診断書を書いてください」と依頼すると、その際に診断名も書いてくれると思いますが、その「診断名」のことです。
 例えば、パニック障害、適応障害、身体表現性障害、うつ病、ADHD、PTSD等、どのような病気なのかということです。
 この診断名ないし病名を見れば、どのような病気なのかということが明確になりますので、精神疾患の影響を探るには最も重要な要素と言えるかと思います。

(4)【考慮要素②】重症度
 前述の病名を見れば、ある程度その精神疾患の重症度が分かることも多いのですが、同じ病気でも、症状の重さは人それぞれかと思います。
 例えば、うつ病が良い例だと思いますが、かなり軽いうつ病の場合には、ほとんど日常生活に影響がないという方もいると思いますし、逆に、重度うつ病の場合には、日中はほとんど寝たきりに近いという方もいると思います。

 このような精神疾患の重症度も、精神疾患の日常生活への影響を探る上で重要な要素となります。
 このような重症度については、裁判所サイドは、①通院頻度(頻度が多い方が症状が重いと判断されやすい)、②処方されている薬の内容・分量(効用が強い薬、分量多めの方が症状が重いと判断されやすい)、③精神障碍者等級の認定を受けている場合にはその等級といったことから判断することが多いと思います。

(5)【考慮要素③】患っていた期間
 その精神疾患を患っていた期間がかなり長期間に及ぶという場合には、近い将来に治るということは難しいだろうということになると思いますし、疾患としては重いと判断されることが多くなってしまうと思います。
 ただ、例えば通院期間が4,5年と比較的長い場合でも、通院頻度は2か月に1回とか、それよりも少ないというような場合には、主にカウンセリング目的で受診していた可能性が高いということで、期間の長さがそれほど不利にならないこともあります。
 また、最近の通院期間は1年間だという場合でも、12年前から7年前の5年間も通院していたというような場合、過去の通院歴が今後にどのように影響を及ぼすのかという点も考慮されることが多いです(いわゆる既往歴の問題です)

(6)【考慮要素④】今後の治療見込み
 前述の通り、現状の精神疾患の具合が非常に重視されてしまうのですが、例えば新薬の治験が始まっていて、劇的に症状の改善見込みがあるといった場合には、そこまでこちらに不利にならないこともあると思います。
 今後どの程度のスパンで精神疾患と付き合っていかなくてはならないのか、どの程度改善していく見込みなのかといった点が考慮要素になります。

(7)【考慮要素⑤】日常生活への影響
 精神疾患としては決して軽い症状ではないとしても、例えば、朝はどうしても起きれないけれども、午前11時頃に起きた後は、ほぼ問題なく日常生活を送れるというような場合、朝のお子様の支度や朝食の準備さえフォローできれば、監護者として指定されるにあたって全く問題ないと評価される場合もあります。逆に普段はほとんど症状がないとしても、体調を崩したときには一気に不調になって3,4日寝込んでしまうというような場合には、そのように寝込んでしまう期間の生活をどうするのかということが大きな課題になります。
 このような精神疾患があなたの日常生活にどのような影響を与えており、どの程度制限になってしまっているのかという点も重要な考慮要素となります。

 前述の通り、監護者とは、今後お子様の身の回りの世話などをしていくにふさわしい人を指しますが、あなた自身の日常生活すらままならないということになってしまうと、「育児どころではない」と評価されてしまう可能性もありますので、育児を担う前提として、あなた自身の日常生活への影響も考慮されることになるのです。

(8)【考慮要素⑥】お子様の育児への影響
 前述のようなあなた自身の日常生活の問題もありますが、あくまで監護者指定事件ですので、お子様の育児にどのような影響を与えるのかという点も裁判所は注意深く見極めていくことになります。
 実際には、お子様が保育園に通っているとか小学校に通っているという場合には、担任保育士や担任教師から事情を聴いて、お子様の園や学校での様子で気になったことはないか、気になるような発言がないか、宿題や課題の遅れ、普段の登園・登校準備に不足等がないのか等を把握する中で、精神疾患の影響を見極めることが多いかと思います。

(9)【考慮要素⑦】症状の発現条件等
 精神疾患によっては、症状が現れる場所が限られるといったケースもあります。例えば、以前の職場でのストレスが原因で適応障害になってしまったというような場合、出勤すると症状が出るが、家庭内ではほとんど症状がないとか、パニック障害ですと、人混みだと症状が出るが、人混みを避ければ問題がないといったことです。
 このように発言の場所や状況が限定される場合、そのことが、子育てとの関係でどのような影響があるのかを見極めていくことになろうかと思います。

(10)結局は、お子様の育児にどの程度影響があるのかという視点で見極めていくことになる。
 前述のような考慮要素を相互して検討していくことになりますが、結局は、お子様の育児にどの程度影響があるのかによって、監護者にふさわしいかどうかが決まっていくことになります。
 裁判官が、あなたの精神疾患の詳細を確認したいと判断した場合には、カルテを取り寄せて治療の経過等を確認することもあります。

(11)夫からの暴力や暴言が原因なのにこちらに不利になるのか?
 あなたの精神疾患が、夫からの暴力や暴言を原因としているケースもあり、そのような場合にも精神疾患が不利に考慮されるというのは不公平だと感じると思います。
 この場合に、あなたの精神疾患が夫からの暴力や暴言のみを原因としていると明確に証明できれば良いのですが、医師もそこまで断定的に原因を特定してくれないことが多いと思います。
 そのため、旦那の暴言、暴力のせいでこうなってしまったという証明が難しいことが多いのが実情ではないかと思います。
 そのような場合には、「旦那のせいでこうなったのだから、旦那の有利な事情として考慮すべきではない」という視点よりも、「旦那は子供の前でも私に暴力を振るうような粗暴な人なんだ」という視点で戦った方が有利になる気がします。

 

 

4.【パターン2】旦那側が精神疾患の場合


 旦那側が精神疾患という場合も、考慮要素は前述の7項目の要素が考慮されることが多いです。
 ただ、旦那側特有の問題もありますので、以下の通り解説します。

(1)旦那はフルタイム勤務していて、その点では支障を生じていない場合、どのように評価されるのか
 旦那が精神疾患を患っているとしても、家族の家計を支えているのは旦那の収入であるというケースもあると思います。
 その場合、旦那が仕事に支障をきたしていないという事情はどのように考慮されるのでしょうか。
 一般的には、旦那の仕事に支障がないという場合、例え精神疾患を患っていたとしても日常生活面等にはほとんど影響がないと評価されることが多いです。
 仮に、多少仕事に支障を生じていたとしても、概ね問題なく仕事ができているということになりますと、監護者指定事件にあたって大きな減点要素にはならないことが多いです。

