離婚問題

夫が突然監護者指定審判を起こしてきた(5)ー監護者として指定されるための6個のポイント

2020.02.17更新

弁護士秦 

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1.そもそも「監護者」って何だ?


 

(1)前提として親権の意味のおさらい

 監護権よりも、親権という用語の方が馴染みが深い方も多いと思いますが、親権とは離婚後にお子様を育てていく権利のみを意味するわけではありません。

 具体的には、親権には大きく以下の権利が含まれると言われています。

1)身上監護権

2)財産管理権

3)身分行為の代理権

 要するにこれらの権利をまとめて「親権」と呼んでいるということです。

 

 ここでの身上監護権とは、お子様の身の回りの世話(監護)や教育(主として進学や進級等)を決定する権利(責任を伴います)を主として、居所指定や職業の許可といった権利を含む権利です。

 財産管理権とは、お子様の財産を管理についての代理権限を言います。馴染みがある例ですと、TSUTAYAなどでお子様だけでトレーディングカードやゲームソフトなどを売却しようとすると、親御さんの同意を得て下さいと言われると思いますが、これは、親権者に財産管理権があるため、お子様だけで高価な物品の処分等ができなくなっているのです。

 身分行為の代理権とは、例えば、お子様が他の里親の方の養子になりたいと言ったときの代諾権等をイメージしてもらうと分かりやすいかと思います。

 

(2)監護権は、上記の3つの権利の中の一つの権利

 前述のように親権には大きく分けて3つの権利が含まれているのですが、その中の一つである「身上監護権」を切り出したものが、俗に言う監護権というものになります。

 監護者を指定するという場合には、通常、(離婚が成立していない)夫婦のうち一方にお子様の身の回りの世話をする「お墨付き」をしっかりと与えるものだとイメージすると分かりやすいかと思います。

 

 

2.監護者として指定されるための6個のポイント


 

 監護者指定のポイントは実際には多岐に渡るのですが、その中でも特に重要なポイントは以下の6個の点に集約できると思います。

1)監護実績

2)連れ去りの違法性

3)現在の監護状況

4)過去の児童虐待の有無・程度

5)子供の意思

6)面会交流の姿勢

 以下でそれぞれについて詳しく解説していきます。

 

(1)監護実績

 監護実績というのは、お子様と同居中、どの程度お子様の身の回りの世話をしてきたのかということです。

ポイントとしましてはお子様の衣食住にどの程度関わってきたかという視点で考慮されることが多いです。要するに、①「衣」とは、お子様の普段着るものや身につけるものを誰が購入し準備していたか(これには学校・保育園の制服や学校用品等の準備も含む)、小さいお子様だと普段のお着替えやおむつ替えは誰が行っていたのか等のことを指し、②「食」は普段のお子様の食事の支度を誰がしていたのか、小さいお子様だと授乳やミルクあげを含むことになります。③「住」はお住まいの賃貸名義が誰かという話ではなく、普段の躾や教育を誰が行っていたのかという問題です。

 過去の監護実績についてはご夫婦で主張が大きく対立することも多いので、保育園の連絡帳の記載内容等が重要な判断証拠になることも多いです(要するに保育園の連絡帳を夫婦のどちらが記入し、どのような記入がなされているか)。

 

(2)連れ去りの違法性

 前述の通り、監護者指定は、夫婦が別居状態にあることが前提としていますので、夫婦の一方が自宅から出ている状況をもとにした申立になります。そうしますと、お子様と一緒に別居を開始している場合には、それが連れ去りなのかが問題になることが多いです。

 

1)【違法な連れ去りかどうかのポイント1】連れ去り態様

 お子様と一緒に別居することを余儀なくされたとしても、その態様によっては、お子様の心情をひどく害してしまうというケースもありますので、違法な連れ去りかどうかの重要なポイントの一つが、その「態様」ということになります。

 「態様」というのは、分かりやすく言いますと、「連れ去り方」の問題です。

 例えば、大型のバンの後部座席に無理矢理お子様を軟禁するかのような態様で連れ去るケースだとか、保育園の保育士さんの全く目が届かないところで、勝手に園庭に侵入して連れ去ると言ったケースですと、態様そのものが違法な態様といえますので、違法な連れ去りと認定されるケースが多いかと思います。

