夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(20)ーどうして事件が3個もあるの?
2022.06.20更新
こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。「しっかり戦って、しっかりと勝つ」をモットーに詳しく解説していきます。
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1.そもそも「監護者」って何だ?
(1)監護権というワードは馴染みが薄い。
離婚する以前の夫婦は共にお子様の共同親権者で、離婚の際には(単独)親権者を決めなければならないというように、「親権者」というワードはよく出てくるのですが、「監護者」については、親権者ほどメジャーなワードではなく、よく分かりにくいという質問を受けることもあります。
端的に言いますと、監護権とは、親権の一部と理解すると分かりやすいと思います。
(2)親権の意味のおさらい
そもそも、親権というと、離婚した後に子供を育てていくことができる権利と考える方が多いかと思いますが、実は親権には、このようにお子様を育てていく権利だけではなく、他にも権利が含まれています。
具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。
1)身上監護権(お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。)
2)財産管理権(お子様の財産を管理する権限のことです)
3)身分行為の代理権(例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等お子様の身分行為を代理する権限です)
(3)要するに監護権って?
上記の通りご説明しました親権に含まれる3つの権利のうち、「身上監護権」だけを切り出したものが監護権とイメージすると分かりやすいと思います。
(4)監護者指定審判とは?
離婚が正式に成立するまでは、お子様の親権は夫婦の共同親権になるのですが、このような共同親権の中でも監護権のみを切り出して、監護権を取得するものを夫婦どちらかに指定して欲しいという審判が監護者指定審判の手続きになります。
「審判」というと聞き慣れないかもしれませんが、調停のように話し合いの手続きではなく、裁判官が強制的に監護者を指定する手続きになります。
2.どうして事件が3個もあるの?
あなたのもとには突如裁判所から審判事件の通知が届いているのだと思いますが、その通知には、事件番号が3つ振られている事かと思います。要するに事件が3個同時に申し立てられた状態なのです。
それでは、どうして事件が3個もあるのでしょうか。
(1)3つの事件の内訳
監護者を争っていく場合には、よく「三点セット」などと称されることも多いのですが、事件を3つ同時に起こすのがオーソドックスです。その内訳は以下の通りです。
① 監護者指定審判申立事件
② 子の引渡し審判申立事件
③ 保全申立事件
この3つの事件の概要ですが、①は、前述の「監護者」を設定してくれという事件になります。夫が監護者指定審判申し立てをしている今回のケースですと「夫をお子様の監護者に指定してくれ」というテーマの事件を起こしているという意味になります。
次に、②は、夫が監護者になれば、夫がお子様を引き取って育てていくことになりますので、妻側にお子様を渡すよう要求する事件ということになります。
最後の③は、一般的な審判事件よりも特に急いで結論を出してほしいと要求する事件ということになります。なお、保全事件の結論が先行して出されるケースもありますが、保全の結論は暫定措置ということになりまして、最終結論ではありません。
(2)まずは調停からではないのか?
離婚の問題についてインターネットなどで調べていると、「いきなり裁判はできません、まずは調停から申し立てる必要があります」といった記事をみかけたこともあると思います。
これは、法律用語でいうと「調停前置主義」というものなのですが、家庭裁判所で取り扱う事件が全て調停前置主義というわけではありません。
監護者指定事件では、調停前置主義が採用されていませんので、いきなり審判を申し立てることができます。
もちろん、調停前置主義でなかったとしても、敢えて調停を申し立てることは可能です。調停の方が話し合いで解決できるので、無用な対立を招きにくいというメリットがあります。
しかし、監護者指定事件は、自分が子供を育てていきたいという事件ですので、その性質上、審判から申し立てるケースの方が圧倒的に多いかと思います。
(3)事件は3つバラバラに進むのか?
上記の①から③の事件は、それぞれ深く関連していますので、バラバラに期日設定されるといったことはなく、同一期日で3つの事件を同時並行で処理します。
但し、③の保全について、結論を急ぐ事情がある場合には、途中で③だけが分離されて、先に結論が出ることもあります。
要するに、例えば、以下のような進行といった具合です(※以下は一つの参考例です)。
〇第1回期日7月21日午前11時から①から③を同時審理
〇第2回期日8月16日午後2時から①から③を同時審理
〇9月5日に③の結論が発令
〇第3回期日9月24日午後3時は、①と②のみを審理
このように保全事件の結論が先行するのは、例えば、結論を急がないと取り返しがつかなくなるケース(子供との国外移住を検討しているケースで、それを防止するために早く子供を取り戻させたほうが良いケースとか虐待がひどく速やかに子供を取り戻させるべきケース等)、申立人側の監護実績が圧倒的で、早く子供を申立人の元に戻してあげるべきケースなどです。
このような特別な事情がない限り、保全事件の結論が先行するケースは少なく、①から③の事件について同時に結論が出ることの方が多いかと思います。
(4)準備する内容は、ほぼ一つで大丈夫
よく事件が3つあると、事件が一つだけのケースよりも「3倍準備しなくちゃいけなくなる」と誤解されている方もいますが、事件は3つでも相互に強く関連している事件ですので、準備する内容は「ほぼ一つで大丈夫」と考えて問題ありません。ただ、保全事件がありますので、手続きは非常にスピーディーに進みますから、短期集中で準備しなければならなくなるケースは多いです。
3.まとめ
・監護者指定を申し立てる場合、以下の3つの事件を一緒に申し立てるのがオーソドックスである。
① 監護者指定審判申立事件
② 子の引渡し審判申立事件
③ 保全申立事件
・監護者指定事件は、いきなり審判から申し立てることも可能であり、審判からスタートという形の方がオーソドックスである。
・3つの事件は基本的に同時並行で処理される。
・事件は3つでも基本的な準備はほぼ一つで大丈夫である。
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