(2)あなたの目から見て絶対精神疾患だと感じる場合

ア 裁判所はどの程度考慮してくれるのか?
 私が相談を受けておりますと、「旦那は病院に行っていないんですが、インターネットで調べてみたところアスペルガー症候群であることがほぼ間違いないと思います。これでこちらが有利にならないのでしょうか?」とか「旦那に何度病院に行くように言っても行ってくれないのですが、日常生活の中であまりにおかしいことが多いので、絶対に精神疾患だと思います」といったご相談を受けることも多いです。
 要するに、正式な精神疾患の診断が出ていないものの、あなたとしては旦那が精神疾患だと疑っているケースになります。

 このようなケースですと、旦那の普段の行動等によほどおかしなものがある場合は別として、そうでない場合には、ほとんど考慮してもらえないことの方が多いかと思います。
 残念なことに、こちらが旦那のおかしな行動や言動を指摘しても、旦那側は、「そのような事実はない」とか「このような経緯があってのことなのでおかしなものとは言えない」などと反論してくることが多く、あなたが感じている違和感を裁判所に共有することが難しいことが多いです。

イ 多少強引にでも旦那を心療内科に連れて行くべきなのか?
 前述のようなご説明をしますと、「それなら多少強引にでも旦那を心療内科に連れて行きます」とか「何とかして旦那に精神疾患の診断をつければいいんですね?」と追加で質問を受けることもあります。
 ただ、多少強引にでも心療内科に連れて行くとしても、一度心療内科に行けば精神疾患の診断名をつけてくれるということではないかと思います。通常は、何回か心療内科に足を運んで初めて、心療内科医等が診断可能な状況になるということです。

 また、心療内科医も、旦那自身が全く精神面での治療を希望していない、逆に拒否するという場合、無理に治療を続けることもできないと思います。
 更に、旦那に心療内科医からの診断をつけるという点も、診断名があれば、もちろん考慮要素にはなりますが、前述の通り、その疾患によってどの程度日常生活や育児に影響があるのかという点が最も重要な考慮要素になりますので、病名があっても、日常生活に大きな問題がないということになってしまいますと、ほとんど旦那側の減点要素にはなりません。

 

 

5.【パターン3】夫婦とも精神疾患の場合


(1)夫婦がお互い精神疾患だという場合
 夫婦がお互い精神疾患だという場合(夫にも正式な精神疾患の診断が出ているというケースを想定しています)、前述の7個の考慮要素に照らして、どちらの精神疾患がどの程度重いのかということが重要になります。
 なお、夫は仕事をしており、あなたが専業主婦だという場合、同じ精神疾患でも、夫側は症状が軽いのではないか?逆にあなたの方は症状が重いのではないか?と見られがちなので、しっかりとあなたの症状の状況を裁判所に説明していくことが重要になります。

(2)精神疾患の程度によっては、監護補助者が相対的に重要になることもある
 精神疾患と言っても、日常生活にほとんど影響がないという場合もあり、そのような場合には、監護補助者がいなくても、こちらに大きく不利にはならないと思います。
 他方で、それなりの症状だという場合には、体調を崩した際などに、育児をサポートしてくれる人(通常は親族)、すなわち、監護補助者がいるのかどうか、どの程度サポートしてくれるのかという点が相対的に重要になってくることもあります。

 

6.まとめ


・一口に精神疾患と言っても、①あなたが精神疾患の場合、②旦那側が精神疾患の場合、③夫婦双方が精神疾患の場合という3パターンがある。
・精神疾患がどこまで考慮されるかは、以下の7個の項目が重視される傾向がある。
①精神疾患の診断名
②精神疾患の重症度
③精神疾患を患っていた期間
④今後の治療見込み
⑤精神疾患が日常生活に与える影響の度合い
⑥精神疾患が育児に与える影響の度合い
⑦精神疾患が特定の場所や状況で発現する場合、どのような状況等で発現するのか
・旦那側が精神疾患だという場合でも、通常通り仕事ができている場合、その症状はあまり重視されないことが多い。
・旦那側に精神疾患の診断名をつけようと躍起になってもあまり大きな効果がないことが多い。
・夫婦双方が精神疾患の場合、疾患の程度によっては、監護補助者が相対的に重要になってくることも多い。

 

 

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【絶対に夫に親権を渡したくない(58)】夫はどうして「離婚したくない」などと主張するのか?

2023.06.02更新

弁護士秦
こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

 

1.夫は、いまだに「離婚はしたくない」と言っているが、こんなことはあるのか?


 実際、私が担当した事件ですと、夫側が親権を強く争いながら、夫婦関係についてはヨリを戻したいと言ってくる夫はかなりの数います。
 そのため、私の感覚で申しますと、「そんなに特殊な話ではありません」という回答になります。

 

 

2.夫の親権に関する言い分を読む限り、妻への攻撃ばかりなんですが…


 夫の親権に関する言い分を見ますと、どれだけ夫が育児に関わってきたのか、逆に、あなたの育児が至らなかったのかを縷々述べていますので、読んでいて「これだけ私の事を攻撃しておいて、良く離婚したくないなんて言えたものだ」と感じる方もかなり多いです。
 しかも、夫の言い分が正確な事実でしたらまだしも、虚偽や誇張が多いため、一層妻側の不信感が増すというケースは多いです。

 

 

3.夫は何を意図しているのか?


 私が実際に担当した事件での夫側の様子を見ていると、いくつかのパターンがありますので、以下の通り整理します。

(1)【パターン1】こちらが主張している離婚理由を全く理解していない・理解しようともしない。
 親権で争っている場合、当然、その前提としての離婚の当否についても争いになっているケースが大半かと思います。
 その場合、こちらからは離婚したい理由をしっかりと伝えているのですが、夫側が全く理解していない・理解しようともしないということもあります。
 極端なケースですと、夫側から「こちらが妻から嫌われる理由がない」とか「どうして離婚と言われるのかがよく分からない」という主張がなされることすらあります。

 そのため、夫側は、「親権で争いはするけれども、妻と別れたいわけではないんです」などと主張してくるのです。
 また、このような夫がよく口にするフレーズは「自分は暴力を振るったり、浮気をしたこともないので、後ろ指を指されるようなことは一切ない」とか「こんなことは他の家庭でもよくあることだと思いますので、これで離婚というのはおかしいと思います」といったものです。

