夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(62)―特に子供の遊びの面等では夫の方が熱心に対応していたという場合、夫に有利に働くか?
2023.09.11更新
こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
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1.そもそも「監護者」って何だ?
(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。
(2)親権の意味のおさらい
そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)
(3)要するに監護権って?
上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。
(4)監護者指定審判とは?
離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。
2.要するにどういう話?
これは、お子様との関わり方のどこに重きを置くのかの違いでもあるのですが、お子様と一緒に遊ぶこと、一緒に出掛けることに強い重きを置く夫もいます。
そして、このことを実践している夫側からは、夫の方が妻よりも子供に強くかかわっているという主張をしてくるのです。
この説明だけですと、やや抽象的ですので、実際に、夫側がどのような言い分を述べてくるのかをご説明します。
(1)子供は、いつも週末は私(夫)と出かけていて、妻とは出かけたがりませんよ。
(2)子供は、知人や友人の目から見ても「パパっ子」で、どこに行くにも着いてきますよ。
(3)地元の知人や友人に聞いてもらえば良いですが、子供がいつも公園で一緒に遊んでいるのは私(夫)で、妻が一緒に遊んでいることは見たことがないと口を揃えて言いますよ。
(4)子供の好みに合わせてプレゼントや企画をするのはいつも私(夫)で、妻はいつも任せきりですよ。
(5)パパ友やママ友との交流は、ほぼ私(夫)しかしておらず、妻は、ほぼ全く交流がありませんよ。
(6)子供の長期休み(夏休みや冬休み等)も、子供は私と出掛けて、妻とは出掛けませんよ。
(7)家族で室内で過ごすときにも、子供は私(夫)に○○をしようと、遊びをせがんできますが、妻にはせがんでいませんよ。
そして、夫の方がお子様と過ごす時間が圧倒的に長いなどと言って、夫とお子様で撮った写真などを沢山証拠で提出してくることもあります。
3.結局「子どもとの関わり」って?
監護者指定事件で重視されるのは、お子様の「育児」という面で、どこまで関与していたのかという点です。
具体的には、お子様の衣食住にどの程度親御さんが関わってきたのか、という点が重視される傾向が強いです。
「衣」というのは、お子様がまだ小さい年齢の時には、おむつ替えや着替えの補助、もう少し年齢が上がったお子様の場合には、季節に合った服装をさせること、そのような洋服を購入すること、および身だしなみや清潔さの確保を意味します。
次に「食」というのは、お子様の食事の支度を意味し、お子様の栄養バランスを確保し、少なくとも平均的な健康状態や成長を保つことができているのかどうかという点です。お子様が持病を持っていたり、アレルギーを持っているような場合には、それに対してどのようにケアしているのかという点も重要な要素になります。
最後に「住」というのは、お子様の安心できるような清潔かつ整理整頓された住環境が確保されていることを意味しますが、この中には、お子様の躾や教育面も含めた意味で使うこともあります。
このように、お子様の遊びに熱心に関わってきたという点は、直ちにお子様の衣食住に関わる話ではありません。
4.「遊びに付き合っている」ということをどう評価するか
(1)単純に「遊び」と言い切れるのか
前述の通り、「お子様と一緒に遊ぶ」ということは直ちにお子様の衣食住に関わる話ではありません。
ただ、お子様と関わる時間が長くなれば、ただ単に遊んでいるだけではなく、間に一緒に昼食をとったり(食事の支度という意味での「食」に関わる)、遊んでいる途中で洋服が汚れてしまって着替えたり、帰宅後に汚れた洋服を洗ったりということも出てくると思いますし(これを夫側が担当すれば「衣」に関わったものと言える)、他のお友達との関わりで躾を学んだりすることもあるでしょうし(広い意味での「住」に関わる)、遊びに行く先では、学校で必要な文房具を購入したり、お子様のスポーツなどにも関わる機会が生まれるかもしれませんから(広い意味での「住」に関わる)、単純に「一緒に遊んでいるだけ」ではないことも多くなると思います。
その意味で、衣食住と完全に切り離せないということも多いかと思います。
(2)お子様の意識・希望への影響
お子様の年齢にもよりますが、家庭裁判所調査官が、お子様と直接話をして、お子様にとって父親がどんな父親なのかといったことを確認することも多いです。
その際には、お子様にとって、よく遊んでくれる父親だという場合には、好印象を持っている場合もあり、このような心情調査で夫側が多少有利になる可能性はあります。
(3)以上のように、夫が長時間お子様と遊ぶなどしている場合には、多少なりとも夫側の有利に働くことにはなります。ただ、前述した「衣食住」の中心的な出来事ではありませんので、そこまで夫側に大きく有利になる話ではありません。
5.どのように対策するのか?
監護者指定事件において、裁判官は、夫婦の言い分を鵜呑みにするのではなく、どの裏付けからどのようなことが言えるのかということを重視します(要するに、単なる「言い分」よりも裏付け証拠の方を重視するという意味です)。
特に、夫側がお子様の遊びに関わってきたという場合には、遊んでいるときの写真などを大量に提出してくるパターンが多いです。
そのため、まずは、この写真について問題があるようでしたら、それを指摘して切り崩すという作業をすることが多いです。また、逆に、こちらからお子様との写真を提出して対抗する場合もあります。
6.まとめ
・夫がお子様の遊びに熱心に関わっていたという事情は、お子様の衣食住に直接かかわる話ではない。
・ただ、衣食住に全く無関係と割り切れないことも多いし、少なくとも、お子様の心情には影響がある。
・そのため、遊びでの関わりも、監護者指定事件に多少なりとも影響はある(大きな影響ではない)。
・夫側が遊びに熱心に関わってきたという場合、写真などを証拠提出してくるパターンが多い。
・対抗策としては、写真の問題点を指摘したり、逆にこちらからも写真を提出するといった方法がある。
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