夫が突然監護者指定審判を申し立ててきた(28)ー「今後の監護計画」はどこまで重視されるか
2022.09.12更新
こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
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1.そもそも「監護者」って何だ?
(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。
(2)親権の意味のおさらい
そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)
(3)要するに監護権って?
上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。
(4)監護者指定審判とは?
離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。
2.「今後の監護計画」って?
「今後の監護計画」と言われても、初めて聞くとピンとこないことが多いと思いますが、要するに「今後お子様をどのように育てていくのか」といことです。
より具体的に言いますと、①どこに住んで、②誰と一緒に生活し、③どの保育園・学校に通い、④週末や長期休暇時にお子様にどのような体験をさせ、⑤離れて暮らす夫との面会交流をどうしていくのかといった今後の具体的な計画になります。
このような監護計画は、短くまとめてしまいますと、「実家の両親が住む○○県○○市の一軒家で、子供にとっては母親である私、祖父母と一緒に暮らしていく予定です。実家から徒歩10分ほどのところに認可保育園がありますので、そこに通園させる予定です。実家の近くには大きな公園や山があるので、週末などは自然に存分に触れ合って暮らしていく予定です。夫とは月1回程度は直接子供と会ってもらう予定です」というような形になります。
ただ、人によっては、もっとより具体的で、子供にとっても素晴らしい環境であることを強くアピールしたいということを強く仰る方もいます(人によっては、監護計画だけで、3,4ページほどの文章を練り上げてくる人もいます)。
3.監護計画はどこまで重視されるか
監護計画については、特に「お子様について特別なケアが必要な場合」には、しっかりと記載する必要がありますが、そうでなければ、そこまで重視される要素ではありません。
なぜなら、監護計画はあまり具体的な裏付けがなくとも記載できる項目なので、それを全て実現できる保障がないからです。
なお、ここでの「お子様について特別なケアが必要な場合」というのは、例えば、お子様に障害等がある場合とか、不登校になってしまっていたりとか、現在は児童養護施設に保護されており、施設退所後のケアが必要になるケース等が想定されます。お子様に障害等がある場合には、どのような支援学校に通わせるのか、医療的措置が必要ならば、どのような病院に通院させるなどするのかといったことを具体的に書く必要がありますし、不登校になってしまっている場合には、学校とどのように連絡を取ってケアしているのか、スクールカウンセラー等をどのように利用しているのかといったことを書く必要があります。児童養護施設に保護されている場合には、児童相談所とどの程度連絡を取って、同所とどの程度の信頼関係が築けているのかといった点を記載していくことになります。
4.実績を伴わない計画は裁判官の心に響かない
いくら素晴らしい監護計画を披露しても、これまでの監護実績が不十分ですと、そのような計画を実践できるのか、裁判官は疑念を持ってしまうと思います。
なぜなら、これまでしっかりお子様と関わってこなかった人が、「これからはしっかりと育てていきます」と言っても簡単に信用されないからです。
従いまして、やはり監護者指定事件については、今後の監護計画というよりも、これまでの監護実績の方が重要性が高いです。
これまでの監護実績が十分なものでしたら、今後もその親に任せた方がお子様も安心だと感じるでしょうし、また、お子様のことを大切に思っていたからこそ、それだけこれまでも関わってきたのだと言えるからです。
5.まとめ
・今後の監護計画は、そこまで重視される要素ではない。
・お子さんのケアが必要な事案では、どのようにケアしていくのかを具体的に記載しなければならない。
・実績を伴わない計画は、裁判官の心には響かない。
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