(2)【パターン2】法律上の離婚原因がないことを証明したいというパターン
 どちらかというと、夫側の反応としては【パターン1】のケースの方が多いのですが、たまに、「法律上の離婚原因がないことを証明したい」と言い出す夫もいます(【パターン2】のケース)。
 要するに、離婚裁判などで、自分に非がないことをしっかりと証明したいというパターンでして、実際には夫婦の今後というよりも、夫自身の正当性を証明することを重視しているのです。
 特に自身のキャリアなどを重要視する夫ですと、「これまでの婚姻生活で過ちを犯していないことを証明したい」という考えを持つことが多いようです。

(3)【パターン3】他の離婚条件の話を進めたくない
 このようなパターンも相当数あるのですが、夫側としても、あなたの様子などを踏まえて、内心では、離婚は避けられないと感じていても、離婚に応じてしまうと親権や養育費・財産分与といった議論をスタートしなくてはいけなくなるので、このような議論をしたくないがために、「離婚したくない」と言ってくるのです。
 夫側も内心では「離婚やむなし」と思ってはいますので、離婚裁判になる前に夫側が離婚には応じて来たり、離婚裁判になった直後から、「離婚は争いません」と言ってくることも多いです。

(4)【パターン4】単純に寂しい
 上記の【パターン1】から【パターン3】と複合して夫側が述べてくることも多いのですが、お子様もいる生活だとにぎやかだったのが、急に別居で家庭内があまりに静かで「やりきれない」「寂しい」というパターンです。
 このような一人だけの生活は「どうしてもやりきれない」という感情が強いと、今後の離婚についても長期化することも多いです。

 

 

4.こちらは粛々と手続きを進めていく他ない


 夫が上記のように離婚したくないと述べたとしても、こちらは離婚の意思が固いことが多いと思いますので、粛々と手続きを進めていくしかありません。
 ただ、夫側が真剣に「離婚する理由が分からない」と考えている場合には、最後の最後までこちらが夫を嫌悪していることは伝わらないというケースもあります(その場合には、最終的に離婚裁判の判決で離婚を決めてもらうことになります)

 

 

5.まとめ


・夫側が親権を争いながら「離婚したくない」と述べてくるケースはそれほど珍しい話ではない。
・夫側は、親権争いの中でこちらのことを積極的に攻撃しているが、それと離婚するかどうかは別個の問題だと捉えている。
・夫の「離婚したくない」は、本当に「離婚すべき理由が分からない」というケースもあれば、内心離婚は避けられないと思いながらも、今は離婚に向けて話し合いたくないというケースもある。
・こちらは、夫の意思はどうあれ粛々と手続きを進めていくしかない。

 

 

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【絶対に夫に親権を渡したくない(57)】子供の習い事の面では、夫の方が熱心に対応していた場合、夫に有利に働くか?

2023.06.02更新

弁護士秦
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1.夫が習い事に関して熱心に関わっていた


 夫側がお子様の習い事に熱心に関わっていたというのは、男の子のお子さんの場合、サッカーを習っていて、そのサッカーチームの送迎を手伝ったり、自主練習の時に練習の手伝いなどをしたとか、女の子のお子さんの場合、ピアノのレッスンの送り迎えをしたり、発表会に向けての自主練習の手伝いをするといったものです。
 なお、今回の解説は、夫側がかなりの割合で習い事に関わり、相対的にあなたの関わりが少ないというケースを想定して解説します。
 要するに、お子様が複数の習い事をしていて、その一つは夫側が直接かかわり、他の習い事はあなたが直接かかわるように、夫婦で習い事の関わり・負担をうまくシェアしていたようなケースは除きます(このようにシェアしていたケースですと、習い事の面で夫婦間で優劣がつかないと思われるからです)。

 

 

2.親権争いで重視される「子どもとの関わり」って?


 親権争いで重視されるのは、お子様の「育児」という面で、どこまで関与していたのかという点です。
 具体的には、お子様の衣食住にどの程度親御さんが関わってきたのか、という点が重視される傾向が強いです。

 「衣」というのは、お子様がまだ小さい年齢の時には、おむつ替えや着替えの補助、もう少し年齢が上がったお子様の場合には、季節に合った服装をさせること、そのような洋服を購入すること、および身だしなみや清潔さの確保を意味します。
 次に「食」というのは、お子様の食事の支度を意味し、お子様の栄養バランスを確保し、少なくとも平均的な健康状態や成長を保つことができているのかどうかという点です。お子様が持病を持っていたり、アレルギーを持っているような場合には、それに対してどのようにケアしているのかという点も重要な要素になります。
 最後に「住」というのは、お子様の安心できるような清潔かつ整理整頓された住環境が確保されていることを意味しますが、この中には、お子様の躾や教育面も含めた意味で使うこともあります。

 このように、お子様の習い事は、「住」にある程度関連する項目になってくると思います。

 

 

3.「習い事に関わっている」ということをどう評価するか


(1)衣食住にある程度関連してくる
 習い事は、スポーツですとお子様の身体づくりに役立ちますし、学校教育との関係でも体育等の科目にも影響があります。音楽関係ですと、学校教育との関係でも音楽の科目に影響があります。
 また、集団行動に関わってくることも多く、お子様の躾に関わってくる側面もあります。

(2)お子様の意識・希望への影響
 お子様の年齢にもよりますが、家庭裁判所調査官が、お子様と直接話をして、お子様にとって父親がどんな父親なのかといったことを確認することも多いです。
 その際には、お子様にとって、習い事によくかかわってくれる父親だという場合には、好印象を持っている場合もあり、このような心情調査で夫側が多少有利になる可能性はあります。

(3)以上のように、夫が習い事に熱心に関わっている場合には、多少なりとも夫側の有利に働くことにはなります。ただ、直接的な教育等とは別ですので、その内容がよほど特徴的な場合を除き、そこまで夫側に大きく有利になる話ではありません。

 

 

4.どのように対策するのか?


