【弁護士が解説】令和元年12月23日算定表改定発表を受けての考察1
2019.12.23更新
こんにちは、東京・日本橋の弁護士秦(はた)です。本当に役に立つ詳しいブログ解説を目指して解説していきます。
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1.令和元年12月23日算定表改定発表
報道もされていますのでご存じの方が多いと思いますが、最高裁判所の司法研修所が令和元年12月23日改定算定表を公表しました。詳しくは下記リンクの通りです。
婚姻費用と養育費の決め方については、2003年に東京・大阪養育費等研究会が提案・発表した算定表が家庭裁判所にて広く活用されていました(但し、調停の手続の中では、ご夫婦がこの金額で双方納得すれば、合意が形成されますので、調停手続き上は「目安」という位置づけにはなりますが)
このような算定表は、今から16年近く前に作られたものということもあって、その後の経済情勢の変化を反映していないという問題がありました。
そのため、今回、経済情勢の変化等を踏まえ、改定が行われ、上記の通り公表されました(算定表の基礎となる計算式等には変更を加えず、各指数等を最新の統計結果等を踏まえた数字に変更したようです)。
2.改定を踏まえた今後の調停・審判の進行は?
既に調停や審判が開始していて、手続の途中だという場合、これまでの調停や審判の進行が大きく影響すると思いますので、改定表がどの様な影響を与えるかはケースバイケースであり、個別の事例次第と言うことになろうかと思います。
そのため、以下では、一般的な考え方として、ケースに分けて、算定表改定がどの様に影響するかという視点からご説明します。なお、以下の説明はすべて弁護士秦の私見でして、裁判所のオフィシャルの見解等では一切ありません。この点ご留意しながらご覧下さい。
(1)【ケース1】これから調停を申し立てようとしているというケース
別居を開始したけれども、旦那が生活費を払ってくれないので、これから婚姻費用分担調停を申し立てようと考えているとか、旦那が生活費を払ってくれているけれども、こちらの要求額よりも少額しか払ってもらえていないのでこれから婚姻費用分担調停を申し立てようと考えているといったケースを想定しています。
このようなケースでは、第1回調停期日が開催されるのは、早くとも年明けになると思いますので、調停においては、改定算定表での数字を目安として調停が進んでいくことになります(もちろん、ご夫婦がともに算定表を使わずに金額を取り決めたいという希望を持っている場合には、ご夫婦の希望する方法で進行することになりますが)
なお、このケースは「これから新たに婚姻費用や養育費を取り決めようというケース」を想定していますので、既に決まっている婚姻費用等を変更しようというケースについては、後述の「ケース3」をご覧下さい。
(2)【ケース2】既に婚姻費用分担調停の手続中の場合
このようなケースですと、前述の通り、これまでの調停の進行が大きく影響しますので、これまでの調停経緯をふまえた進行が行われます。ただ、当職が多数抱える調停の実情を踏まえますと一般的な傾向は以下の通りではないかと思います。
そもそも、当職が抱えている家事調停では、11月中旬以降の調停期日では、必ず調停委員より「12月23日に算定表の改定版が公表されますので、改定版の公表内容を見てから婚姻費用・養育費を決めるか、今の算定表を元に決めるか考えて下さい」と質問してきており、通常の奥様側は、改定内容を見てから決めたいという意見を述べますので、ほとんどのケースで改定後の表に基づく算定を希望しています。
そのため、ご夫婦の一方が改定表による議論を希望する場合、基本的には改定表を目安として婚姻費用や養育費を決定することになります(もちろん、調停委員から上記のように質問されたときに、敢えてご夫婦双方が「改定前の表で決めて欲しい」という意見を述べた場合には、改定前の表で決めていくことになろうとは思いますが)
(3)【ケース3】ついこの前婚姻費用の額を取り決めたけれども、表の改定を受けて、金額の見直しを希望する場合
例えば、半年前に婚姻費用の金額について「5万円」と正式に合意したのに、表が新しくなって、より多くの婚姻費用をもらえそうなので、改定を求めて調停を起こすというケースになります。
この場合、当初の「5万円」の取り決め方に大きく影響するかと思いますので、ケース分けしてご説明します。