 

2)【違法な連れ去りかどうかのポイント2】お子様の意思

 ここでのお子様の意思というのは、別居に対してのお子様の意思と言うことになります。

 あなたが別居を余儀なくされた側だとしても、そのことにお子様が納得しないケースもあると思いますし、ある程度の年頃にいったお子様ですと、明確に別居に反対したり、自宅に残るという意思表示をするケースもあると思います。

 このようなお子様の意思に反して別居を始める場合、違法な連れ去りと認定されるおそれがあります。

 なお、まだ年齢が小さい子は、自身の置かれている状況等をしっかりと把握できていないケースも多いので、お子様の意思の確認は6歳前後以上を一つの目安として確認することが多いと思います。

 

3)【違法な連れ去りかどうかのポイント3】それまでの監護状況

 同居生活中の監護状況は、違法な連れ去りかどうかの判断にも影響を及ぼします。

 前述の通り、お子様が6歳前後以上の年齢の場合には、一般的にお子様の意思や別居時の様子についてお子様から直接話を聞くことができますが、お子様の年齢がまだ小さい場合には、お子様の意思確認をすることはあまり期待できません。

 そのため、一般的には、普段お子様の面倒を見てきた奥様がお子様と一緒に別居を開始したという場合には、「違法な連れ去り」とは評価されないケースが多いのが実情です。他方、普段お子様の面倒をほとんど見てこなかった旦那様がお子様と一緒に別居を開始したという場合には、「違法な連れ去り」のおそれがあると見られるケースが相対的に多いように感じます。

 

4)【違法な連れ去りかどうかのポイント4】無断別居イコール「違法な連れ去り」ではない。

 奥様がお子様と無断別居したケース、要するに事前に旦那様に何も別居等の相談をせずに別居を開始したケースでは、旦那様側では「違法な連れ去りだ」と声高に主張なさる方も多いのですが、無断別居と言うだけでは、直ちに違法な連れ去りとは言えないことが多いです。

 「違法な連れ去り」かどうかは、前述のポイント1からポイント3までを総合考慮して決定することが多いです。

 

(3)現在の監護状況

 現在の監護状況については、家庭裁判所調査官が家庭訪問を実施することになりますので、家庭訪問での様子次第ということになります。

 調査官が家庭訪問した際には、室内の様子やお子様の暮らし向き、お子様の様子や調査官と接したときの反応等を見ていくことになります。

 

(4)過去の児童虐待の有無・程度

 例えば、お子様に対して暴力を振るってきた過去があり、そのことでお子様が怪我をしたとか、心の傷を負ってしまったと言った程度に至っている場合には、明確な児童虐待がありますので、そのような親に監護権を認めることは不適切ということになります。

 そのため、極端な虐待があったような場合には、そのことも監護者指定に影響を及ぼします。

 ただ、暴言を吐くことがあったというケースですと、その内容にもよりますが、多少汚い言葉を使ったことがあったとしても、そのことのみで監護者として不適格とされるケースは少ないかと思います。

 

(5)お子様の意思

 お子様が15歳以上の場合、裁判所はお子様の意向を確認しなければならない義務があり、そこでお子様の意向が重視されることになります。

 また、15歳になっていなくとも10歳以上の場合には通常はお子様の意向を確認し、また、6歳前後以上の場合には、現在の暮らし向きについての感想等といった多少漠然とした形でお子様の雰囲気等を確認することが多いです。

 

(6)面会交流への姿勢

 一般的に裁判所は面会交流に積極姿勢です。と言いますのは、面会交流を通じて、お子様は両親の愛情を感じることで安心や自信を得られる、自分のルーツを知ることで人間関係の多様化を図れるといった利点があるからです。

 そのため、しっかりとした理由もなく面会交流を全面的に拒否するとか、理由があいまいであったり裏付けが不十分な場合には、そのことが監護者指定にあたって不利に働くこともあります。

 

 

3.まとめ


・監護者は以下の6個のポイントで決定することが多い。

1)監護実績

2)連れ去りの違法性

3)現在の監護状況

4)過去の児童虐待の有無・程度

5)子供の意思

6)面会交流への姿勢

 

 

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