 親権争いの場面において、裁判官は、夫婦の言い分を鵜呑みにするのではなく、どの裏付けからどのようなことが言えるのかということを重視します(要するに、単なる「言い分」よりも裏付け証拠の方を重視するという意味です)。
 特に、夫側が習い事に関わってきたという場合には、習い事に関わっているときの写真などを提出してくるパターンが多いです。
 そのため、まずは、この写真について問題があるようでしたら、それを指摘して切り崩すという作業をすることが多いです。

 

 

5.習い事への関与がお子様の心理的負担になっている場合


 夫側が習い事に関わることがお子様の大きな負担になっているというケースもかなり多いです。
 実際に私が担当した事件では以下のようなものがあります。
① 野球の試合でミスをすると夫に強く叱責されるので、子供は試合に出たくないと言うことが多かった。

② 野球のレギュラーを取れないとペナルティーを与える(例えば誕生日やお年玉がなしになるとか)ので、息子が泣いてしまうことも多かった。

③ 夫からサッカーの自主練習に付き合わされて、子供は常にへとへとだった。

④ サッカーの練習の送迎の際、夫の小言がひどく、いつも子供は憂鬱そうであった。

⑤ 娘は嫌がっているのに、夫がいつもダンス教室の送迎をしたがるので困っていた。

⑥ 夫は楽譜も読めないのに、娘の自宅でのピアノ練習に口を挟んでくるので、練習の邪魔になっていた。

⑦ 娘のスイミングの送迎を夫が担当していたが、迎えの際にはビール片手に酔っぱらっていることが多く、娘はかなり嫌がっていた。

 程度の大小はあるのでしょうが、夫が習い事に関わることでお子様にとって心理的な負担になっていたという場合には、夫側の貢献というよりも、むしろ悪影響とも言えますので、このような問題がある場合には、しっかりと指摘していく必要があります。

 

 

6.まとめ


・夫がお子様の習い事に熱心に関わっていたという事情は、お子様の衣食住の「住」に関連する事情である。
・そのため、習い事での関わりも、監護者指定事件に多少なりとも影響はある(特別な関わりでもない限り、大きな影響はない)。
・夫側が習い事に熱心に関わってきたという場合、写真などを証拠提出してくるパターンが多い。
・対抗策としては、写真の問題点を指摘したりすることが多い。
・また、夫の関わりがお子様の心理的負担になってしまっているケースも多いので、そのような事情がある場合にはしっかりと指摘していく必要がある。

 

 

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【絶対に夫に親権を渡したくない(56)】子供の遊びの面等では、夫の方が熱心に対応していたという場合、夫に有利に働くか?

2023.06.02更新

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1.要するにどういう話?


 これは、お子様との関わり方のどこに重きを置くのかの違いでもあるのですが、お子様と一緒に遊ぶこと、一緒に出掛けることに強い重きを置く夫もいます。
 そして、このことを実践している夫側からは、夫の方が妻よりも子供に強くかかわっているという主張をしてくるのです。
 この説明だけですと、やや抽象的ですので、実際に、夫側がどのような言い分を述べてくるのかをご説明します。

 (1)子供は、いつも週末は私(夫)と出かけていて、妻とは出かけたがりませんよ。

 (2)子供は、知人や友人の目から見ても「パパっ子」で、どこに行くにも着いてきますよ。

 (3)地元の知人や友人に聞いてもらえば良いですが、子供がいつも公園で一緒に遊んでいるのは私(夫)で、妻が一緒に遊んでいることは見たことがないと口を揃えて言いますよ。

 (4)子供の好みに合わせてプレゼントや企画をするのはいつも私(夫)で、妻はいつも任せきりですよ。

 (5)パパ友やママ友との交流は、ほぼ私(夫)しかしておらず、妻は、ほぼ全く交流がありませんよ。

 (6)子供の長期休み(夏休みや冬休み等)も、子供は私と出掛けて、妻とは出掛けませんよ。

 (7)家族で室内で過ごすときにも、子供は私(夫)に○○をしようと、遊びをせがんできますが、妻にはせがんでいませんよ。
 そして、夫の方がお子様と過ごす時間が圧倒的に長いなどと言って、夫とお子様で撮った写真などを沢山証拠で提出してくることもあります。

 

 

2.結局「子どもとの関わり」って?


 親権争いで重視されるのは、お子様の「育児」という面で、どこまで関与していたのかという点です。
 具体的には、お子様の衣食住にどの程度親御さんが関わってきたのか、という点が重視される傾向が強いです。

 「衣」というのは、お子様がまだ小さい年齢の時には、おむつ替えや着替えの補助、もう少し年齢が上がったお子様の場合には、季節に合った服装をさせること、そのような洋服を購入すること、および身だしなみや清潔さの確保を意味します。
 次に「食」というのは、お子様の食事の支度を意味し、お子様の栄養バランスを確保し、少なくとも平均的な健康状態や成長を保つことができているのかどうかという点です。お子様が持病を持っていたり、アレルギーを持っているような場合には、それに対してどのようにケアしているのかという点も重要な要素になります。
 最後に「住」というのは、お子様の安心できるような清潔かつ整理整頓された住環境が確保されていることを意味しますが、この中には、お子様の躾や教育面も含めた意味で使うこともあります。

 このように、お子様の遊びに熱心に関わってきたという点は、直ちにお子様の衣食住に関わる話ではありません。

 

 

3.「遊びに付き合っている」ということをどう評価するか


(1)単純に「遊び」と言い切れるのか
 前述の通り、「お子様と一緒に遊ぶ」ということは直ちにお子様の衣食住に関わる話ではありません。
 ただ、お子様と関わる時間が長くなれば、ただ単に遊んでいるだけではなく、間に一緒に昼食をとったり(食事の支度という意味での「食」に関わる)、遊んでいる途中で洋服が汚れてしまって着替えたり、帰宅後に汚れた洋服を洗ったりということも出てくると思いますし(これを夫側が担当すれば「衣」に関わったものと言える)、他のお友達との関わりで躾を学んだりすることもあるでしょうし(広い意味での「住」に関わる)、遊びに行く先では、学校で必要な文房具を購入したり、お子様のスポーツなどにも関わる機会が生まれるかもしれませんから(広い意味での「住」に関わる)、単純に「一緒に遊んでいるだけ」ではないことも多くなると思います。
 その意味で、衣食住と完全に切り離せないということも多いかと思います。

(2)お子様の意識・希望への影響
 お子様の年齢にもよりますが、家庭裁判所調査官が、お子様と直接話をして、お子様にとって父親がどんな父親なのかといったことを確認することも多いです。
 その際には、お子様にとって、よく遊んでくれる父親だという場合には、好印象を持っている場合もあり、このような心情調査で夫側が多少有利になる可能性はあります。

(3)以上のように、夫が長時間お子様と遊ぶなどしている場合には、多少なりとも夫側の有利に働くことにはなります。ただ、前述した「衣食住」の中心的な出来事ではありませんので、そこまで夫側に大きく有利になる話ではありません。

 

 

4.どのように対策するのか?