①旦那が5万円で足りるだろうと言うから、もらえないよりマシだと思って5万円で合意したケース
このように、当初から算定表を目にもせずに、旦那側の言うなりに金額を決めている場合には、この「5万円」そのものが、旧算定表の数字よりも低い金額にとどまっているというケースもあります(要するに、例えば、今は5万円しかもらっていないけれども、旧算定表だと10万円もらえるはずだった、改定算定表だと11万円もらえるはずだ、というようなケースです)。
そのような場合には、当初取り決めた婚姻費用の額が少額に過ぎますので、その改定を求める調停(正式には婚姻費用増額調停) を起こすことができ、奥様側が改定表での数字決定を希望する場合、改定表によって算出された数字を目安に調停が進んでいくと思います。
②旧算定表で算出した数字が5万円というケース
例えば、半年前に弁護士同士で話し合いをして、旧算定表で算出される5万円ということで合意したという場合、今回の改定要求は、表の変更のみを理由とする改定要求と言うことになります。
この点は、改定表の説明にもありますとおり「本研究の発表は、養育費用の額を変更すべき事情変更には該当しない」とされていますので、表の変更それだけを理由とする改定は難しいと思われます。
但し、婚姻費用を取り決めてから随分期間が経過し、その後のお互いの収入が大きく変化しているようなケースでは、改定表に基づく変更が認められるケースも出てくるかと思います。
3.その他の影響等は?
(1)自動計算ソフトへの影響
当職自身は、これまでも婚姻費用や養育費の計算は、算定表の基礎となる算定式によって手作業で計算しておりましたので、インターネット上でよく見かける「自動計算ソフト」を使用したことはないのですが、この計算ソフトは、一般の方では利用なさっている方も多いのではないかと思います。
ただ、この計算ソフトは旧算定表を元に作成されているものが多いと思います(令和元年12月23日現在)。
そのため、今後インターネット上の自動計算ソフトのご利用をお考えになる方は、そのソフトが令和元年12月23日算定表改定公表を踏まえた修正を行っているかを慎重に見極めた上で利用するようにして下さい(おそらく、自動計算ソフトの注意書きにて同ソフトの更改日等が記載されていると思いますので、そちらをご確認下さい)。
(2)日弁連公表の新算定表との関係
今回の司法研修所での改定の報道を受け、多くの方からご質問を受けたのですが、日弁連が公表しております新算定表と、上記の司法研修所の改定表とは全くの別物です。
おそらく、今後の実務におきましては、今回発表されました最高裁判所司法研修所の改定表が大半のケースで利用されていくことになると思いますので、日弁連の新算定表と混同等なさらないようご注意下さい。
(3)算定表では決められないケースでは?
例えば、旦那の収入が年収2000万円を超えるケースとか、離婚に伴ってお子様が分属するケースでは、ストレートに算定表を利用することはできません。
そのようなケースでは、算定表の元となる算定式によって正確な数字を計算していたのですが、今後もこのような算定式による計算を行っていくことになると思います。
ただ、この算定式における各指数等の数字が算定表改定に伴って変更になっていますので、今後の算定式への当てはめ等は、弁護士等の専門家にご相談なさった方がよいと思います(但し、改定表の元となる司法研修所報告原文は書籍として令和元年12月末日頃発刊予定ですので、具体的な計算は年明け以降可能になると見込まれます)。
4.まとめ
・これから調停にて新たに婚姻費用等を決めようというケースでは、改定表を目安に調停が進んでいく可能性が高い。
・既に調停手続中・審判手続中という場合には、これまでの進行を踏まえて手続が進んでいくが、既に改定表に基づいて手続を進めたいと奥様側が希望している場合には基本的に改定表を目安に手続が進む可能性が高い。
・既に決まっている婚姻費用等を改定する調停を申し立てようという場合、従前の婚姻費用の決まり方等によって今後の手続の進行が異なる。
・インターネット上の自動計算ソフトは、今回の改定を盛り込んだ計算になっているかを慎重に見極めた上で使用する必要がある。
・日弁連公表の新算定表と今回の改定表とは全く別物なので注意が必要である。
・算定表で決められないケースでの具体的計算は弁護士に相談した方がよい。
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