 親権争いにおいて、裁判官は、夫婦の言い分を鵜呑みにするのではなく、どの裏付けからどのようなことが言えるのかということを重視します(要するに、単なる「言い分」よりも裏付け証拠の方を重視するという意味です)。
 特に、夫側がお子様の遊びに関わってきたという場合には、遊んでいるときの写真などを大量に提出してくるパターンが多いです。
 そのため、まずは、この写真について問題があるようでしたら、それを指摘して切り崩すという作業をすることが多いです。また、逆に、こちらからお子様との写真を提出して対抗する場合もあります。

 

 

5.まとめ


・夫がお子様の遊びに熱心に関わっていたという事情は、お子様の衣食住に直接かかわる話ではない。
・ただ、衣食住に全く無関係と割り切れないことも多いし、少なくとも、お子様の心情には影響がある。
・そのため、遊びでの関わりも、監護者指定事件に多少なりとも影響はある(大きな影響ではない)。
・夫側が遊びに熱心に関わってきたという場合、写真などを証拠提出してくるパターンが多い。
・対抗策としては、写真の問題点を指摘したり、逆にこちらからも写真を提出するといった方法がある。

 

 

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【絶対に夫に親権を渡したくない(55)】子供の勉強は主に夫が見てきたが、夫に有利に働くか?

2023.06.02更新

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1.同居中、子供の勉強は主に夫が見ていた


 同居中は、お子様の勉強は主に夫側が見ており、あなたが同水準で勉強を見ることができるかというと難しい場合もあろうかと思います。特に、夫がモラハラ夫だという場合には、同居中、あなたに対して「お前じゃ子供の算数を教えることはできないから、中学受験で不合格になるぞ」とか「お前はただでさえ日本語が下手だから、子供に国語などを教えられるはずがない。子供に変な日本語が身についてしまうと困るから教えないでくれ」などと発言している場合もあり、不安に感じるケースも多いと思います。
 ただ、皆さん、別居後は、夫がいない状況でも、お子様の教育面をケアできている方が大半だと思いますので、過剰に不安にならない方が良いと思います。

 

 

2.親権争いでの「勉強面」の位置付け


 親権争いでは、お子様の衣食住にどの程度親御さんが関わってきたのか、という点が重視されることが多いです。
 「衣」というのは、お子様がまだ小さい年齢の時には、おむつ替えや着替えの補助、もう少し年齢が上がったお子様の場合には、季節に合った服装をさせること、そのような洋服を購入すること、および身だしなみや清潔さの確保を意味します。
 次に「食」というのは、お子様の食事の支度を意味し、お子様の栄養バランスを確保し、少なくとも平均的な健康状態や成長を保つことができているのかどうかという点です。お子様が持病を持っていたり、アレルギーを持っているような場合には、それに対してどのようにケアしているのかという点も重要な要素になります。

 最後に「住」というのは、お子様の安心できるような清潔かつ整理整頓された住環境が確保されていることを意味しますが、この中には、お子様の躾や教育面も含めた意味で使うこともあります。
 このように、お子様の勉強面・教育面は、上記の「住」に関連する項目なのですが、衣食住全体が考慮されますので、あくまでその中の「一つの項目」という扱いになります。

 

 

3.対策の基本的な視点


 このような場合の対策の基本的な視点は「同居の時と同じ成績順位を維持すること」とか「同居時の志望校にしっかり合格すること」ではありません。
 お子様の教育面には関心が高い方も多いので、「成績が落ちてしまうと夫から何を言われるか分からない」とか「息子にはこの学校に合格させてあげたい」といったことをおっしゃる方もいます。
 ただ、監護者指定事件で重視されるのは、学校で問題となるような成績・素行ではないことです。簡単に言いますと、同居時学年トップの成績で、別居後にある程度成績が落ちたとしても、「担任教師が問題視するような悪い成績ではない」ということなら、ほとんど問題視されることはありません。

 

 

4.夫の教育熱心さがお子様の負担になっていた場合には、それを逆用すると効果的


 夫側が非常に教育熱心で、自宅でも熱心に指導・教育してきたというケースもあります。
 ただ、そのような熱心さは、お子様のためというよりも、夫自身のため(自分の子供なので、このくらいの成績は取ってもらわないと困るとか、自分と同じくらいの社会的地位を確保するために、この学校に行かせる必要があるとか)であるというケースも多くあります。
 そうすると、夫が目指す目標に、お子様の意識がついて行っていないというケースも往々にしてあります。

 そのことで、時に夫がお子様に対して暴言を吐いたり、果ては暴力を振るっているような場合には、勉強を見ることはプラス要素ではなく、むしろマイナス要素と言えます。
 そのような場合には、夫の勉強の面倒が、逆にお子様の大きな心の負担になっていたこと、モラハラやDVに陥っていた場合には、明らかな有害行為であることをしっかりと指摘して対抗していくことになります。

 

 

5.あなた自身の学歴等はあまり重視されない


 お子様の勉強面との兼ね合いでは、教育面を重視する夫側は、あなたの学歴と夫の学歴を比較して、夫側の方が学歴が上で、お子様の教育面を充実させられるといったことを強調してくることもあります。このような学歴の差から、お子様の教育のケアは夫側が見た方が良いなどと主張してくるのです。
 しかし、学歴の差といった点は、監護者指定事件であまり重視されませんので、この点であまり不安にならない方が良いと思います。

 

 

6.重要なのは教育資源をしっかりと活用すること


 むしろ、今は、様々な教育資源がありますので、それをしっかりと活用することの方が重要です。あなたが自分で勉強を教えるということに固執し、無理をし過ぎてしまいますと、逆にそのことで家事・育児が疎かになるなど、悪影響を生じかねませんので、そうであれば、教育資源を活用した方が良いのです。
 例えば、学校の宿題のケアは、学童がしっかりと確認してくれるところもありますし、受験に関しても、課題が多くない塾に通塾させることで対応できることも多いです。
 お子様の心理面のケアなどは、スクールカウンセラーや子ども家庭支援センターに助言を受けるといった方法もあります。
 このように教育資源をしっかりと活用して、少なくとも学校教育に遅れがなく、宿題や課題もしっかりと提出できていれば、教育面で、あなたのケアが不十分だと指摘される可能性は低いと思います。

 

 

7.まとめ


・親権争いの場面では、お子様の衣食住の面倒を誰が見ていたかが重要であるが、教育面は「住」に関連する要素として考慮されることがある。
・基本的には、別居後、学校で問題になるような成績・素行でなければ問題ない。
・夫の教育熱心さが逆にお子様の心理的負担になっていた場合には、その点をしっかりと指摘していくのが良い。
・あなた自身の学歴等はあまり重視されない。
・現在は教育資源が充実しているので、それを活用することも重要である。

 

 

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【絶対に夫に親権を渡したくない(54)】夫がやたらと細かいことを主張してきているが、どこまで対抗すべきか?

2023.06.02更新

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1.裁判所から分厚い書類が届いた!


 離婚問題・親権問題では、通常女性側の方が離婚を希望し、男性側はあまり離婚を希望していないというケースの方が多いものですから、夫側から離婚調停を起こされるとか、離婚裁判を起こされるというケースは相対的に少ないと思います。

 ただ、最初は、夫も離婚を希望してなかったけれども、婚姻費用(要するにあなたやお子様の生活費)の金額が高いと感じて、早く離婚したいというようになったというようなケースもあります。また、相対的に件数が少ないとは言っても、夫側の方が夫婦関係に不満を持っていて、積極的に離婚調停や裁判を起こしてくるケースもあります。

 そのように夫側が積極的に離婚を希望する場合でも、離婚調停の場合には、親権について詳細な主張をすることは稀だと思います。離婚調停については、裁判所の書式が決まっていて、詳しく事情を書こうとしても、「記入する欄がほとんどない」というのが実情だからです。

 そのため、奥様の方で「夫がとても細かいことを言ってきた」と感じるのは、離婚裁判のケースが圧倒的に多いです。そのような場合には、夫側が自分がどれだけ育児にかかわってきたのかということで資料を大量につけて離婚裁判を起こしてくることもあり、受け取ったあなたの方は「分厚い書類が届きました」と感じることになります。

 

 

2.夫側がやたら細かい言い分ばかり述べてきているがどう対処すべきか


 離婚訴状や準備書面は、夫側の言い分を示す書類ですので、その確認も重要なのですが、大きく二つに大別して検討する必要があります。
 即ち、①言い分は細かいけれども、裏付け証拠があまりない場合と、②言い分が細かく、その裏付け証拠も非常に細かい場合に大別できます。
 まず、裏付け証拠があまりない場合には、夫側の言い分をこちらから否定する必要はありますが、そこまで事細かに対応しなくても問題ないケースが多いです。仮に、夫側の言い分が緻密に練り上げられているとしても、裏付けがない言い分については、裁判官も関心を持たないことが多いので、そこまで心配しなくても良いことが多いのです。
 これに対して、夫側が裏付け証拠を沢山提出してきている場合には、その証拠のしっかりとした整理が必要になります。

 

 

3.夫側の証拠を検討する視点


(1)まずは、証拠の分類
 夫側の裏付け証拠を漫然と通読・確認していても、分量が多いので、逆に整理が難しくなってしまいます。
 そのため、監護者指定における重要な6個のポイントに沿って整理するのが有効です。
 即ち、監護者指定にあたっては、以下の6個のポイントが重要視されますので、夫の証拠がどの項目にどの程度影響を与える証拠なのかを分類していくのです。
 【6個の重要ポイント】
1)監護実績
2)連れ去りの違法性
3)現在の監護状況
4)過去の児童虐待の有無・程度
5)子供の意思

6)今後の監護計画

7)面会交流の姿勢

 例えば、別居直前に娘様が夫側に対して「お父さん大好き、お父さんのお嫁さんになる」と書き、夫の似顔絵も書いてある手紙が証拠で出された場合、上記の「5)子供の意思」に関係する証拠になります。

(2)分類にあたっては、証拠の重要性を見極めつつ分類
 前述のように証拠の分類をするのですが、夫側が大量に証拠を提出してきている場合、それを全て分類するのは、かなりの労力が必要になります。
 そのため、ある程度夫側の証拠の重要性を見極めた上で、重要なものを優先して整理する方が得策です。
 また、実際問題、夫が提出してきた証拠が、関連性が乏しい証拠という場合もあり、それに対して逐一対抗していくことは、手続きを複雑にしていくだけで得策でもありません。

 

 

4.夫側の証拠に対する対抗策


 前述の通り、裁判官は、どのような裏付け証拠があるのかという点を重視しますので、夫側の証拠に対抗するために、こちらも一定の証拠を準備し、提出していくことになります。
 その場合には、夫側の証拠に対して直接対抗していくものと、逆に、こちらがかなり不利な証拠の場合には、敢えてその証拠には言及せず、こちらがアピールすべき項目についての裏付けを集めていくという作戦をとる場合もあります。
 このあたりの判断・見極めは弁護士でないと難しいことが多いので、弁護士にご相談されることをオススメします。

 

5.最も重要なのは、文章の量や表現の上手さの問題「ではない」ということ


 たまに、私が事件を担当しておりますと、夫側が30ページの主張書面を書いてきた場合、「こちらは30ページ以上の文章を返してください」とか「もっと沢山書いてください」と言われることもあります。
 また、文章の表現についても、「もっと裁判官に訴えかけるような書き方をお願いできないでしょうか」とおっしゃる方もいます。

 確かに、文章の表現が良い方が、裁判官も読みやすいでしょうが、前述からお話しております通り、裁判官が最大の関心を持つのは「どんな裏付けがあるのか」という点です。
 夫側の言い分を読んでいると、「負けないためにも、それ以上に反論しないといけない」という気持ちに駆られることも多いのですが、そのことでこちらの文章が冗長になってしまっては元も子もないと思います。
 そのため、文章の分量や表現の上手さという点にとらわれ過ぎずに準備することが大切です。

 

 

6.まとめ


・夫側がやたら細かいことを言ってきている場合でも、裏付け証拠を伴うものなのかで対応が異なってくる。
・あまり裏付けを伴わない言い分は重視されないことが多い。
・夫側の証拠は、その重要性も考慮しながら、重要7項目に照らし合わせて検討・分類するのが良い。
・夫側の証拠に対して、どのように対抗していくかは専門性が高いので、弁護士に相談しながら検討すると良い。
・文章の分量や表現の上手さで勝負するものではないという視点が最も重要である。

 

 

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投稿者: 弁護士秦真太郎

【絶対に夫に親権を渡したくない(53)】手続き中、子供の友達付き合いの関係で注意すべき点はあるのか?

2023.06.02更新

弁護士秦
こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
神田駅から2駅、銀座駅から2駅、秋葉原駅から3駅の事務所です。夜間対応が充実しています。

 

 

1.親権争いの手続き中、お子様の友人付き合い等で注意すべき点はあるか?


 あまりこのような点を意識していない方の方が大半で、そうしますと、「どのような問題なんですか?」と首を傾げられるかもしれません。
 端的に言いますと友達経由でこちらの動向等が夫側に知られるリスク等をどのように考えるのか、といった問題のことです。
 このようなリスクの考え方は、あなたが別居の際に、夫側が全く知らないところに転居したケースと、そうではないケースで対応の仕方が異なってきますので、大別してご説明します。

 

 

2.【ケース①】あなたが、夫側が全く知らない場所に転居したケース


 夫との離婚を決意し、別居する際、別居先としては、①実家(夫も場所は知っている)、②近所だけれども夫は場所を知らないところ(お子様の通学する学校を変えたくないので、結局近所に住んでいるといったパターン)、③全くの新天地といったパターンがあろうかと思います。
 今回は、③の全く夫側が把握していない場所(新天地)に別居したケースを前提に解説していきます。

 このようなケースでは、あなたの現住所(新天地である住居)を夫側に知られないということが非常に重要になってくることが多いと思いますので、そのような切り口から解説します。
そもそも、お子様の友人関係につきましては、基本的にイチから友達を作り直すということかと思いますので、その友人経由で何かしら夫側に情報が洩れるリスクはほとんどないと思います。
 その意味では、特に友人付き合いの関係で神経質になる必要はほとんどありません。但し、全くリスクがないわけではありませんので、注意すべき代表的なケースとともにご説明します。

(1)【注意すべきケース①】以前の友達との接触
 新天地に転居した後も、お子様の希望で、別居前のお友達と会ったり、遊んだりするというケースもあろうかと思います。
 そのご友人が信頼できるママ友、パパ友を介して連絡を取り合う分には、あまりリスクはないと思いますが、家族ぐるみの付き合いをしていて、情報が夫側に漏れるリスクがあるという場合には、注意が必要な場合もあろうかと思います。

 特に、夫側がどうしても離婚したくなくて、そのママ友やパパ友に協力を強く懇願しているような場合には、ママ友やパパ友も「断れない」という場合もありますので、そのママ友やパパ友経由で、あなたの現住所の情報や、現住所につながる情報(例えば、最寄り駅が○○駅であるとか)が漏れないよう注意が必要な場合もあります。

(2)【注意すべきケース②】以前の習い事を続ける場合
 新天地に転居した後も、お子様の希望で、習い事は別居前の習い事を続けるというケースもあると思います。
 その場合には、習い事で接触する友達や講師経由で情報が漏れないかという点に注意すべき場合もあります。
 その習い事での友人や講師が夫側とも親密だという場合には、そもそも、その習い事はやめて、新天地付近で新しく習い事を始めた方が良いかと思います。

(3)【注意すべきケース③】新天地で同じ種目の習い事をする場合
 新天地で同じ種目の習い事をする場合(例えば、別居前にお子様がサッカーチームに所属していて、別居後、新しく新天地近くのサッカーチームに入り直すといったケース)、友人経由で夫側に情報が洩れる可能性はほとんどないと思いますが、そのチームの対応等で注意が必要な場合もあります。
 特にスポーツ系の習い事で多いのですが、練習風景や試合での様子の写真をインターネット上で一般公開しているようなところもあると思います。
 そうすると、お子様の写真が一般公開され、夫側に、現在お子様が所属するチームが分かってしまうというケースもあります。
 また、サッカーや野球など他のチームと試合で対戦する場合、元のチーム等と対戦する心配もありますので、注意が必要です。

 

3.【ケース②】別居後も比較的近所に住むケース


 別居後も比較的近所に住むケースとしては、①別居後にこちらが住んでいる場所を夫側にも知らせているケース(もしくは、既に知られてしまっているケース)と、②別居後にこちらが住んでいる場所を知らせていないケースがあろうかと思います。
 ただ、近所に住んでいる場合、共通の友人と顔を合わせたり、スーパー・飲食店その他店舗で夫と偶然顔を合わせてしまうということもあると思いますので、②のケースでも、こちらの住まいを全く知られない状況を保つということは難しいことが多いと思います。
 そのため、以下では、こちらの住まいを知られないようにするという視点よりも、こちらの動向等を探られないようにする、という視点から解説していきます。

(1)結局、どのような形で問題化するのか?
 あなたとしても、今は夫側に住所を隠しているけれども、遅かれ早かれ場所は知られてしまう可能性が高いと考えているような場合、「住所を知られないこと」は、そこまで重要性が高くないかもしれません。
 ただ、親権紛争で争っておりますと、夫側の知人経由、友人経由で様々な情報が飛び交うこともありますので、その点に留意すべき場合もあります。
 例えば、当職が実際に担当した事件では、以下のような点を指摘されることがありました。
① まだ5歳の子供が公園で一人で遊んでいた。こんな小さい子を一人で遊ばせているなんて危険な行為だ。

② まだ小学校に入ったばかりの子が公園で一人で泣いていた。私(知人)が気付いて慰めてあげたが、母親の育児放棄ではないかと思う。

③ 久しぶりにお子様と道で会ったので元気にしているか話しかけたら、母親から殴られたと言っていた、別居して母親が児童虐待している疑いがある。

④ 久しぶりにお子様を見かけたので話しかけたが、何度話しかけても無視し続けられた、別居後の母親の教育には大きな問題があると思う。

 このような①から④の事情を、夫側の知人や友人が、直接見かけた・目撃した、といった形で、裁判所に訴えてくるのです。

(2)どのように対処するのか。
 親権紛争の中での対処法としましては、事実と異なるところはしっかりと誤りであると指摘して毅然と対応していく、ということに尽きます。
 そもそも、夫側の知人や友人が目撃したという事情が、よほどの虐待を疑われるような事情であればともかく、そこまでの事情でなければ、裁判所も、その点を重視する可能性はほとんどありません。
 そのため、お子様の友人関係であまり神経質になり過ぎない方が良いと思います。
 ただ、前述の通り、お子様のお友達の中でも、あなたよりも、どちらかというと夫側と親密だというようなお友達の関係では、こちらの動向が夫側に知られるリスクはある程度意識してお付き合いした方が良いかと思います。

 

 

4.【ケース③】別居後も比較的近所に住むケース(相手に新居の場所を知らせているケース)


 

 このケースは、別居の際に、最初から、こちらの新居の場所を夫側に伝えてしまっているケース、最初は知らせなかったけれども、知られてしまった、又は戦略的に知らせることにしたというようなケースです。

 この場合、夫側に、こちらの居場所も分かってしまっていますので、友人付き合いについても神経質になる必要はないと思われるかもしれませんが、前述のように、夫側の知人や友人が、あなたの虐待だなどと言い始めるリスクは残りますので、ある程度の注意は必要です。

 前述のように、基本的には、あまり疑心暗鬼になっても良くないと思いますので、「基本的には神経質になり過ぎない」というのが良いのですが、お子様の友達付き合いの様子を見ていて不審に感じる点等があった場合には、少し気を付けた方が良いかもしれません。

 

 

5.まとめ


・お子様の友人付き合いについてはあまり神経質になり過ぎない方が良い。
・新天地に引っ越したという場合、現住所を夫側に知られないということが重要なので、その点は母親としてある程度意識しながら生活した方が良い。
・近所に住む場合、現住所を知られないことの重要性は相対的に下がることが多いが、夫側に動向を知られないための配慮が必要なこともある。
・夫側の知人・友人経由で、親権争いの手続きの中で何等か資料を提出された場合でも、事実と異なるところは虚偽である旨をしっかりと伝えて毅然と対応するのが一番である。

 

 

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投稿者: 弁護士秦真太郎

【絶対に夫に親権を渡したくない(52)】夫側から「妻はひどい叱り方をする」と指摘されたが?

2023.06.02更新

弁護士秦

こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
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1.夫はどのように主張してくるのか?


 「ひどい叱り方」といっても、やや抽象的ですので、実際に私が担当した事件で、夫側がどのように言ってきたのかを、具体例として、ご紹介します。

(1)妻自身の機嫌が悪いと、昨日までは良かったことでも今日はダメと言うように叱りつけてくるので、子供も困り果てていた。

(2)妻は短気なので、何かがあると頭ごなしに叱りつけるので子供がかわいそう

(3)妻は怒り始めると止まらないので、30分近く延々と叱りつけるため、子供も疲れ果ててしまうことが多かった。

(4)妻は叱るだけで、何がダメでどのようにダメなのかを何も伝えないから、子供はダメな理由も分からないままのことが多かった。

(5)妻は大声で叱りつけるので、子供も怖がってしまっていた。

(6)妻は叱る際に子供が傷つくようなことを言うことが多く、子供が泣き出してしまうことが多かった。

(7)突如として子供に罰を与えることが多く(おやつを与えないとか、ゲーム機を突如取り上げるとか)子供が気の毒だった。

(8)他の兄弟と差別的に叱ることが多かった(例えば、次男には甘く、長男には異常に厳しいので、同じことをしても長男だけが叱られることが多かったなど)

(9)妻は叱る際に手をあげることが多かった。

 

 

2.親権争いの中で問題となるような「ひどい叱りつけ」とは?


 お子様も時にはふざけてしまったり、悪戯をしてしまったりということもあって、その際には、ついこちらも「叱り方」が好ましくない形になってしまうということもあると思います。

 もちろん、お子様が何か悪いことをしたからと言って、①そのことに対して暴力を振るってしまったり、②お子様を閉じ込めるなどして恐怖を与えてしまうこと、③お子様の物を壊してしまうこと、④お子様の人格を否定するような発言をすること(例えば、「こんな子だったら産まなきゃよかった」とか)はNGです。これらは、お子様に対する健全な発達のための「叱りつけ」ではなく、もはや児童虐待になってしまっているため、許容できません。
 このように叱りつけが、あまりにも度を越してしまいますと、親権争いの手続においても不利に扱われてしまいます。
 逆に、これらの①から④に当てはまるような度を越したものでなければ、そのことでこちらが大きく不利になることはほとんどないと思います。

 

 

3.逆に「良い叱り方」とは?


 このようなお話をしますと、逆にどのような叱り方が「理想なんですか?」とか「良い叱り方って何なんですかね?」とご質問を受けることがあります。
 そんな時には「お子さんに、叱られている理由がしっかりと伝わる叱り方が良いみたいですよ」とか「お子さんの目を見て正面から向き合って叱ると効果があるみたいですよ」などと回答することがあります。
 ただ、これらは一例でして、お子様がしてしまったことの内容、お子様の年齢、これまでのお子様との関係性、ご家庭の事情、地域の風習等によって、対応の仕方は様々だと思います。お子様にとって負担にならないやり方で、お子様にとってもしっかりと叱られている理由が分かる方法で叱るのが良いと思います。

 

 

4.夫側の主張に対する対応方法


 それでは、夫側の主張(詳しくは、前述の「2.夫はどのように主張してくるのか?」の具体例をご覧下さい)に対してはどのように対応すべきなのでしょうか。

(1)夫の言い分は虚偽・過剰であることが多い
 夫の言い分は、自分が有利に立ちたいがために、虚偽や過剰反応とも言える主張だということが多いです。
 そのため、虚偽や過剰なものに対しては、しっかりと「そのような事実はない」と指摘することが大事です。

(2)多少の叱り過ぎがあった場合は?
 多少の叱り過ぎがあったという場合でも、前述のような児童虐待という程度のものではない場合には、それほど恐れる必要はありません。
 この場合には、当時の経緯をしっかりと説明し、母親としてお子様をしっかり叱らなくてはいけない場面であったことを裁判官にも理解してもらうという作業が必要になります。また、このような場合でも、夫側は実際の事実よりも過剰に演出してくることが多いので、過剰な部分が誤りであることもしっかりと指摘する必要があります。

(3)多少虐待的行為に及んでしまった場合は?
 前述のような虐待と称されるような行動に出てしまった場合にも、しっかりと経緯を説明して、母親としてお子様をしっかり叱らなくてはいけない場面であったことを裁判官にも理解してもらうという作業が必要になります。
 ただ、その際に気をつけなくてはいけないのは、このような説明が「言い訳」と映らないようにすることです。折角詳しく説明している内容が、裁判官の目から見て「言い逃れの弁解を並べているだけ」と捉えられてしまいますと、逆に不利になってしまう虞があります。
 そのため、詳しい説明に加えて、自分としても反省していて今後二度と同じ行動に出ないことも明記することが大事です(こうすることで、「言い逃れ」ではなく、しっかり「反省」したうえで、事情を説明しているということが裁判官にも伝わりやすくなります)。

 

5.「お互い様だから問題ない」という言い分はどうなのか?


 たまに、奥様の方から「夫の方は、もっとひどい叱り方をしていた。こんな夫に言われる義理はない」といったことを指摘されることもあります。
 もちろん、夫側の不適切な育児等についてはしっかりと指摘しなくてはいけないのですが、「夫も悪いから、こちらのことも許される」という言い分は通りにくいです。
 そのため、前述のように、こちらの叱り方に実際に大きな問題があったという場合には、反省すべきは反省しているという姿勢を裁判所に見せたほうが効果的なことが多いです。

 

6.まとめ


・夫側は親権者として指定されたいがために、こちらの叱り方について様々な主張をしてくることも多い。
・虐待といえるような度を越した叱りつけでなければ、そこまで心配することはない。
・お子様にとって負担にならないやり方で、お子様にとってもしっかりと叱られている理由が分かる方法で叱ることが「良い叱り方」と言われることが多い。
・夫の言い分に対する対応方法は、指摘されている内容に応じて異なってくる。
・「お互い様だからこちらのことも許される」という言い分は通りにくい。

 

 

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